Herbie Mannジャズ奏者がディスコを演奏することは珍しくありません。ハービー・ハンコックなんて「もういいよ、ディスコ」と顰蹙を買うぐらい熱中した時期がありました。

でも、ジャズフルート奏者がディスコをやるというのは珍しい。っていうか、ジャズのフルートというパート自体、地味で目立たない存在でしたから。

1960年代にジャズ界でフルートの地位を向上させた大立者であり、しかも70年代半ばからは、ディスコを立て続けに出したその人の名は、ハービー・マンであります。

写真を見ていただければおわかりの通り、当時公開された映画「スーパーマン」のヒーローの衣装に身をまとい、何だかずいぶんとうれしそうです。アルバムタイトルもそのまんま「スーパーマン」(78年)。シングルカットされた「スーパーマン」は、世界中のディスコでヒットしました。セリ・ビーというマイアミのディスコアーチストが、同名曲をリリースしてヒットさせたことでも知られています。

このアルバムには、日本でもシングル発売された「Jisco Dazz」なんて曲も収録されています。邦題は、珍奇かつ言い得て妙な「ディスコでジャズろう!」であります。

プロデューサーは、数多くのディスコ曲を手がけてきたパトリック・アダムス。もちろん、アルバムを通してハービーのフルートが全開です。ボーカルが少なめなのがちょっと不満ですけど、「軽快なフルートの音は、けっこうディスコに合っている」と実感させてくれます。

この人のディスコアルバムは、ほかに「Discoteque」(75年)、「Yellow Fever」(79年)というのがあります。特に前者には、これもディスコで大ヒットした「Hi-jack」(全米ディスコチャート1位)のほか、AWB(アベレージ・ホワイト・バンド)の演奏によるヒットでも知られる「Pick Up The Pieces」、40歳以上の人なら知っている「ドリフの早口言葉」に似ている「Mediterranean」などを収録。全編通して楽しめます。

一方の「Yellow…」は、正統的なディスコアルバムで、時代を象徴する「ドンドコ」リズムが炸裂しています。

ご他聞にもれず、この人も「儲かるディスコをとるか、一流ジャズ奏者としてのプライドをとるか」で迷いが生じました。「おまえも落ちぶれたものだな」などと、訳知り顔の音楽評論家やかつてのファンにもキツイ言葉を浴びせられるようになったのです。そしてついに、Yellow Feverを出した後のこと、コンサートで「私はもうディスコの曲をやりません」と宣言するに至ったのであります。何と悲しいことでしょう!

ディスコから足を洗った80年、もっとディスコをやって欲しかったアトランティックレコードからは契約を解除されました。以降、ハービーの曲のセールスは急下降。でもまあ、やりたい方向に戻っていったのは、本人にとってはよかったのでしょうな。

ハービーさんのディスコアルバムは、意外にも全部がCD化されています。米国の「Collectables Records」のシリーズが、音質もいいし、内容が最も充実しております。