Marlena Shawいやあ早いもので今年も終わりですね。なかなか更新できないでいますが、今回はマリーナ・ショウということで。

ジャズ/ソウル畑の本格派シンガーとして知られる彼女は、44年にニューヨーク州に生まれ、大御所カウント・ベイシーのバンドのボーカルを務めていました。まさに正統派でして、ソウル系では67年の「Mercy, Mercy, Mercy」(米R&Bチャート33位)が有名です。日本では、ロバータ・フラックのバラードの名曲をカバーした「Feel Like Makin' Love」(74年)も人気です。

そんな彼女は79年、「Take A Bite」というアルバムを出しました。レコードA面がダンサブルな6曲で構成するメドレーになっております。

このアルバムはとても、とて〜も無防備な“ザ・ディスコ”なのですが、何しろ発売年が79年ですので、アメリカでは「そろそろディスコやばいかな」という時期でした。案の定、それほど売れなかったということになっています。

それでも、A面メドレーを構成する曲のうち、「Love Dancin'」(米ディスコチャート49位)と「Touch Me In The Morning」(チャートインせず)はなかなかの出来です。特にダイアナ・ロスのヒット曲のカバーである後者は、今ちょっと聴いてみたら、大音量だと盛り上がる感じです。ディスコですから当たり前でしょうが(笑)。ボーイズ・タウン・ギャング の往年のディスコメドレー「Dance Trance Medley」にも使用されていますし。何より、オーケストラのピアノ、ホーンセクションなどの生音がいい感じをにじませています。

彼女は80年以降、ヒット曲に恵まれず、正統派ディスコを出したことすら忘れられてしまったかのようです。でも本来、非常にソウルフルな歌声の方ですので、現在もツアーなどの活動はしています。日本にも時折姿を現しているようですな。

マリーナさんのCDの再発ぶりはまずまずです。写真の「Take A Bite」はちょっとレア化してますが、それよりもまず米ソニー盤ベスト「Go Away Little Boy - The Sass And Soul Of Marlena Shaw」がよろしい。幻とさえいわれた「Love Dancin'」と「Touch Me In The Morning」の各12インチバージョンがしっかり収録されています。

それにしても、79年って、ホントに節目だった年です。世界史的にみても、いまなお世界に影響を与えている新自由主義(新保守主義)のパイオニアである米レーガン大統領や英サッチャー首相が登場し、“強いぞ米英!”が復活する前夜でした。

音楽もしかり。80年代に入ると大衆受けする曲調がガラリと変わり、平和でお気楽な「なよなよディスコ」(?)は(ほぼ)駆逐され、硬質でカキカキ鋭角的なポップ/ロックサウンドがもてはやされるようになりました。一方で「反逆の砦」パンクも、軌を一にして凋落しています。ヘンに楽観的でポジティブで「知らぬが仏」な80年代。前回紹介した「変てこディスコ」イリュージョンだって、この激動の中で文字通りイリュージョン(幻)化したわけです。

そして何よりも、人件費がかかる多人数バンド構成やオーケストラが姿を消し、いよいよ文明の利器シンセサイザーが“楽器”の中心になるころでした。商業主義だと批判されたディスコでしたが、実はもっと広告代理店的で商業的な「ザ・商業ロック」(スティックスとかジャーニーとか)が全盛になったりしてですね。

まあ、私個人は、「シンセいいじゃん」派なので、かえってもっと激しくディスコ的に音楽にはまるという驚きの展開になったのですけど、伝統を重んずるディスコ好きの人々の中には、「シンセに頼るようになった80年以降は質が落ちた」と訴えるムキも多いのです。

怒涛の節目の79年、焦ったマリーナ・ショウは最後に花を咲かせたかったのか否か。いや、油断しただけなのか。セールスの低迷したソウルの女王アレサ・フランクリンでさえ奇しくもこの年、「La Diva」というトホホなもろディスコアルバムを発表し、敢えなく撃沈しているわけです。

最後に、オマケとして私がおススメする「埋もれた名曲」を紹介しておきましょう。ディスコブームに一発逆転の望みを賭け、しかしブームには少々間に合わず、見事に散った妙齢の無名R&B歌手ロザリン・ウッズ(Rozalin Woods)が、大好きな彼氏をほかの女に取られてしまった少女の切ない乙女心を歌い上げました。曲は「Whatcha' Gonna Do About It=ねえあなた、どうするつもりなの?」(79年、米ディスコチャート36位)。この手の歌手は当時、ディスコ界には掃いて捨てるほどいたわけです。けだし、“散るは桜”・・・・・・