Karen Carpenterいやあ、ゴールデンウィークもとうに終わり、間もなく梅雨入りとなります。今回はひとつ、「ありそでなさそな、でもあったカーペンターズ・ディスコ」を紹介しておきましょう。

カーペンターズといえば、まずはカレンさんの天下無敵の美声が醸す珠玉のメロディーラインということになりますが、大ディスコブーム期の1979年から1980年にかけて制作された彼女の唯一のソロアルバムには、ディスコ的な空気が横溢しています。

中心プロデューサーは、ポップスやロックを軸に数々の大物ミュージシャンを手がけていたフィル・ラモーン。とりわけ呼び物の「My Body Keeps Changing My Mind」では、のっけからドンドコディスコ全開で、立ちくらみがするほどです。ドラム、ベース、ストリングス、ホーンセクションが恥ずかしげもなく大展開する中で、A、Bメロから後半のコーラスにかけて、あの透き通る歌声が負けじと響き渡ります。「ダンシン!ダンシン!」と連呼なんかしちゃってもう、完全に茶目っ気たっぷりの「あげあげカレン」状態です。

もう一曲、「Lovetlines」もなかなかにしたたかなディスコ・フュージョン路線。最初は"朝もや田園風"のさわやか風味でそろりと入りつつ、コーラスでは――やっぱりドラムやらベースやらがにぎやかに競演してディスコ大全開!(喝采)。この「フュージョンからのディスコ」という変化球もまた、否応なしに踊り心をくすぐることウケアイなのです。

さらに、「Remember When Lovin' Took All Night」という曲も、8ビートのドラムがしっかりと下地を作り、そこにメロディアスな歌声が乗っかるパターンで、ほんのりとしたディスコ路線を打ち出しています。

それもそのはず。彼女は、ディスコをはじめとするダンスミュージックの基礎となる「リズム感」が抜群なのでした。もともと高校時代にはドラマーとしてバンドに参加していたほどで、プロになってからもよく披露していました。Youtubeにはいつくかその時の映像がありますが、ステージを目が点になるほど縦横に駆け回る姿からも明らかなように、相当な腕前なのでした。彼女のウリは、天性の歌声だけではなかったのです。やはり音楽の申し子としか思えません。

けれども、この華々しき「ディスコ系アルバム」は完成後、レコード会社(A&M)や、長年の音楽的相棒である兄リチャードからの反応が芳しくなく、なんとお蔵入りになってしまいました。自信作の発売見送りの知らせを受けたカレンさんは、相当に落ち込み、激しく抗議したと伝えられています(そりゃそうだ)。その3年後、1983年にはカレンさんは32歳で急死。それから13年の時を経て、1996年に発売されることになり、ようやく日の目を見ることになったいわくつきの「幻のカーペンターズ・ディスコ」でもあったのです。

というわけで、このアルバム「Karen Carpenter(邦題:遠い初恋)」では、王道の「イエスタデイ・ワンス・モア」とか「トップ・オブ・ザ・ワールド」とは一味ちがった、カーペンターズの世界が堪能できます。もちろん、得意のバラード調も収録されております。CDは入手容易となっております。