ディスコ堂 by mrkick

音楽に貴賎なし ―Discoの考察とCD批評

ドイツ

アラベスク (Arabesque)

アラベスク今回はドイツつながりでアラベスクだよん。……とはいうものの、ドイツ本国では思ったほど売れず、日本で特別に売れた稀有なアーチストです。

1977年、旧西ドイツで女性3人により結成され、メンバー交代を何度か経ています。なぜかすぐに日本で人気に火がつき、洋楽チャートを席巻しました。もちろん曲は「ハロー・ミスター・モンキー」です。続いて「フライ・ハイ」、「フライデー・ナイト」とおなじみのディスコナンバーを繰り出しました。日本での70年代ディスコブームは、この人たちの登場でピークを迎えたともいえます。

まあ、欧米での活躍は今ひとつでしたけど、日、中、韓、それに東南アジアではアバと並んで欧州ディスコ・クイーン状態でした。欧州発のポップ歌謡風のディスコは、アジア人に共通して親しみやすいメロディーなのでしょう。彼女たちの曲は、10年後のバブリー・ユーロビート時代を予感させる派手やかさが持ち味でした。デビュー当時、私は中学生でしたが、洋楽ラジオでガンガンかかっていましたし、7インチシングルのジャケットも懐かしく思い出されます。

日本で発売されたデビューアルバムには、「ハローミスター…」「フライ・ハイ」「フライデー…」と代表曲が既に3曲入っています。セカンド以降の各アルバムからも、「ペパーミント・ジャック」、「ハイ・ライフ」「さわやかメイクラブ」、「恋にメリーゴーランド」、「ミッドナイト・ダンサー」、「ビリーズ・バーベキュー」、「キャバレーロに夢中」などなど、お馴染みのヒット曲を連発。グリム童話の舞台にもなったドイツの深い森をもほうふつとさせる、驚くべきメルヘンディスコが展開していくわけです。

アラベスクといえば、“猫ちゃんボイス”のメーンボーカルのサンドラ(62年生まれ)が有名。彼女が参加したのは、セカンドアルバム以降でして、最大の知名度を誇る「ハローミスター」のときには参加していませんが、個性的な声だっただけに、「アラベスクといえばサンドラ」といったイメージがあります。

このサンドラは、80年代半ばのアラベスク解散時にソロになり、アラベスク在籍時以上にブレイクしました。80年代らしいサビの超哀愁メロディーが印象的で、私も個人的に引かれてしまう「Innocent Love」、「In The Heat Of The Night」、「Maria Magdalena」のほか、「バッド・ママ・ジャマ」のカールカールトンもヒットさせた名曲のリメイク「Everlasting Love」といったダンス系の大ヒットを次々と繰り出し、“ヨーロッパのマドンナ”と呼ばれるほどの大物に成長したのでした。

さて、アラベスクはデビュー当時、ボニーMを率いるフランク・ファリアンが経営するスタジオで曲を録音していました。そのフランクのもとで、キーボード担当のスタジオミュージシャンとして働いていたのが、後のエニグマのリーダーであるマイケル・クレトゥ(Michael Cretu)です。

エニグマといえば、90年代初頭の特大ヒットとなった異色作「サッドネス」(91年、ディスコチャート1位)で知られます。この曲はダンスチャートでもヒットしたものの、中世ヨーロッパの教会音楽をモチーフにした、文字通り悲しくて暗〜い不気味な曲でしたね。フロアでかかったら、思わずひざまずき、涙を浮かべて「こんなところで堕落して申し訳ありません」と神に懺悔したくなります。

実は、このマイケル・クレトゥは、サンドラとアラベスク時代に知り合い、後に結婚し、子供ももうけています(さらに後に離婚したが)。サンドラは夫が率いるエニグマの曲にボーカルとして参加していますし、「In The Heat Of The Night」などの彼女のヒット曲の多くは、夫がプロデュースしています。離婚はしましたが、ヨーロッパでは2人とも、今でも不動のトップアーチストであります。

結局、アラベスクって、サンドラだけが幸せに出世していったわけですね。あまり名の知られていない残りのメンバー(Jasmin Elizabeth Vetter, Michaela Rose、Mary Ann Nagelとかいう人たち)は、トリオ解散後は鳴かず飛ばず。諸行無常の響きあり・・・・・・であります。

ちなみに、サンドラには、Alphavilleのオリジナルヒットで知られる「Big In Japan(Japan Ist Weit)」、プロモビデオが涙と感動を呼ぶ「Hiroshima」という曲もあり、アラベスク時代の感謝を込めてか、「日本びいき」なところも見せています。

アラベスクのCDですが、さすがに日本国内盤がいくつか出ています。写真はビクター盤2枚組ベスト。収録曲数が計40もあって最強です。

ヒートウェーブ (Heatwave)

Heatwaveディスコって歌詞もおバカです。恋だの愛だの、さらにはドラッグだのセックス(特に同性愛)だのと言いたい放題。「ふ〜♪ ふ〜♪」みたいなとっぴな掛け声も効果音も、すっかりおなじみです。

日本語では一言では訳せないような「Funky!(最高!、ノリノリ!)」とか「Get Down! (やっちゃえ!、踊れ踊れ!)」のような、特段意味のない言葉も数多く使われています。ジャズピアノの演奏スタイルに由来する「ブーギー(Boogie)」とか、レコードの「溝」に由来する「Groove」なんて、有名なディスコ曲のタイトルとしても頻繁に登場します。部屋でじっくり聴いたり、一緒に歌ったりするのが目的ではなく、とにかく「踊る」ことに主眼を置くディスコの真骨頂であります。

というわけで今回は、数多ある「変てこ常套句ディスコ」のうち、“ブーギーもの”の金字塔といえる「ブギーナイツ」(77年、米ポップチャート2位)で知られるヒートウェーブ。発祥は旧西ドイツ。同国の駐留米軍兵だったジョニー・ワイルダーとキース・ワイルダー兄弟が、スティービー・ワンダーやクール・アンド・ザ・ギャングのコピーバンドを始めたのがきっかけでした。後に英国に移住し、音楽家のロッド・テンパートンが加入して活動を本格化。ブギーナイトが英米で大ヒットしたというわけです。

ただし、最初のヒット曲がウサン臭さたっぷりのブーギーものだとはいえ、この人たちは本質的に非常に“真面目”です。ブギーナイツにしても、イントロのジャズっぽいハープ演奏から徐々に盛り上げていって、「ぶ〜ぎ〜ないつ♪ お〜お〜お〜♪」と男性コーラスが入り、「ぶーぎないっ!」とダンサブルに展開していくアレンジは、ほかのディスコ曲ではなかなかみられない凝った雰囲気であります。

もう一つのディスコヒットである「グルーブ・ライン(Groove Line)」(78年)というベタな曲も玄人ウケする内容。イントロのシンセ使いやギターワークが一風変わっていています。

ヒートウェーブは、「アーバン・クール・ファンク」とか「スムーズ・アダルト・ファンク」などと形容されることもあります。ジャズ、フュージョンの要素もある実力派。実際、バラードでも「オールウェイズ・アンド・フォーエバー」(77年、R&Bチャート2位)のような大ヒットを出しています。

いやあ、こうみていくと、この人たちの場合はぜんぜん“おバカ”じゃないことに気がつきました。…とすると、ディスコ史的には重要人物たちではあるものの、私にとってはどこか物足りない。「グルーブライン」はまずまずですけど、「ブギーナイツ」は、曲そのものはいいのに、どうにもノリ切れません。ぜんぜんブーギーブーギー♪ではなく、ゆる過ぎます。

結局、このバンドも82年に出した5枚目のアルバム「Current」を最後に、表舞台からは消えていきました。実働およそ5年間と短命だったのです。メンバーのうちのロッドは、80年代にマイケルジャクソンなどに「スリラー」などの曲を提供して有名になりましたけどね。

「ブギーナイツ」については、83年にLafleurというグループが、シンセドラムをがしがし使い、アップリフティングにリメイクしておりまして、私はこっちの方は大好きです。札幌のディスコでもかなりヘビープレイされておりました。

写真のCDは、10年ほど前にソニーから出た米国盤ベスト。音質は申し分なく、「グルーブライン」と、79年発売の3前目のアルバムに入っている「Eyeballin'」という曲のそれぞれ12インチバージョンが収録されていて、オトクといえましょう。
プロフィール

mrkick (Mr. Kick)

「ディスコのことならディスコ堂」----本名・菊地正憲。何かと誤解されるディスコを擁護し、「実は解放と融合の象徴だった」と小さく訴える孤高のディスコ研究家。1965年北海道生まれのバブル世代。本業は雑誌、論壇誌、経済誌などに執筆する元新聞記者のジャーナリスト/ライター/翻訳家。もはや踊る機会はなくなったが、CD&レコードの収集だけは37年前から地味〜に続行中。アドレスは↓
mrkick2000@gmail.com

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