Kiss「ディスコ節目の79年」は、線香花火の最後の輝きのごとく、妖しく激しく燃え上がりました。特に上半期は絶好調です。この年のビルボード一般チャートの1位獲得曲を見ても、シック(おしゃれフリーク)を皮切りに、ロッド・スチュアート(アイム・セクシー)、グロリア・ゲイナー(恋のサバイバル)、ビージーズ(哀愁のトラジディー)、ドゥービー・ブラザーズ(ホワット・ア・フール・ビリーブス)、エイミー・スチュアート(ノック・オン・ウッド)、ブロンディー(ハート・オブ・グラス)、ドナサマー(ホット・スタッフ)などなど、6月ごろまではもう90%以上がディスコ(ディスコ系)といった状況でした。「ディスコフォーエバー!!!」と叫びたくなるような、そうそうたる顔ぶれであります。

ところが、そんな雰囲気を一変させたのが7月12日、シカゴの大リーグ球場で開かれた有名な「ださいぞディスコ!(Disco Sucks!)」イベントでした(YouTube参照)。音頭をとったのは、地元の人気ラジオDJの白人スティーブ・ダール(Steve Dahl)。ラジオで「今度のダブルヘッダーの試合の合間に、要らないディスコのレコードをみんなでぶち壊そう!」と訴えたところ、実際にリスナーたちがレコードを持って球場に大挙集まり、球場内でレコードを壊すにとどまらず、レコードを投げ飛ばすなどの危険な状況に。フィールドにも観客がどっとあふれて騒ぎだし、第二試合が中止になるほどの暴動になったのでした。

実はスティーブ氏は数ヶ月前、自らが愛するロックから、ディスコ中心に番組改編した地元の別のラジオ局をクビになっており、ディスコには"恨み骨髄"でした。暴動事件の後、ついでに「アイム・セクシー」のパロディー曲で、ディスコをとことん皮肉った「Do You Think I'm Disco?」までリリースし、ビルボード一般チャート58位まで上昇しました。個人的な恨みが発端だったわけですが、全米でけっこう支持する声もあったりして、ディスコブームに一気に暗雲が立ち込めたのです。

79年後半以降も、ビルボードのディスコチャートはもちろん続いたわけですけど、最も権威のある一般チャート(ポップチャート)では、典型的ディスコの影がとたんに薄くなりました。境になったのは、8月後半に6週連続1位を獲得した、正統派ロックの特大ヒット「マイ・シャローナ」(ナック)といわれています(ディスコでもかかったが)。その後、イーグルスとかスティックスといったロックバンド、ルパートホルムズ、ハーブ・アルバートなどのポップ・ロック、AOR系が息を吹き返しました。

「ださださディスコ」運動の背景には、ドラッグや性の乱れといったディスコ特有の放蕩主義、それに「貧乏人は出てけ!」的なセレブディスコ「スタジオ54」(以前の投稿参照)に代表される「エリート主義」「ナルシシズム」(俺ってイケてるぜ)への嫌悪もありました。しかし、それよりも、急速に世界を席巻したディスコ文化の中心を担った黒人やゲイへの反感、嫉妬が確実にあったといわれます。そこまでムキになって反発するとは正直、「ちっちゃいなあ……トホホ」とも思うのですけど、なかなか日本人には理解しがたい超多様社会の現実と不条理に起因する部分も大きいのでしょう。

もちろん、これはあくまでもアメリカの話でして、ヨーロッパのディスコブームには直接、影響を与えませんでした。アメリカの文化(政治も)の影響が大きい日本では、同調して「やっぱりディスコはもうダサいのでは?」というそわそわした気分が少々蔓延したものの、80年代、さらには一部的に(ジュリアナ東京とかで)90年代初頭までディスコが生き続けたのは周知のとおりです。それでも、世界の大衆音楽の中心は今も昔もアメリカですから、「ディスコ」という言葉自体、少〜しずつ勢いを失っていった事実は否めません。

さて、79年の特に前半までは、「猫も杓子もディスコだよん」といった異常な状況でしたので、前述のロッド・スチュアートさんだってアイムセクシーなるディスコを華麗に披露し、さらに皮肉られたのですが、もう一丁、キッスの「ラビン・ユー・ベイビー 」(全米一般11位、ディスコチャート37位)などいかがでしょうか。

いやあ、唐突で申し訳ありません。しかも、キッスのようなハードロックは門外漢ですので、詳しく語る気はハナからありません。けれども、あのキッスがディスコをやったことは紛れもない事実です。

カサブランカという「もろディスコ」なレーベルにいたことも幸い(災い)したのでしょう(以前の投稿参照)、彼らは79年の前半、結果的には炎の激烈ロック「デトロイト・ロックシティー」(76年)と並ぶ代表曲として、ドンドコ・ディスコの名曲「ラビニューベイベー」をひそかに世に送り出していたのです。

改めて聴いてみると、トレードマークの奇天烈メイクもさることながら、ポール・スタンリーの美声ボーカルは伸びがあり、けっこうディスコ向きだと思います。むしろ、凡百のディスコのボーカリストよりしっくりくるくらい(笑)。ただし、ディスコとは今ひとつ相性が良くないエレキギターを前面に出していて、そこに「俺たちはロッカーだぜ」感を盛り込んでいるわけですが(あたり前)。

写真はその「ラビニュー」が収録されたLP「Dynasty」。邦題は「地獄からの脱出」と気合入ってます。CD化もされています。このアルバムからは、ラビニューと「ダーティー・リヴィン」がロングバージョンの12インチとしても発売されています。どちらも名ディスコ・リミキサーの故ジム・バージェス(Jim Burgess)がミックスを担当していますので、ディスコ好きなら12インチを確保したいところですかね。

本日はホントの節目の大晦日。来年一発目は、少し気軽な80年代ものといきたいところです(未定)。