Salsoulトムモールトンが活躍した'70年代後半、ニューヨークはディスコのるつぼ。ブロードウェイなどの繁華街地区では、ザ・ロフト、ギャラリー、パラダイス・ガラージ、スタジオ54などなど、有名店が軒を連ねていました。

中でもパラダイス・ガラージは、白人上流階級や有名人が集まるスタジオ54のライバル的存在として、ゲイや黒人やヒスパニック系といったマイノリティーからカルトな人気を集めていました。

この店でカリスマDJとしてならしたのがラリー・レヴァンという人物。特にサルソウル・レーベルというディスコレコード会社の曲を好んでかけていました。

サルソウルは、文字通りサルサとソウルを合わせたようなラテンファンクな音が特徴でした。ロレッタ・ハロウェイとか、ファースト・チョイスとか、インスタント・ファンクのようなディスコのスター、グループも輩出。パラダイス・ガラージ人気ともあいまって、一時代を築いたわけです。

会社自体は85年に消滅するのですが、「ハウス」や「クラブ」の90年代に入ってから、再び脚光を浴びることになります。とりわけ、昔の曲を見直す「レアグルーブ」現象が世界中のダンスミュージックシーンに起きたからでした。

でも、サルソウルって、リアルタイムの80年前後の日本では、本国米国に比べると、さほど相手にされていませんでした。私自身、ディスコでも派手にかかっていた記憶はなく、輸入レコード店で12インチ(トレードマークの雲と虹をあしらったラベルやジャケット)を見かけた程度です。

サルソウルやパラダイスガラージが再発見されるにつれて、ラリー・レヴァンも伝説のように語られますが、これも日本では最近になってからのことで、リアルタイムでは誰も知らなかったといっても良いでしょう。

昨年にはラリーレヴァンとパラダイスガラージをテーマにした「マエストロ」なんていう映画も作られました。やはり「あの時代のディスコ映画」ということで、私もDVDを購入しましたが、今ひとつ感動しませんでした。ラリー・レヴァンも超人気だったのは分かるんですけど、曲と曲とをつなぐ技術が非常に下手。テンポが合っていないことが多いんです。

この違和感の一番の源はなんだろう…と私なりに考えますと、パラダイスとかサルソウルって、ディスコ的な華やかさや陽気さ(=「おバカさ」ですね)に欠けているような気がします。変に洗練され過ぎていて、私はさほど好きになれません。「ディスコ」ではなくて、「クラブ・ミュージック」や「ハウス・ミュージック」に近い印象があります。ラリーレヴァンがあまりに神格化されるのも「ちょっとなあ」と思います。

その意味では、パラダイスよりも、前に紹介したスタジオ54の方がアホッぽくてずっと好感が持てます。パラダイスやサルソウル系の曲は今ひとつ単調ですし、どれも似たように聞こえてなりません。私の好きなシンセサイザーもあまり使われていません。

まあ、そうは言っても「ディスコ見直し」の動きがあるたびに語られる名門サルソウルではあります。私もCD、レコードはかなり所有していますし、ときどきBGMとして聴いています。再発CDはここ10年ぐらいの間、「ここまですごいのでしょうか!」と言わせるほどたくさん出ています。

おススメCDは写真のマスターカッツのベスト盤。Vol.1と2があって、サルソウルのいろんなアーチストの代表曲が12インチバージョンで入っています。「トム・モールトン・ミックス」とか、「シェップ・ぺティボーン・ミックス」とか、「ラリー・れヴァン・ミックス」といった風に、リミキサーの名前が冠してあります。

Vol.1には、世界初の12インチバージョンといわれる「テン・パーセント」(ダブル・エクスポージャー)が入っています。Vo1.2には、電気グルーブが7、8年前に出したヒット「シャングリラ」の原曲である「スプリング・レイン」(シルベッティ)も収録。この曲はシンセサイザー(フェアライト)をうまく使っていて佳曲だと思います。