Yvonne少し間が空いてしまいましたが、今回は静々とハワイ生まれのディスコディーバ、イヴォンヌ・エリマンと参りま〜す!

ハワイ出身の有名人といえばオバマ大統領と早見優ですが、ハワイの地元紙ホノルル・アドバタイザーの記事などによると、1951年に生まれたイヴォンヌさんは、なんと日本人の母、白人の父を持つ日系アメリカ人で顔立ちは実にアジアン。幼いころに音楽に目覚め、ピアノやウクレレを練習し、高校時代にはバンドを組んでライブ活動を始めました。

そんなある日、音楽の先生に「お前はやればできるから、イギリスで修行しろ!」と促されて高校卒業後に渡英。音楽業界の代理人を通して、ロンドンで高名なミュージカル音楽プロデューサーであるアンドルー・ロイド・ウェバーを紹介されました。

そこで彼の不朽の名作「ジーザス・クライスト・スーパースター」のロックオペラと映画でマグダラのマリア役を務めるというチャンスに恵まれ、飛躍的に知名度がアップ。同時にロック界の英雄エリック・クラプトンのバックボーカルにも抜擢され、彼の大ヒット曲「I Shot The Sherif」(74年、米ビルボード一般総合チャート1位)でもその歌唱力をいかんなく発揮したのでした。

彼女はソロアーチストとしても、71年に「ジーザス…」の挿入歌バラード「I Don't Know How To Love Me」が全米一般総合チャート(ポップチャート)28位まで上昇したほか、76年にビージーズが作曲したしっぽりスローテンポのポップバラード「Love Me」が同14位に、77年に似た感じのスローテンポ「Hello Stranger」が同15位にそれぞれチャートインするなど、順調にスター街道を突き進んで言ったのでした。恐ろしいほどのとんとん拍子ぶりです。

そして1978年、運命の時が訪れます。当時の夫ビル・オークス(Bill Oakes)が社長を務めるRSOレコードが、完全無欠のディスコサントラ「サタデーナイト・フィーバー」を発売。その中で再びビージーズの作品「If I Can't Have You」を歌い見事、米ビルボード・ポップチャートで1位を獲得したのでした!マイケル・ジャクソン「スリラー」の6,500万枚に次ぐ世界2位の4,000万枚も売れたというこのお化けアルバムからは、計7枚のシングルカット曲が1位になっていますが、堂々とその一角を占めることになったのです。

翌1979年には、同じRSOからアルバム「Yvonne」を発表。A面1曲目に収録のディスコ曲「Love Pains」(総合34位、米ディスコチャート75位)がまずまずのヒットとなりました。「デケデケ」シンセサイザーのベース音と朝の陽射しのように柔らかなストリングスの音色がうまくマッチしたこの曲は、RSOが12インチを制作したほか、82年には米西海岸のディスコ専門レーベル「モビーディック」がリミックスを手がけており、ディスコフロアでは「If Can't Have…」に匹敵するほどの人気となりました。

モビーディック盤については、私がかつて紹介したように、レーベルの元関係者からテスト盤をいただくという僥倖に恵まれましたので、個人的にも特に印象深いレコードとなっております。

超大物プロデューサーやエリック・クラプトンとの出会い、大手レコード会社の社長とのセレブな結婚生活といった多くの幸運もあり、女優・歌手としてスターダムにのし上がったイヴォンヌさん。しかし、社長とはその後離婚。2人目の音楽家の夫とは2人の子供に恵まれましたが、やはり別れて子供をつれてハワイに戻ってきました。80年代以降は音楽活動からも遠ざかってしまいました。2000年代に入ってようやく活動を再開し、新作アルバムを発表するなどしているものの、もう「過去の人」との印象はぬぐえません。

CDはベスト盤が中心でしたが、今年になって、ディスコ期の2枚のアルバムをボーナストラック付きで収録した「Night Flight / Yvonne」が2枚組CDとして発売されております(上写真)。「If I Can't」のディスコバージョンやLove Painsの12インバージョンが入っており、音質もまずまずです。

このCDのライナーノーツには彼女のインタビューが載っており、「本当はクラプトンと一緒に仕事をしていた時のように、もっとロックを歌いたかったが、制作サイドから機会を与えられなかった」「2度目の夫は外で音楽活動させてくれず、結局は家庭に収まってしまった」などと語っています。スターにはなったものの、心底音楽に没入できなかった部分があったのかもしれません。だからこそ、20年以上ものブランクが生まれたということでしょう。

そんな背景にも思いを馳せながら、晩秋の夜長、ディスコからバラードまで幅広く歌い上げるアジアンな彼女の歌声を今一度、堪能してみるのも一興ではないでしょうか。