Blondie「悲しくて、やがて楽しきディスコかな」――というわけで、アメリカ・ニューヨーク発のグループ「ブロンディ」が、ロック系ディスコの名曲「コール・ミー」(1980年、米ビルボード一般チャート1位)を大ヒットさせたのは80年のこと。アメリカで「Disco Sucks!」(世に言う「ダサいぞディスコの乱」)が勃発し、ディスコが事実上の死の宣告を受けた翌年でした。

コール・ミーはヒット映画「アメリカン・ジゴロ」のサントラ収録曲。サントラのプロデュースは、かの“電子ディスコの神”ジョルジオ・モロダーが担当しております。

ブロンディは、往年の名女優フェイ・ダナウェイを思わせる“妖しげセクスィー”の金髪ボーカル、デビー・ハリーがなんといっても主役です。結成は70年代半ばで、もともとはパンク・ロック音楽を志向しておりました。

しかし、まったく売れることはなく、音楽でメッセージや思想を過激に発信する「パンク魂」にも嫌気が差してきました。45年生まれのデビーは、60年代半ばから歌手活動を続けてきて、このとき既に30代も半ばにさしかかろうとしていました。

焦りもあったのでしょう、彼女たちは「素直に楽しく踊れるポップな曲を作ろう(素直に売れたい!)」と思い立ち、イメージチェンジを図ったところ、うまい具合に大成功を収めたのでした。

つまり、前回紹介したアディクツやキュアーやクラッシュやンニュー・オーダーなど英国勢と同様、パンクに源流がありつつも、「宿敵ディスコにちゃっかり便乗組」だったでのあります。言い換えれば、ディスコが本当には死んでいなかったからこそ、転身ブロンディの成功が現実になったのであります。

70年代半ばから後半にかけて、英国を中心に隆盛を極めたパンク音楽。しかし、アメリカでもラモーンズなどのパンクバンドがしっかり根をおろしていました。特に人種の坩堝(るつば)ニューヨークは、なかなかの「アメリカン・パンク」のメッカとして君臨していたのであります。その末端に、デビー・ハリーたちも加わっていたのです。

実は、この人たちのディスコ化、ニューウェーブ(ポストパンク)化は、コール・ミーよりも2年前の78年に発表したアルバム「Parallel Lines」の「ハート・オブ・グラス」が原点です。この曲は、米ディスコチャートでは意外にも最高58位と振るわなかったのですが、どこかノンジャンルな曲自体の完成度の高さ、デビーの“インパクト強烈”なキャラクター、それに珍しいアメリカ発ニューウェーブであったことも手伝って、一般チャートではなんと1位に輝いております。

さらに80年発表の「AutoAmerican」からは、鐘の音とラップを取り入れて斬新だった「ラプチュアー」と、レゲエな雰囲気横溢の「夢見るNo.1(Tide Is High)」が、2曲カップリングで米ディスコチャート1位を獲得しています。ほかにも、「Denis」(77年)、「Sunday Girl」(78年)、「アトミック」(79年)などもディスコ系の人気曲でした。

一般チャートでの躍進はとにかく目ざましく、ハート・オブ・グラス以降、「コール・ミー」、「夢見るNo.1」、「ラプチュアー」と、79〜81年のたった3年の間に4曲もが1位になったのでした。各曲とも、アメリカだけでなく、欧州や豪州でも大ヒットしました。

センセーションを巻き起こしたブロンディですが、デビーたちは、「売れるコンセプトでやれ!」などと何かと口を出してくるレコード会社に対し、またぞろ嫌気が差してきました。82年に出した6枚目のアルバム「The Hunter」を最後に、あっさりと解散してしまったのです。

その後、デビーはソロ活動に専念して、“ドラッグディスコ”の「Rush Rush」(83年、ディスコチャート28位)や、確信犯的ユーロビート風味の佳曲「In Love With Love」(87年、同1位)などのディスコヒットを出し、まずまずの活躍ぶりでした。私自身、ブロンディ時代、ソロ時代ともども、彼女の曲はディスコのフロアでよく耳にしたものです。とりわけ、少し鼻にかかったような、あまり比類がない特徴的な声に魅力を感じます。

若いころはドラッグに走るなどの苦悩の時期を経ており、遅咲きの苦労人でもあったデビーは後に、ブロンディ時代を振り返って、「私たちは、人々の頭の中に既にある普遍的無意識に訴える音楽を作るように、懸命に努力した。ビートルズもそれで成功したのよ。それはクラシック音楽にも言えることね」(CD「Atomic/Atomix, The Very Best Of Blondie」ライナーノーツより)と述懐しています。

バンドというのは、伝統的な音に向かえば向かうほど、大衆に受け入れられるものだというのです。スイスの心理学者ユングばりの発想であり、なかなか説得力がある言葉だとは思います。その「受け入れられる音楽要素」こそ、ブロンディの場合は「ディスコ」だったといえるのかもしれません。

上写真はハート・オブ・グラス収録の「Parallel Lines」。ブロンディは近年、高音質デジタルリマスターによる再発CD化が進んでおり、入手もかなり容易です。