Dazz Band Let It Whipハービー・ハンコック、ハービー・マン、ジョージ・デューク、クインシー・ジョーンズ、クール・アンド・ザ・ギャング……。これまでジャズ畑のディスコミュージシャンは数多く紹介してきましたが、今回はその系譜に連なるゴキゲンな8人編成グループ「ダズ・バンド」であります。

ディスコ全盛期の1970年代後半、中心人物ボビー・ハリス(Bobby Harris)が米オハイオ州クリーブランドで「キンズマン・ダズ(Kinsman Dazz)」の名で結成。「思いっきり売れてやろうぜ!」と思ったのか、コンセプトは最初から「ダンサブル・ジャズ」でして、フロア受けのよい四つ打ちビートの明確な曲作りを展開しました。ダズバンドとはつまり、「Danceable Jazz(踊れるジャズ)」を省略した造語から来ているのです。

70年代のキンズマン時代はあまり注目されなかったのですけど、1980年にモータウン・レーベル入りして俄然、元気を出してきます。80、81年にそれぞれ発表したアルバム「Invitation To Love」(収録曲「Magnetized」)と「Let The Music Play」(表題曲)は、「ブーム終わっちゃったのにディスコで〜す」といった感じで少々ウケが良くなかったものの、82年発表の「Keep It Live」で大ブレイク!シングルカット「レット・イット・ホイップ(Let It Whip)」がなんと一般チャートで5位まで上昇する大ヒットを記録したのです。この曲はR&Bチャートでは1位、ディスコチャートでは2位になっています。

レットイットホイップはまあ、なんと申しましょうか、前作あたりまで残っていた「遅れてきたディスコ感」を払拭し、彼らの音楽の源流でもあるオハイオ・ファンクやジャズ・フュージョンの要素もお洒落に取り込んでおりまして、「うまくまとめやがったな」という技ありの一曲だと思います。クール・アンド・ザ・ギャングやコン・ファンク・シャンなどに代表されるように、当時はディスコの熱狂からはひとまず醒めて、シンセサイザーの打ち込み音を本格導入した“メロディアスな都会的ディスコ”が流行していたので、ちょうどピッタリはまったのであります。

上の写真はまさにそのレットイットホイップが入った「Keep It Live」。輸入レコード屋や貸しレコード屋では本当によく見かけたものです。もちろんディスコでも盛んにプレイされていました。私自身は当時、ボーイズ・タウン・ギャングとかシルベスターあたりのハイエナジー系が好みだったのですが、この曲のときには“フロアダッシュ”の波に加わっていたのを恥ずかしく思い出します。

彼らは、その後もアーバン&ファンキーな曲を作り続け、黎明期のテレビゲームを思わせる効果音が入った「ジョイスティック(Joystick)」のほか、「チーク・トゥ・チーク(Cheek To Cheek)」、「オン・ザ・ワン(On The One)」、「レット・イット・オール・ブロウ(Let It All Blow)」などのフロアヒットを放っています。しかし、いずれも「レットイット…」を越える結果を出すには至らず、80年代後半には表舞台から消え去っていきました。

マイルス・デイビスのようにディスコ・ムーブメントに見向きもしなかった硬派ジャズミュージシャンもたくさんいますが、もともと自由で即興性の高いジャズは、ファンク、フュージョンなどとも融合しながら「ザ・ダンサブル」に移行しやすい性質がありました。人種や国籍や年令や貧富といったあらゆるを境目を超越して世界中に伝播していったディスコのフロアには、もともと非常に相性がよかったのですね。

ダズ・バンドは活躍期間は短かったのですが、“脱ディスコブーム期の高品質ディスコ”を世に送り出した黒人バンドとして、フロアフリークたちにとても強い印象を与えたことには違いありません。

再発CDは代表作「Let It Live」のほか、80年作の「Invitation To Love」も作られています。個人的には伝統的なディスコ風味が横溢する「Invitation…」がおススメではあります。それと、巷では500円ぐらいで叩き売りされている下写真のモータウンレーベルのベスト盤が、主なヒット曲を網羅していて意外に完成度が高いと思っています。

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