Ashford & Simpsonモータウン出身のディスコアーチストということでは、アシュフォード・アンド・シンプソンも忘れられない人々です。R&B界全体でみても、珍しい売れ線夫婦デュオであり、作曲家としても1960年代から名曲を数多く世に送り出しました。

彼らの活躍時期は、60年代後半から73年までの「モータウン期」、73年から81年までの「ワーナー期」、82年から89年までの「キャピトル期」の大きく3つに分類されます。

もともと教会のコーラス仲間だった彼らは、60年代前半、2人で本格的な音楽活動を開始。まず66年、レイ・チャールズに「Let's Go Get Stoned」という曲を提供し、これが全米R&Bチャートで1位を獲得したことで、名前が広く知られるようになりました。このやや時代がかったシブ〜イ大ヒットを受けてモータウンと契約することになり、マービン・ゲイ&タミー・テレルの「Ain't No Mountain High Enough」(67年、同3位)、ダイアナ・ロスの「Rmember Me」(71年、同10位)などの(これまたかなりシブい)ヒット曲を作りました。

「Ain't No…」については、70年にダイアナがリメイクしてR&Bチャートで1位を獲得しています。81年にはボーイズ・タウン・ギャングが「Remember/Ain't No…」をセットでリメイクして、全米ディスコチャートで5位まで上昇しております。黒人音楽史、さらにディスコ史的に考えても、とにかく早い段階から、この夫妻は才能を開花させたわけですね。けっこう偉大です。

ところが、ニック・アシュフォードとヴァレリー・シンプソンの夫婦デュオとしての才能は、モータウンでは開花しませんでした。「アシュフォード・アンド・シンプソン」名義で出したアルバムはいずれもヒットせず、そのことがモータウンとの契約解除につながってしまいます。

73年にワーナーに移籍した彼らは、ソングライターとしてチャカーンの「I'm Every Woman」(78年、R&B1位)といった曲を提供することもやりましたが、主に夫妻名義での歌手活動に重心を移しました。このワーナー期こそ、ディスコがブームになった時期と重なっているわけで、この間に、彼らはディスコの名曲を次々と繰り出しました。

中でも、ガラージ・クラシックとしても知られる「Found A Cure」(79年、ディスコチャート1位)、「Love Don't Make It Right」(80年、同7位)、それに12インチが超レア盤で、オークションで10万円以上の値をつけるほどの「One More Try」(76年、同9位)、シルベスターのリメイク・ヒットで知られる「Over And Over」(77年)、グラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップスのリメイクヒットで知られる「Bourgie Bourgie」(77年)、「Get Out Your Handkerchief」(80年)などが代表曲として挙げられます。

A&S夫妻の曲は、どれも歌詞のメッセージ性が高く、エレガントなメロディー・ラインが特徴。ディスコブームの真っ只中の作品も、安易なビート展開を避け、ごたついた感じにはなっていません。さすがに「ソングライティングの職人」といった風情ですね。デュエットの歌声も、渋めのファルセットのアシュフォードと、艶っぽい大人びた声のシンプソンの男女パートの個性差がうまく出ていて、なかなか堂に入っています。

ただし、私が一番好きな「Bourgie Bourgie」は、なぜかインストです(苦笑)。これは、当時2人があまりに多忙だったため、レコーディング期限までに歌詞が完成しなかったからだとされています。このため、一般的にはグラディスのリメイク(80年、R&Bチャート45位)の方が評判がよろしいようで。

さて、ワーナーからキャピトルに移った彼らは、「Street Corner」(82年、R&B9位)というまあまあのヒットを出した後、「Solid」という曲がR&Bでは1位、全米一般チャートでも12位に入るなど、彼ら名義の最大のヒットを記録しました。これはもはやディスコではなく、「ブラコン」な曲です。私も札幌のディスコで、開店直後あたりのどうでもいい時間帯に聞いた記憶がありますが、“踊りにくさ”ひとしおです。まあ、テレビのMTVでもPVをよく見ましたし、メジャーとしての地位を確保したという点では金字塔になりましたね。

やはり、この人たちの真骨頂はワーナー時代にあると思います(きっぱり)。で、今年発売された写真の2枚組米盤CD「Warner Brothers Years: Hits, Remixes, and Rarities」の1枚目は、ワーナー期の12インチのレア音源が満載で、非常によい内容になっています。音質も及第点。いくつか脱落している名曲もありますが、もともとDJ用プロモ盤が多いことなどから、ほとんど入手不可能な12インチバージョンばかりが入っています。レコードに数万円も出費するよりは、よほど合理的ではないでしょうか。

一方、2枚目の「現代リミックス」のCDの方は、トム・モールトン御大やM&Mらベテラン・ディスコミキサーが参加して、原曲を生かすように努力していますが、「やっぱりオリジナルが上」とする声も多く微妙な出来であります。