Beach Boys Discoさて、ご好評いただいている(ウソ)「古典アーチストのディスコ没入特集」ですが、今回はビーチ・ボーイズと参りましょう。

ビーチボーイズはいわずとしれた米国の1960年代を代表するロックグループ。「サーフィンUSA」(63年、米ビルボード一般チャート3位)、「ファン・ファン・ファン」(64年、同5位)、「グッド・バイブレーション」(66年、同1位)などのお馴染みの大ヒットを連発し、折からの米西海岸ヒッピームーブメントともあいまって、「浮かれたカリフォルニア発サーフィン・ロック」の伝道者として空前のサーフィンブームを呼び起こしたのでした。

土台がサーフィンだけに、彼らの曲調は底抜けに陽気(能天気)です。「ダンス・ダンス・ダンス」(64年、8位)とか「Do You Wanna Dance」(65年、)といったロックンロール・ダンス系のヒット曲もあるので、もともとディスコとの親和性は低くありませんが、本格的なディスコとなるとやはり70年代後半まで待たなければなりません。

まず1977年に出したアルバム「M.I.U. Album」は、全体としてはドゥーワップをルーツとする美メロの男性コーラスワークを前面に出した典型的なビーチボーイズ路線を踏襲しつつ、A面1曲目に「She's Got Rhythm」というもろディスコを意識した曲がもぐりこんでいます。

歌詞内容は、「ある男が街のディスコに踊りにいった→素敵な女を見つけた→一緒に酒を飲んだ→イケると思って『家まで送るよ』と言ってみた→断られた→その女は結局ほかの男と消えた」・・・というトホホな展開。曲はそんなにドンドコしていないのですけど、歌詞が見事に当時のディスコ文化を象徴しております。

さて、問題は次にリリースした1979年のアルバム「L.A. Album」(写真)です。これまた全体としては「ザ・ビーチボーイズ」というトーンなのですが、「ヒア・カムズ・ザ・ナイト(Here Comes The Night)」という「驚きの超ドンドコディスコ」が紛れ込んでいるのでした。

この曲は、彼らが1967年に出した「Wild Honey」というアルバムの収録曲をディスコリメイクしたもので、当時のディスコ用12インチバージョンを意識して11分弱もあります。天下無敵のディスコビートをベースにして、シンプルな70年代シンセサイザー音やエレクトリックボイスが随所に入ってくる珍品(私にとっては「優れもの」だが)なのです。

ビーチボーイズは確かに60年代までは王者の風格があったのですが、70年代に入るとヒッピームーブメントも落ち着き、時代風潮が変わってウケが悪くなっていたのでした。しかも、メンバー間の不和も顕在化。そこでまたぞろ「ディスコで再起を!」と挑んでみたのですが・・・結果はいまひとつ(トホホ)。「ヒア・カムズ・・・」はビルボード一般チャート最高44位で、頼みの米ディスコチャートも最高48位とふるいませんでした。従来からのファンが離れるリスクをとったのに、新たなファン層を掘り起こすことができなかったのですから泣きっ面にハチです。

しかし、波間で転倒してもただでは起きない“サーファー魂”からか、80年代後半、彼らは驚くべき復活ぶりを見せつけます。

まず、ヴァン・ヘイレンのデビッド・リー・ロスが85年、ビーチボーイズの65年のヒット曲をカバーした「カリフォルニア・ガールズ」(ビルボード一般3位)をリリースしたことで再び注目を浴びたと思いきや、2年後の87年には人気ラップトリオ「ファット・ボーイズ」と組んで、“ビーチボーイズ in Rap”の珍曲「ワイプ・アウト」をリリースし、全米一般チャート12位(R&B10位、ディスコ42位)まで上昇するヒットとなったのです。

さらに、88年には、あのトムクルーズの大ヒット映画「カクテル」のサントラ収録曲でもあるトロピカルチューン「Kokomo」が、「グッド・バイブレーション」以来22年ぶりの全米1位に輝いたのでした。

上記の曲のうち、私がディスコで当時聞いたのは「ワイプ・アウト」程度ですが、「Kokomo」あたりはFMラジオでしつこくかかっていたのを思い出します。浮かれたバブル期のサーフィンブームが人気の背景にあったのだと思われます。

このほか、ビーチボーイズ関連ではGidea Parkというイギリスのロックグループによる「Beach Boys Gold」という面白いディスコメドレーが70年代後半にリリースされています。

「M.I.U.」「L.A.」の2枚のアルバムともに、再発CDが出ております。根っからのビーチボーイズファンには評判が良くない2枚ですけど、ディスコ好きにとっては、逆に「これだけ持っていればいいや」と思わせてくれる好盤なのです。