Incredible Bongo Band今回は久しぶりにディスコのルーツをちょっと掘り下げま〜す。ご登場願うのは、1970年代初めに結成された「インクレディブル・ボンゴ・バンド」。1973年と翌74年に1枚ずつアルバムを出しただけなのですが、その後鬼のようにサンプリングされたマカロニウエスタン風ヒップホップ曲「アパッチ」でおなじみの、“小太鼓炸裂バンド”ですね。

私が「アパッチ」を初めて聞いたのは、1980年代前半。ヒップホップグループのシュガーヒル・ギャングのラップバージョン(81年に全米ディスコチャート51位)です。ただ、西部劇映画風のメロディーは印象的だったものの、純粋なブレイカーまたはB-boyおよびヒップホップ少年ではなかったので、特に入れ込んだということはありませんでした。

後になって、この曲が「ボンゴ・バンド」のアパッチに影響を受けていたことを知り、聴いてみたところ、「断然こっちの方がカッコいいじゃん!」となったのでした。アルバム全体を通しても、文字通りボンゴが前面に出た曲調で、ビートもしっかりしており、今に至ってもめちゃめちゃ「踊らせる」内容であります。

このボンゴ・バンドは、Michael Vinerという白人が中心となり、米ロサンゼルスで結成されました。一時的な実験的プロジェクトだったわけですが、アルバムではリンゴ・スターやジョン・レノンも参加していたそうです(クレジットはナシ)。

厳密に言うと、「アパッチ」は1960年、「シャドウズ」が発表したのが原曲とされています。ボンゴ・バンドのバージョンは1973年の発表。さらに、連綿と現在までリメイク&サンプリングされ続けているというのですから驚きです。近年では「LLクールJ」や「NAS」などが、打楽器パートを代替する「ブレイクビーツ」として、この曲をサンプリング使用しています。ヒップホップ界では、「アンセム(国歌)」とさえ言われており、「ちょっと持ち上げすぎだよ」とも思いますが。

ことほど左様に、よいフレーズ、リフやメロディーは、何度も何度も繰り返し使われることになります。一般ディスコ界では、かつて紹介した「君の瞳に恋してる」とか「Don't Leave Me This Way」、「リライト・マイ・ファイヤー」などが、ヒップホップ界では、「アパッチ」のほか、デニス・コフィー「スコーピオ」、それに数あるジェームス・ブラウンのヒット曲あたりが、それぞれリメイク&サンプリングの“定番”になっております。

いやあ、それにしても、1990年代以降の「ハウスバージョン」、「テクノバージョン」、「○○(DJの名前や変な記号が入る)ミックス」みたいな新解釈ディスコには辟易しており、ある意味「オリジナル原理主義者」である私ですが、ハナから毛嫌いするのは間違っているのかもしれません。だって、例えば、アパッチにしても「ボンゴ・バンド」が原曲ではないし、「君の瞳」もかのボーイズ・タウン・ギャングがオリジナルではない。昔からの真似の積み重ね、というわけです。

先日、団塊世代向け雑誌「dankaiパンチ」の8月号を読んでいたら、歌手の松任谷由美氏が、最近の曲がつまらなくなっていることに触れて、「音楽の黄金律みたいなものは、ある程度既にやっちゃっているからかもしれない」と述べている記事を見つけました。「人類が考えうる音楽のメロディーパターンはもう使用し尽くされた」とさえ言われている21世紀の現在にあっては、リメイクやサンプリングが主流になるのは必然、ということなのでしょうか。

…と、大仰に構えてしまいましたが、私は今後とも、地道に「70&80年代ディスコ」の範疇で、過去をひたすらに掘り下げていく所存であります。過去を知ることは、現在を知ることでもあります。

写真は、昨年発売された「ボンゴ・バンド」のベスト盤CD。――といっても、2枚しかLPを出していないので、きちんと網羅されております。入手はいまのところ容易です。