Supremesちょっと前に話題になった、黒人ソウル音楽をテーマにした映画「ドリームガールズ」のDVDをみていたら、突然、主役のビヨンセたちが歌う「ワン・ナイト・オンリー」という曲がかかりました。何の下調べもせずに適当にビデオ店で選んだので、「なんでこんな曲が入っているのかな」と変に思ったものです。

この映画は、1981年にヒットした同名のブロードウェイ・ミュージカルが下地になっています。物語は、シュープリームスやモータウンレーベルの成功談に基づいているといわれていますが、映画をみても今ひとつぴんと来ません。まあ、筋書き的にはなんとなく分からないでもないのですが、主役の黒人女性3人組が「ベイビー・ラブ」とか「ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ」とか「恋はあせらず」を歌うわけでもないので、全体的には実感は沸きませんでした(私が鈍いのかも)。

そんなことより、「ええっ!!これが?」という「ワン・ナイト・オンリー」にこだわりたい。これはまさに、シェリー・ペインという元シュープリームスのボーカリストが、84年に、ブロードウェイの「ドリームガールズ」の主題歌をハイエナジーディスコ風にリメイクして、ヒットさせた曲なんです。

……といっても、全米ディスコチャートで最高41位ですから、大ヒットというわけではないのですけど、私自身が札幌のディスコでよく耳にしてやたらと気に入ってしまい、12インチレコードを買ったのでした。映画でも、この曲を聞いたことで初めて、「ああ、この映画は、やっぱりシュープリームスを意識しているのかな」と辛うじて思ったのです。

シュープリームスって、誰がどうみても、ダイアナロスが在籍していた60年代の人たちであります。69年に偉大なるダイアナが去ると、もう記憶の彼方、ってほどではないにしても、マイナーグループに転落してしまいました。

ですが、ディスコ的には、彼女たちは70年代にこそ見るべき点が多いわけです。唯一のオリジナルメンバーであるメアリー・ウィルソンのほか、ジーン・テレル、それにシェリー・ペインといった人々がリードボーカルを担当し、「He's My Man」(75年)、「I'm Gonna Let My Heart Do The Waking」(76年、全米ディスコチャート3位)、「Let Yourself Go」(同年、同5位)といったなかなかのダンスナンバーをリリースしていたのでした。

それでも、往時のようなメジャーヒットは出ず、モータウンからもあまりPRにお金をかけてもらえなくなったことなどから、77年には敢えなく解散。それぞれソロの道を歩むことになったのですけど、成功はしませんでした。シェリーもご他聞にもれず、手っ取り早く「ディスコ」という苦界に身を投じたというわけです。一方で、ダイアナだけはず〜と大スターでしたけどね。

シェリーは、女性ソウル歌手として活躍したフリーダ・ペインの妹でもあります。小柄なわりに歌唱力はめちゃめちゃあるのですが、例えばダイアナ・ロスのような個性は見られない。歌手個人の顔が見えにくいディスコ界から誘いがあったのというのも、分からないでもありません。「ワン・ナイト・オンリー」をリリースしたのは、米ロサンゼルスのメガトンレーベルです。業界的にはマイナーなディスコ企業からすれば、「元シュープリームス」というのは、願ってもないプレミアだったのですね。

意外なところで再発見した「ワン・ナイト・オンリー」。確かに、曲自体は非常によいと思います。ミュージカル、映画、ディスコを問わず、特にその聞きやすくてメロディアスな旋律が、普遍的な魅力になっています。

上写真は、70年代に絞った「ダイアナ抜きシュープリームス」の貴重なベストCD「The 70's Anthology」(2枚組)であります。

シェリー・ペインの「ワン・ナイト・オンリー」については、12インチは結構たやすく手に入るのですが、CDでは今のところ、下写真のハイエナジーディスコのベスト盤「Essential Hi-NRG Classic Vol.1」でしか聞くことができません。ただし、収録曲がいずれもロングバージョンで内容はすばらしい。もちろん、シェリーの「ワンナイト」は、「ドリームガールズ」のサントラに入っているビヨンセの「ワン・ナイト・オンリー(ディスコバージョン)」よりも“もろ80'sディスコ”でして、断然良いです(きっぱり!)。
Deep Beats