ディスコ堂 by mrkick

音楽に貴賎なし ―Discoの考察とCD批評

チークタイム

ミニー・リパートン (Minnie Riperton)

Minnie Ripertonチークタイムの女王の方はミニー・リパートン。曲は「パーフェクト・エンジェル」(74年)収録の「ラビン・ユー」(ビルボード一般チャート1位、R&B3位)に尽きます。小鳥のさえずりのような高音がとりわけ印象的なのですが、彼女もビリー・ポールさん同様に、チャート的にはほぼ一発屋です。

47年シカゴ生まれ。Rotary Connectionというグループのリードボーカルを務めた後、空前絶後の「5オクターブ(半)」の声域を認められてソロでメジャーデビューし、「ラビン・ユー」が大ヒットしました。

70年代後半のディスコ・ブーム期には、正真正銘のディスコチューンも発表しております。代表的なのはいずれも77年発売のアルバム「Stay In Love」に入っている「Young, Willing And Able」と「Stick Together」(77年、ビルボード・ディスコチャート23位)でして、この2曲はカップリングでディスコ・シングル(12インチ)として発売もされました。

特に後者の「Stick…」はまさに“超高音ディーバ”の面目躍如、これでもか!と高い声を出しまくる部分もあって個性的なわけです。ただ、ディスコとしては少しおとなしい曲です。やはり彼女のような繊細な高音系の声は、ディスコの重いドラムビートに押されがちだと感じます。中・高音系であっても、せめてリンダ・クリフォードとかテルマ・ヒューストンのような「もう一押しの迫力」があれば、もっとディスコでもウケたのではないでしょうか(そんな気などなかったのでしょうが)。

続いてディコブーム頂点の79年には、アルバム「Minnie」をリリースしており、「Dancin' & Actin' Crazy」という収録曲がなかなかディスコ・ファンク風の佳曲となっています。この曲でも、専売特許の超高音を披露しています。ほかにも、ミディアム・ダンスチューンの「Lover And Friend」(R&B20位)と「Love Hurts」あたりが、ディスコブームを意識した作りになっています。

まあ、この人は根っからのバラード歌手ですので、やはりチークタイム向けなのですね。「ラビン・ユー」は、74年の発売だというのに、80年代半ばのチークタイムでも、例えば「ケアレス・ウィスパー」(ワム)とか「エンドレス・ラブ」(ダイアナ・ロス&ライオネル・リッチー)とか「アイ・ミス・ユー」(クライマックス)なんかと一緒にかかってましたからね。まさに定番であります。

ミニー・リパートンは、上記のディスコ期のアルバム2枚にも、超絶バラードがたくさん収録されていますから、「ラビン・ユー」だけでなく、本筋のバラードでもっと評価されるべきだったのだとは思います。

彼女は81年、乳がんのため31歳で他界しています。「Minnie」発売のころには既に闘病生活に入っていました。若くして死去したことで、「ラビン・ユー(だけ)伝説」も固定化してしまったのかもしれません。残念なことです。

ここ数年、彼女の再評価が進んでおり、いい感じでCDが再発されています。写真は上記2枚が豪華カップリングされた米Stateside盤。ほかに、死後に発売された遺作集「Love Lives Forever」も同じStateside盤でCD化されておりまして、そういえばこの中にも「Strange Affair」というミディアム・スロー系の良いディスコ曲が収録されておりますな。

次回以降ももう少し、70年代に目を向けようかと存じます。

ビリー・ポール (Billy Paul)

Billy Paulディスコのチークタイムの王様といえば、ビリー・ポールの「ミー・アンド・ミセス・ジョーンズ」(1972年、全米一般チャート1位、同R&B1位)。ソウルバラードの最高峰とも言われる名曲ではありますが、これ以外にさしたるヒット曲のないビリーさんは、どうしても一発屋です。ミセス・ジョーンズがあまりに偉大過ぎたのです。

そんなビリーさんですが、マージナル(辺境)な領域にこそ意味があると考える当ブログでは、謹んで彼の70年代後半の曲群を取り上げようと思います。もちろん“ディスコ・アーチスト”として。

ビリーさんは34年、「ソウル音楽のメッカ」の一つフィラデルフィア生まれで、17歳のときには既に最初のレコードを出すなど早熟なアーチストでした。でも、なかなかスターダムにのし上がるチャンスには恵まれず、30代後半のころに出したアルバム「360 Degrees of Billy Paul」収録のミセスジョーンズが特大ヒットとなり、初めて一般に認識されるようになったのでした。相当な遅咲きです。

メジャーになるきっかけは、かのフィラデルフィア・インターナショナル・レコード(PIR)の中心を担ったプロデュース・チーム「ギャンブル・アンド・ハフ」との出会いです。ミセスジョーンズも彼らのプロデュースによるものでした。

ところが、その後はなぜかヒットには恵まれず、ハタからは「もう消えちゃったのか?」と思われても仕方がない状況となりました。ソウル界の歴史を振り返っても、屈指のボーカル力を持っていたわけで、もうちょいメジャーのままで居続けてもよかったはずです。けれども、同じRIPのソロボーカリストのスターであるテディ・ペンダーグラス、ルー・ロールズなどと比べても見劣りしていたことは否めません。

そんな中でも、ポールさんはアルバムを出し続けました。とりわけ70年代後半には、「Let 'Em In」(76年)、「Only The Strong Survive」(77年)と、時流に乗ったダンサブルな曲を中心に構成するディスコ的好盤をリリースしています。周囲は苦笑したかもしれませんが、今聴いても、いかにもフィリーサウンドらしいオーケストラルな「ステップ軽やか系ディスコサウンド」が展開されています。アメリカでは今ひとつだったにせよ、英国やフランスなどでは一定の人気がありました。

「Let 'Em In」では、表題曲がなんといっても印象的です。ポール・マッカートニーの原曲のダンスリメイクですが、歌詞では彼が敬愛する故人のヒーロー(キング牧師など)の名前が出てきます。キング牧師やマルコムXの演説が、不気味にサンプリングされて入っている珍曲なんですね。

「Only The Strong Survive」も表題曲がもろフィリー・ディスコです。こちらの歌詞は文字通り「強いものが生き残るんだ!」というもので、なんだかちょっと恐ろしげな「弱肉強食ディスコ」(!)です。まあ、よくよく歌詞を見ると「弱気にならないで頑張ろう!」てな調子で、落ち込んでいる人を勇気付けるような単純な内容なのですが、それにしても今流行りの「ポジティブシンキング」ディスコということで珍曲でしょう。

ポールさんはこの後、ディスコ曲「Biring The Family Back」などが入った「First Class」(79年)をリリースして、PIRからは去ります。80年代にも、他のレーベルからいくつかアルバムを出していますけど、もう水面上に浮かび上がることはありませんでした。

それでも、私などは「Let 'Em In」と「Only The Strong Survive」は、「典型的ドンドコおバカ」ではないにしろ、ディスコフリークには必須モノだと思います。合間に入っているバラードも、さすがにいい雰囲気を出しております。

ポールさんのCDはベストを中心にけっこう出ています。写真はなんと、上記ディスコ時代の「Let 'Em In」、「Only The Strong Survive」、「First Class」に加え、「Biring The Family Back」と「Let 'Em In」収録のディスコトラック「How Good Is Your Game」の12インチバージョンが入った2枚組の優れもの(米PIR盤)です。もう齢70を越え、好々爺の雰囲気があるポールさんですが(オフィシャルサイト参照)、ディスコ的にもなかなか印象深い楽曲を残している人だけに、ありがたい再発といえましょう。
プロフィール

mrkick (Mr. Kick)

「ディスコのことならディスコ堂」----本名・菊地正憲。何かと誤解されるディスコを擁護し、「実は解放と融合の象徴だった」と小さく訴える孤高のディスコ研究家。1965年北海道生まれのバブル世代。本業は雑誌、論壇誌、経済誌などに執筆する元新聞記者のジャーナリスト/ライター/翻訳家。もはや踊る機会はなくなったが、CD&レコードの収集だけは37年前から地味〜に続行中。アドレスは↓
mrkick2000@gmail.com

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