Celi Bee私は小学6年生から中学生にかけて、朝から深夜までラジオに熱中しました。なに?「クラい」ですって? そんなことありませ〜ん。なぜなら、立派な中年になった今でも、「ラジオを聴くこと」がディスコ音楽鑑賞に次ぐほどの楽しみなのですから(懲りないトホホ)。

さて、ラジオの洋楽番組では1970年代後半の当時、「ヤングマン」(西条秀樹)の原曲「YMCA」(ヴィレッジ・ピープル)に代表されるディスコ音楽が盛んにかかっていました。それから、「ハロー・ミスターモンキー」(アラベスク)とか、「ダンシング・クイーン」(アバ)とか、「セプテンバー」(アース・ウインド&ファイアー)とかね。

ディスコブームの真っ只中、ぽんぽこぽんとディスコミュージックが綺羅星のごとく生まれては消えていくのです。世界が享楽主義にうつつを抜かし、もはや正気と狂気の境目がありません。

そんな“確信犯ディスコ”の一つとして、ラジオでとても執拗にかかっていて印象深かったのが、今回紹介するセリ・ビーの「Macho」(邦題:恋するマッチョ、78年、米ディスコチャート23位)であります。ゲイカルチャーがらみのタイトルからも推察可能なように、ドンドコ、イケイケの完全無比な一曲です。まずは往年の和田アキ子…いや前田美波里ばりに大柄かつスタイリッシュなご本人のマッチョ映像をYouTubeから…。



セリ・ビーさんはプエルトリコ人の父母を持ち、本名はセリダ・イネス・カマチョ(Celida Ines Camacho)といいまして、米ニューヨークに生まれました。60年代に音楽家のペペ・ルイス・ソト(Pepe Luis Soto)と結婚し、夫婦を中心にした「Celi Bee & Buzzy Punch」というグループを作ってディスコミュージシャンとしての活動を本格化させました。

70年代後半になると俄然、勢いを増し、ヒスパニック系が多く住むフロリダ州マイアミのディスコ・レーベル「T.K.」から、「Macho」(上写真)のほか「Superman」(78年、米ディスコチャート3位)、「Boomerang」(78年)、「Fly Me On The Wngs Of Love」(79年、ディスコチャート16位)などの南洋系ディスコヒットを次々と放ちました。

80年代に入ると、70年代までのドンドコディスコの発展形であるハイエナジーサウンドの影響を濃厚に感じさせる、シンセサイザーぶいぶいの「I'm Free」(83年)とか、これまたシンセサイザーとドラムマシーンがてんこもりのフリースタイルサウンド「I Can't Let Go」(85年)などのディスコ曲を世に送り出しました。

しかし、この辺はマイナーレーベルからのリリースだったこともあり、ほとんど売れませんでした。彼女はやはり、マイアミTK時代に大きく花開いた歌手だったわけです。詳細なディスコアーチスト情報が載っている海外のディスコサイト「discomusium」によると、彼女は現在は音楽活動を行っておらず、住み慣れたマイアミで恵まれない子供たちのための学校の運営に携わっているとのことです。

70年代後半のアメリカは、忌まわしいベトナム戦争が終わってリベラルなカーター民主党政権となり、おっぺけぺーな享楽主義が幅を利かせた時代でした。ロックや反戦フォークのような「俺たちは熱いんだぜ!ちゃんと考えているんだぜ!」的なメッセージ性の強い骨太音楽が色あせてしまったのです。

そこで「ザ・ディスコの出番」となるわけですが、中でもマイアミは、東海岸(ニューヨーク、フィラデルフィア)、西海岸(ロサンゼルス、サンフランシスコ)とともに、「お気楽アメリカ3大ディスコ地帯」として天下に名を轟かせていました。ホント世の中、メリとハリ、息抜きって必要です。…と油断していたら、数年ですぐに超骨太の「80sロック大逆襲」なる反動が来ちゃいましたが(世界史的には1979年末のソ連のアフガン侵攻あたりからですね)。

その能天気マイアミディスコの中心レーベルが、以前の投稿でも何度か紹介してきたTKなんですが、ここまで書いてもう一曲、少年のころによくラジオで耳にしたTKレーベルの印象的な曲を思い出しました。その名も「ナヌナヌ(Nanu Nanu)」(78年、Daddy Dewdrop)。「やあやあ!」みたいなおどけたあいさつ語なのですが、曲調が既にヘン。「でもほら、愉快にふにゃふにゃ踊りたくなるでしょう!」…そんな「ディスコダック」(76年、堂々の全米チャート1位)顔負けの脱力系です。困ったものです。

セリ・ビーさんのCDは、輸入盤ならけっこうあります。米国のディスコ再発レーベルである「Get Disconnected」と「Hot Productions」(これもフロリダの会社)からアルバム、ベスト盤が出ています。ぜひとも南国カリブの情熱ディスコをご堪能あれ。