NileRodgers勢いがあるうちにどんどん進めましょう。今回は押しも押されぬ大御所ナイル・ロジャーズでありま〜す。「おしゃれフリーク」でお馴染みシックの中心人物で、黒人音楽の枠組みにとらわれないディスコ文化そのもの立役者。プロデューサーとしても超高名で、1980年代にはかのダイアナ・ロスデヴィッド・ボウイ(レッツ・ダンス)、マドンナ(ライク・ア・ヴァージン)、デュラン・デュラン、INXSといった大物たちを強力にバックアップしました。

彼の音楽界における功績は言うまでもありません。このブログでもシックは早い段階で取り上げています。でも、私が今回再び光を当てようとしたのは、最近読了した彼の自叙伝「Le Freak: Upside Down Story of Family, Disco and Destiny」(下写真、邦題にしたら「おしゃれフリーク秘話:家族、ディスコ、運命の波乱万丈」みたいな感じ)に触発されたのみならず、ソロ・アーチストとしてのナイル・ロジャースにちょっと注目したかったからなのです。

アメリカでディスコが衰退した1980年を境にシックの人気も低落すると、彼はダイアナロスのアルバム「アップサイド・ダウン」をプロデュースして大成功を収めます。続けてデビッド・ボウイなどから次々とオファーが来るわけですが、「俺もここらで自分自身の音楽を追及したいぜ」とばかりに、並行して83、85年に2枚のソロアルバムを出しました。

1枚目の「Adventures In The Land Of The Good Groove」は、ディスコ期ほどの派手さはないものの、ナイル自身が奏でるシック伝統のカッティングギターと、セッションに参加しているシックの相棒バーナード・エドワーズの正確無比なベースが小気味よく決まっていて、心地よく耳に馴染みます。

シングルカットされた「Yum Yum」(Fatbackの曲とは関係ない)は、イントロからドラムボックスが「ズンタ、ズンタ♪」と入ってきて、ラップ風のボーカルが重なってくるパターン。「さすがは試合巧者ナイル!」と叫びたくなるイイ感じのダンスナンバーに仕上がっています。ほかにも、「Get Her Crazy」のように、ディスコではなかなかしっくりこないギターを「これでもか!」とリズミカルに演奏するナイルの面目躍如たる曲が目白押しです。

ところが、渾身のソロデビュー作も、セールス的にはさっぱりでした。ナイル自身、自伝の中で「ディスコブームが終わり、グループとしてもソロとしても売れずに苦しかった」などと述懐しています。

…しかしまあ、アルバム自体は駄作ではなかったと思います。何しろ、プロデューサー業ではたんまりと儲けていたわけですしね。自伝でも、ダイアナ・ロス作品のプロデュースをきっかけに、破竹の勢いで大成功していった経緯を詳説しています。

問題は、ソロ2作目「B-Movie Matinee」(上写真)。全体的には、当時台頭していた「フリースタイル」の雰囲気をたっぷりと取り入れた「80年代しゃきしゃきシンセサイザー」の雨あられで、かつナイルのギターもボーカルもしっかりと絡んでいて、私としてはとても満足。けれども、1曲だけ、奇妙奇天烈摩訶不思議、実に変てこなのが混じっていて邪魔なのです。

その曲とは「Let's Go Out Tonight」(YouTubeで試聴)。若い男女が「さあ外に遊びに出かけよう!」みたいにはしゃぎ合う風情の曲です。理由は不明なのですが、曲の中でなんと日本語の「どっか遊びに行こうよ!」「遊ぼうぜ今夜」「めちゃくちゃ踊りたい」「ああ、すっごく踊りたい」「死ぬほどダンスしたい」「なんですか?」といったあほあほフレーズが大量に出てくるのです。なんだか、渋谷や六本木の街角で外国人が日本人女性を必死にナンパしているようなお間抜け感が漂います。

私はこのアルバムを仕事をしながら途中まで気持ちよく聴いていたのに、4曲目の「Let's Go Out…」が入った途端、椅子から転げ落ちそうになりました。「ああ、やっちゃったよ、天下のナイル…」。死ぬほど残念な思いに駆られたのは言うまでもありません。

歌詞に日本語が入っている洋物ディスコといえばテイスト・オブ・ハニー「サヨナラ」、ディスコでよく耳にしたロックのスティックス「ミスター・ロボット」、テクノディスコのクラフトワーク「電卓」あたりが思い浮かびます。それにしても、「Let's Go Out…」はホント連呼していますので、エキゾチックに聞こえる外国人ならまだしも、日本人としてはかなりトホホな感じになってしまうのですね。

この「Let's Go Out…」ですが、実はソロとしてはぱっとしなかったナイルにとっては唯一、チャートイン(全米R&Bチャート35位、ディスコチャート38位)した曲です。こりゃまた皮肉なことです。

自叙伝については、複雑な家庭環境と黒人差別、ブラックパンサー運動(反差別運動)への参加、ドラッグと酒に溺れた生活ぶり、マドンナと仕事した際の印象、デヴィッド・ボウイとの感情の擦れ違いなどなど、プライベートな話も含めて赤裸々に語っております。音楽では天才ぶりを発揮しつつも、60-70年代を生きたほかの黒人と同様の苦悩も経験していたようです。

上記2枚のソロアルバムはCD化されています。どこかで見つけたら、「おとぼけナイル」の少々ほろ苦い青春の一ページをめくってみるのも一興かもしれません。

ちなみに、彼は今年初め、前立腺がんにかかっていることを告白しています。自身のブログでは、闘病生活について日々つづっています。そのブログで、先日、彼が友人たちとや りとりしているコメント欄に簡単な励ましのメッセージを書いたら、間もなく「Thanks, Masa --- Nile」と返事が来たので、ちょっと感激いたしました。

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