Sugar Hill「GM国有化って、ソ連かい!」――というわけで、自由と平等が調和した「社会主義的資本主義の殿堂」ディスコの考察は続きます。今回もブレイクダンスに目を向けたいと存じます。

フロアでのブレイクダンスはちょいと御法度。でも、その音楽は世界で広く受け入れられ、百花繚乱あめあられ、いろんなブレイクダンス曲が続々と噴き出してきたのが1980年代であります。そして、ブレイクダンス曲隆盛の背景には、いうまでもなくアメリカの黒人やラテン系の若者が広めたサブカルチャー「ヒップ・ホップ」があります。

ヒップ・ホップ・カルチャーには、ブレイクダンスはもちろんのこと、壁に絵を描くグラフィティ・ライティングやファッション(アディダスのスーパースターなど)も含まれますが、やはり人々の心と体を動かして止まないミュージックが中核。特徴としては、ラップ、サンプリング、スクラッチ、打ち込みドラムビートなどが挙げられます。なによりも、ベトナム戦争による経済疲弊やインフレ、政治不信がアメリカを襲った70年代前半に、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都会に住む黒人を中心とした人種的マイノリティーや貧困層が始めた、という点が重要です。

ヒップホップ音楽は、以前に少し紹介したシュガーヒル・ギャングの「ラッパーズ・デライト」(79年、米ディスコチャート14位)に代表されるように、ディスコのおいしいところをサンプリングによって巧みに取り入れて発展しました。ラップ自体、登場したころは「ディスコラップ」とも呼ばれていました。そもそもダンスを強く意識していますし、ディスコを通して発展してきた事実は否定しようがありません。

ただ、ニューヨークのディスコといえば、「スタジオ54」のように金満と放蕩の象徴のような店も少なくありませんでしたから、ブロンクスやハーレムの貧困青少年層にとっては、お金の要らないストリートがあくまでも主舞台。その意味で、本流音楽として隆盛を極めたディスコに対抗するアンチな側面も強く出ています。「ディスコに毒されないソウルやファンクの伝統を受け継いでいる」との評価もあります。

「初のラップヒット」とも言われるラッパーズ・デライトを(ラップで)歌った3人組ラッパーのシュガーヒル・ギャングは、「シュガー・ヒル・レコード」の所属アーチスト。このインディー・レーベルは、ポルノチックなソウルヒット「Pillow Talk」(73年)の歌手として知られるシルビア・ロビンソンが中心になって立ち上げたもので、彼女が発掘したラッパーたちによるラッパーズ・デライトの大ヒットによって、いきなり注目株になったのでした。

シュガー・ヒル・レコードは、その後、ヒップホップレーベルの草分けとしてヒットを大量に世に送り出します。代表アーチストには、Grandmaster Flash & The Furious Five、Treacherous Three、West Street Mobなどがいて、いずれもダンスやR&Bチャートのヒットを次々と繰り出しました。ポストディスコの売れ筋を模索しながらも、「ラップなんて歌じゃねえし」と敬遠しがちだったメジャーレーベルを尻目に、どんどんと富を生み出しました。

他曲からの「盗作」を疑わせるサンプリングの問題など、成功の「影」の部分がつきまとってきたのは確かですが、貧しさや暴力に苛まれる黒人やマイノリティーの社会に、カネと力と希望を与える存在になったとはいえるでしょう。いまなおシュガーヒルは、後に続いたトミーボーイやセルロイドレーベルなどと並ぶオールドスクールのヒップホップ音楽の砦として君臨しているわけです。

日本のディスコでも、いきなりブレイクダンスをかます客は少なかったにせよ、シュガーヒル・レーベルの曲自体はけっこう流れていましたし、それなりに好まれていたようです。私自身はラップがあまり好きではなかったので、フロアでかかってもパスしがちでしたが。

シュガーヒル系でわりと好きなのは、以前紹介したインクレディブル・ボンゴ・バンドをサンプリングしたもろブレイカー「Break Dance-Electric Boogie」(West End Mob、83年、米ディスコチャート52位)ですね。ボコーダー風シンセ、ちょっと牧歌的なスクラッチ、そしてもちろんボンゴの音色がほどよく絡み合っており、これはイントロを聴いただけで、逆立ちしなくても髪の毛が逆立ちます。その兄弟曲のような「Apache」(Sugarhill Gang)も、一風変わったインディアン風味のブレイクダンス曲として面白いと思います。

ほかにも、「私はトーキョー好き!」との変な日本語ラップが入る「All Night Long」(Kevie Kev)とか、トニー・バジルの「ミッキー」に似たやたらとアップテンポでヒップホップらしからぬ異色曲「At The Ice Arcade」(Chilly Kids)が印象に残っています。

シュガーヒル・レーベル系アーチストのCDは、ものすごくたくさんあります。写真はCD5枚と12インチレコード1枚がセットになった「The Sugar Hill Records Story」。レコードが入っているのでやたらとデカイのですが、その分でかいライナーノーツも入っているし、入門盤としてはうってつけだと思います。