Heatwaveディスコって歌詞もおバカです。恋だの愛だの、さらにはドラッグだのセックス(特に同性愛)だのと言いたい放題。「ふ〜♪ ふ〜♪」みたいなとっぴな掛け声も効果音も、すっかりおなじみです。

日本語では一言では訳せないような「Funky!(最高!、ノリノリ!)」とか「Get Down! (やっちゃえ!、踊れ踊れ!)」のような、特段意味のない言葉も数多く使われています。ジャズピアノの演奏スタイルに由来する「ブーギー(Boogie)」とか、レコードの「溝」に由来する「Groove」なんて、有名なディスコ曲のタイトルとしても頻繁に登場します。部屋でじっくり聴いたり、一緒に歌ったりするのが目的ではなく、とにかく「踊る」ことに主眼を置くディスコの真骨頂であります。

というわけで今回は、数多ある「変てこ常套句ディスコ」のうち、“ブーギーもの”の金字塔といえる「ブギーナイツ」(77年、米ポップチャート2位)で知られるヒートウェーブ。発祥は旧西ドイツ。同国の駐留米軍兵だったジョニー・ワイルダーとキース・ワイルダー兄弟が、スティービー・ワンダーやクール・アンド・ザ・ギャングのコピーバンドを始めたのがきっかけでした。後に英国に移住し、音楽家のロッド・テンパートンが加入して活動を本格化。ブギーナイトが英米で大ヒットしたというわけです。

ただし、最初のヒット曲がウサン臭さたっぷりのブーギーものだとはいえ、この人たちは本質的に非常に“真面目”です。ブギーナイツにしても、イントロのジャズっぽいハープ演奏から徐々に盛り上げていって、「ぶ〜ぎ〜ないつ♪ お〜お〜お〜♪」と男性コーラスが入り、「ぶーぎないっ!」とダンサブルに展開していくアレンジは、ほかのディスコ曲ではなかなかみられない凝った雰囲気であります。

もう一つのディスコヒットである「グルーブ・ライン(Groove Line)」(78年)というベタな曲も玄人ウケする内容。イントロのシンセ使いやギターワークが一風変わっていています。

ヒートウェーブは、「アーバン・クール・ファンク」とか「スムーズ・アダルト・ファンク」などと形容されることもあります。ジャズ、フュージョンの要素もある実力派。実際、バラードでも「オールウェイズ・アンド・フォーエバー」(77年、R&Bチャート2位)のような大ヒットを出しています。

いやあ、こうみていくと、この人たちの場合はぜんぜん“おバカ”じゃないことに気がつきました。…とすると、ディスコ史的には重要人物たちではあるものの、私にとってはどこか物足りない。「グルーブライン」はまずまずですけど、「ブギーナイツ」は、曲そのものはいいのに、どうにもノリ切れません。ぜんぜんブーギーブーギー♪ではなく、ゆる過ぎます。

結局、このバンドも82年に出した5枚目のアルバム「Current」を最後に、表舞台からは消えていきました。実働およそ5年間と短命だったのです。メンバーのうちのロッドは、80年代にマイケルジャクソンなどに「スリラー」などの曲を提供して有名になりましたけどね。

「ブギーナイツ」については、83年にLafleurというグループが、シンセドラムをがしがし使い、アップリフティングにリメイクしておりまして、私はこっちの方は大好きです。札幌のディスコでもかなりヘビープレイされておりました。

写真のCDは、10年ほど前にソニーから出た米国盤ベスト。音質は申し分なく、「グルーブライン」と、79年発売の3前目のアルバムに入っている「Eyeballin'」という曲のそれぞれ12インチバージョンが収録されていて、オトクといえましょう。