Space前回登場のカントーネン氏も一目置いた「フランス」は、確かにディスコ史の中では特異な位置を占めております。

まず「発祥地」であるということが第一点。これは1940年前後のヒトラーによるパリ占領時代にまで遡ります。日本の90年の大嘗祭のころのように、「歌舞音曲」は禁止され(日本の場合は自粛だが)、街はひっそりと静まり返っていたわけですが、パリの一部地域でアンダーグラウンドの酒場や踊り場があり、それらがディスコテック(=ディスコ)と呼ばれていたというのが始まりなのです。当時、流れていた曲は主にジャズでした。

その後、幾多の変遷を経て、70年代前半から中盤にかけて、DJがレコードを回す踊り場である一般的な「ディスコ」のスタイルが世界各地で確立したのです。

そんな由緒ある(?)フランスでは、70年代後半にディスコブームに火がついたころにも、一つのムーブメントの発信源となりました。それが今回紹介する「スペース・ディスコ」であります。

火付け役の中心を担ったのは、その名の通り「スペース(=宇宙)」。Didier Marouaniという人物が結成したグループで、シンセサイザー満載の宇宙的な広がりを持ったユニークな音楽で欧州各国のチャートを席巻しました。

当時、フランスでは「(Do You Have) The Force」(76年)の大ヒットで知られるDroids、セローン(Cerrone)、アレック・C・コスタンディノス(Alec R. Costandinos)が、それに隣国旧西ドイツではジョルジオ・モロダーという大物アーチストがそれぞれ“宇宙的ディスコ”を始めていましたが、私は臆面なくそのものずばりの名を付けて、ヒット曲を連発した「スペース」こそ、忘れてはならない「元祖」だと思っています。

なぜ「宇宙」かというと、アメリカが旧ソ連に対抗し、69年に月面着陸を成功させた後、宇宙開発のさまざまなプロジェクトをドンドン打ち出していた時代だったからです。77年に映画スターウォーズが公開されたことろには、ブームは世界中で頂点に達していたのです。

「人間の限りなき欲望を象徴する」という意味で、いかにも関連がありそうなディスコ空間も、スペーシーなダンス音楽とともに、SF映画のような七色のカクテル光線やレーザー光線が乱れ飛ぶ状況となっていきました。もちろん、フロアのど真ん中には、夜空に瞬く星のごとく鎮座する「ミラーボール」様の姿が見えます。

77年といえば、「サタデーナイト・フィーバー」が公開された年でもありますから、「宇宙とディスコ」の相乗効果ぶりは見事なものでした。実際、“宇宙ディスコ族”と目されるアーチストは、「スペーサー」(79年)のヒットで知られるフランス人グループ「シーラ・アンド・B・デボーション」を始め、80年前後まで大量に登場しています。以前このブログで紹介した、PVが笑えるDee D. Jacksonは、偉大な到達点といえるでしょう。

スペースは、77年にアルバム「Deliverance」をリリースして以降、「Magic Fly」(77年)、「Just Blue」(78年)、「Deeper Zone」(80年)と、立て続けにヒット作を発表していきます。中でも代表作は「Magic Fly」で、ここからタイトル同名曲と「Carry On, Turn Me On」(全米ディスコチャート5位)の2つのヒット曲が生まれています。「Just Blue」にも、後にグロリア・ゲイナーもリメイクを歌った「My Love Is Music」(同59位)という「ファンキー&スペーシー」な隠れた名曲が入っています。

写真は、少し前に欧州で発売された「Just Blue」の再発CD。スペースのアルバムジャケットはどれも洗練されていますが、これもその一例。収録音楽ともども、78年という時代を感じさせません(……否、これも時代の象徴か)。