ディスコ堂 by mrkick

音楽に貴賎なし ―Discoの考察とCD批評

スペイン

バラバス (Barrabas)

Barrabasヨーロッパの重要アーチストとしてバラバスを挙げておきましょう。スペインで1971年に結成した古い男性バンドでして、最初は初期のヒット曲「Woman」(1972年)に代表されるようなちょっとサイケで演歌調な(?)音を発信していた人々です。

70年代中期にはディスコに傾倒し、ファンクやジャズやサルサ、それにロックの要素を取り入れたユニークな曲を連発しています。そして74年発表の「Hi-jack」(YouTubeのミックスもの参考)が全米ディスコチャートで2位まで上昇。ここでディスコバンドとしての名声を固めたといえます。

Hi-jackは、以前に紹介したハービー・マンのハイジャックの原曲で、こちらはフルートなしのバージョンとなります。どっちも軽快な感じの佳曲ですが、いまフロアでかかっても、「思わずのけぞるほどイイ」というほどではありません。やや地味です。

この後、バラバスは「Mellow Blow」(75年、全米ディスコチャート8位)、「デスペレートリー」(76年、同6位)などのダンスヒットを飛ばしますが、だんだんと失速していきます。ただし、80年代に入ってからもアルバムは何枚も出していまして、とりわけ本拠地のヨーロッパでは、多要素を取り入れた先駆的なバンドとして、いまなお評価の高い人々です。

というわけで、スペイン盤を中心に再発CDがかなり出ております。写真はその一つで、81年発売の「Piele De Barrabas」であります。この中では1曲目の「On The Road Again」が秀逸。おとなしめで哀愁調のメロディーに、しわがれた感じの男性ボーカルが乗っかっているのですが、シンセを使用してしっかりビートを刻んでいるので、踊り場にも適しているといえましょう。

日本では非常にマイナーではありますが、独特の位置を占めているバンド。あえて言えば、同時期の「ジェパディー」(83年)の大ヒットで知られるグレッグ・キーン・バンドとかが近いかもしれませんが、なかなか類似の音が見当たらない、不思議なバンドです。

アズール Y ネグロ (Azul Y Negro)

Azul Y Negro日本のYMO、英国のデペッシュ・モード、ドイツのジョルジオ・モロダー、フランスのセローンといった具合に、1970年代後期〜80年代初期にはテクノ・ディスコが続々と花開いたわけですが、“ディスコ界の伏兵”スペインからもアズール・Y・ネグロ(Azul Y Negro)という男性デュオが登場し、本国では大人気となりました。

私がディスコでよく耳にしたのは、80年代初期の代表的ヒットで「Me Estoy Volviendo Loco」という曲。「ニューヨーク・ロコ」という邦題で日本盤7インチシングルも売っていました。BPMが速めで、ちょこまかとせわしない曲調でして、あまり出来が良いとは思いませんでしたが、当時はシンセサイザー中心のディスコということでチェックしておいたのでした。ほかにも、「ザ・ナイト(The Night=La Noche)」や、「ノー・テンゴ・ティエンポ(No Tengo Tiempo)」という変な名前のヒット曲があります。

スペインではテクノ音楽そのもののパイオニアであり、84年に国内初のCDを発売したことでも知られています。どこにでもこういう「新し物好き」なアーチストというのはいるものです。

デュオ名は「青と黒」という意味で、イタリア・ミラノのサッカーチームのユニフォームに使われている色の組み合わせに由来しています。ただし、深い意味はなさそうです。

さて、スペインでディスコが隆盛を極めたのは他国より遅く、80年代のことでした。70年代のスペイン発ディスコといえば、「情熱のブギー」で知られる「バカラ」程度でした。停滞の最大の原因は、戦後ずっと、スペインにはフランコ・ネロという独裁者がいて、表現の自由が制限されていたからです。75年のフランコの死後、大都市バルセロナなどでディスコの拠点が発生し始め、徐々に他国のブームに追いついていったのでした。

ようやくやってきた「我が世の春」に、若者たちはディスコに合わせて狂喜乱舞するようになりました。もともとフラメンコに代表される「情熱ランド」だけに、ハメの外しぶりも尋常ではなかったと聞きます。

80年代以降は、ユーロディスコの大きな発信源になりました。竹の子族の間で人気を博した「ギブ・ミー・ユア・ラブ」のミゲール・ホセ、「プレイボーイ」で知られるデビッド・ライムのほか、「フォトノヴェラ」のイヴァン、「アイ・ウォント・アン・イルージョン」のスクワッシュ・ギャングなどなど、日本のフロアでも馴染みのあるユーロビート・アーチストが出ています。

これまで何度か触れていることですが、スペインに限らず、ホントに70年代後半から80年代前半って、ディスコ音楽的に過渡期だったことが分かります。まず、大きいのがシンセサイザー(電子楽器)の発達だといえるでしょうが、もう一つ、大きく構えて社会的背景(!)にも着目したいところです。

「英国病」に苛まれ、失業にあえいでいたイギリスでは79年、「貧富の格差はあって当たり前よん(今の日本のよう?)」の保守派サッチャーが首相に就任し、世間の空気も「パンク的反逆からディスコ的刹那主義へ」と舵を切ります。ディスコの中心地だった米国でも79年、いわずもがなの「ロック的保守反動」が起き、翌80年には「ハリウッド発カウボーイ野郎」のレーガン大統領が就任。ゲイや黒人のマイノリティーディスコは解体させられました。

そう、日本でも82年に「ロン&ヤス」の中曽根康弘が首相に就任しております。持論の“民活路線”により、現在の「郵政民営化」の伏線といえる国鉄分割民営化を果たすなど、同様な保守化路線を歩んだのであります。小学生のころからの国鉄マニアでもあった私は、国鉄労組(!)の強烈な反対も空しく、自分の故郷北海道で線路がどんどん廃止されて、衝撃と怒りを覚えたものです。

ただ、日本の場合は、78年の第二次オイルショックなどの危機を乗り切り、80年以降も経済が安定成長を続けていたこともあり、国民がそんなに生活自体への不満を抱かなかったのは事実。とりあえず(私を含む)若者たちは、「物質的には満たされていても、精神的にはなんとなく不満で不安で物足りない」ということで、夜な夜なディスコに繰り出しました。暴走族(校内暴力)と並ぶ「満たされぬ若者の2大文化」として、人気の高値安定が続いたわけです。

近代人の目指すべき道を示すため、「権力への意志」を叫んだのはニーチェですが、ディスコの変遷をちらりとみても、庶民からはなかなか見えにくい「権力の意志」が陰に陽に働いているとはいえるでしょう。例えば、パンクは英国庶民の反逆の直截な表現だったし、ディスコも「ベトナム戦争後」の米国人の厭世的かつ情熱的な表現だったわけですが、キッチリと反動と破滅の悲劇が待っていたのです。

それでも、手を変え品を変えて、パンクやディスコが今も連綿と受け継がれているのを見るとき、庶民の底知れぬパワーに再び安堵するのであります。

地中海に浮かぶスペインのバレアリック諸島には、「イビザ(Ibiza)」という有名な高級リゾート島があります。そこは今や「ハウス/トランスの聖地」とさえ言われ、「ええじゃないか」的な(ドラッグもセックスも何でもありの)、世界有数のダンスパラダイスと化しています。まさにディスコ全盛期を彷彿とさせます。音楽も踊りも制限された独裁国家の面影など、どこにもみあたりません。快楽主義は長続きしない、というのが世の常ではあるものの、私は微笑ましく感じてしまうのでした。

写真上はスペインのディスコ黎明期を支えたアズールのベスト盤。輸入版ですが、比較的入手は容易です。80年代スペインディスコを味わうなら写真下右の「I Love Disco Spain」(Vol.1、2)に限りますね。当時のスペインを代表するディスコが目白押しであります。

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I Love Disco Spain
プロフィール

mrkick (Mr. Kick)

「ディスコのことならディスコ堂」----本名・菊地正憲。何かと誤解されるディスコを擁護し、「実は解放と融合の象徴だった」と小さく訴える孤高のディスコ研究家。1965年北海道生まれのバブル世代。本業は雑誌、論壇誌、経済誌などに執筆する元新聞記者のジャーナリスト/ライター/翻訳家。もはや踊る機会はなくなったが、CD&レコードの収集だけは37年前から地味〜に続行中。アドレスは↓
mrkick2000@gmail.com

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