Lippsリップスは「一発屋」ということで、なにかと軽視されているディスコアーチストだと思います。「いやあ、カルいカルい。代表曲だけど、『ファンキータウン』の薄っぺらい音作りはヒドイですねえ」……てな声が聞こえてきそうですが、私は断じて評価してあげたい人々です。

まず、リリースされたのが1980年というのがイイですね。だってアメリカでディスコが「死の宣告」を受けた翌年なんです。それなのに、あんな「ポップ、ポップ、ポップミュージック♪♪(注:「M」という人の79年の大ディスコヒット)」みたいなエレクトロなもろディスコというものが、売れたこと自体が快挙です。

そもそも、この曲、よ〜く聴いてみると、なかなかに完成度が高い。……というか、シンプルなメロディーに哲学があるように思います。ビートはしっかりしているし、ボーカルはちゃんと上手。老若男女(?)にとって踊りやすいという魅力もある。よ〜く聴けば聴くほど、味わいを(私は)感じます。

音楽って、シンプルさが大事だと思うのです。私は、この曲を聴くと、かの世界の手品師御用達の「ポップコーン」(1972年、ビルボード一般チャート9位)を思い出します。シンセサイザーの元祖ムーグを使った奇作ですが、この曲って、ディスコも含めて驚くほどリメイクされている名曲。喫茶店や、駅前のアーケード街でも耳にします。覚えやすく耳にこびりつくような旋律は、意外に普遍的なのであります。

人間の耳は所詮、アナログです。シンセサイザーも、ポップコーンのころに比べるとはるかに進歩しているわけですけど、複雑かつ洗練されすぎて食傷気味になることがある(テクノ、トランス、ドラム&ベースなどなど)。「単純なメロディー」って、今でも通用する音楽の柱なのではないでしょうか。

ファンキータウンは、そんなシンプル・イズ・ベストな感覚を思い起こさせてくれる一品。一応、というか、スゴイことに一般チャート、ディスコチャートともに4週連続1位を獲得しています。R&Bチャートでも最高2位を記録した超特大ヒットだっだのです。

ただし、バンド名「リップス」が、「リップシンク=Lip-sync=口パク」から来ているだけあって、いかがわしさも満点。本国の米国以外では、金髪白人女性がボーカルのふりをしてTV番組などに登場しているのが普通なのでした。上記のYouTubeのリンクでも、お分かりですね。白人女性は「Doris D」という替え玉歌手(欧州では結構売れた人だが)であり、本当は歌唱力に定評のあった黒人女性歌手(Cynthia Johnsonという人)が黒衣のリードボーカルだったのです。

でも、いかがわしさはディスコの大事な要素ですし、ここでこだわるのは野暮というもの。しかも、「ファンキー・タウン」以外の曲でも、けっこうR&Bもしくは「ザ・ファンク」している名作があります。特に「All Night Dancing」とか「Designer Music」なんて、しっかりと味わっていただきたい珠玉の作品であります(手放しで絶賛)。

さらに言えば、このバンドは米ミネアポリスがルーツであります。そう、かのプリンスと同じ。アレンジ、ミックスといった音作りの基本ラインについては、リップスとプリンスは共通しているとする見方もあります。それに、87年には、オーストラリアの「スード・エコー」という変なバンドが「ファンキー・タウン」をリメイクして、ビルボード一般チャート6位(ディスコは4位)にまで上昇させているのです。やっぱり侮れないリップス!!!(絶賛)。

それでも、悲しいかな、この人たちもアルバム4作品を残して完全消滅。80年代半ばには、ディスコ時代の本当の終焉(特にアメリカ)を宣言するかのように、忘れ去られていくのですけどね。ダンス・クラシックスとしても、評価はものすごく低いわけです。

再発CDは写真のベスト盤に尽きます。これだけは、どこでもけっこう安易に手に入ります。原盤はディスコの最重要レーベルであるカサブランカ。とりわけ、79年に出した「Rock It」は必聴。ファンキー・タウンのブレイクを予感させる小気味よい名曲であります。重ね重ね、「ファンキー・タウン」だけで評価してほしくないバンドなのです。おどけたYouTube動画をみても、決して苦笑しないでほしい、と心から願っております。