Paul Mauriat最近の週末、近所のホームセンターに買い物に訪れたところ、店内では涼風のようなイージーリスニング音楽がそよそよと流れていました。曲名は「恋はみずいろ」(Love Is Blue)。さわやかさにかけては他の追随を許さない「イージーリスニング界の巨匠」、ポール・モーリアさんの代表曲のひとつでして、1968年には、米ビルボード総合チャートでなんと5週連続で1位を獲得しています。

レストラン、喫茶店、温泉ホテルのロビー、デパートの家具売り場、郊外型大型店の台所用品売り場、歯科医院の待合室…。とにかく、ボーカルなしのイージーリスニングは、耳に心地よく馴染むお手軽さ、お気楽さこそが命。気持ちがすっかり落ち着き、心穏やかにお食事やお買い物、そして治療に専念できるというものです。

この癒しのイージーリスニングですが、実は私がホームセンターで聞いたのは、68年のオリジナルとはちょいとアレンジが違う「恋はみずいろ '77」(Love Is Still Blue)というディスコバージョンでした。発売は大ディスコブームが間近に迫っていた1976年。確かに、さわやか路線は頑なに維持しつつも、振幅の大きいベースライン、躍動するホーンセクションとストリングス、パーカッションがまさに「ザ・オーケストラディスコ」の真髄を見せ付けております。

もちろん、後に雨あられのように容赦なく降り注ぐ16ビートの重量級ドンドコ路線ディスコとは一線を画していますが、ソウル界のフィリーサウンドやバリー・ホワイトのオーケストラディスコのような安定したダンサブル感も醸しておりまして、イージーリスニングとディスコとの意外な親和性を見る思いです(さわやか過ぎて激踊りには向かないにせよ)。

モーリアさんは1925年フランス生まれ。音楽好きの父親の影響を受け、幼いころからピアノやオルガンの演奏に没頭。やがて当時流行のジャズやポピュラーミュージックに傾倒し、自らダンスバンドを組んでヨーロッパ中を演奏して回るなどして活動を本格化させ、主に音楽制作の分野で活躍するようになります。

1963年には、リトル・ペギー・マーチがアメリカで大ヒットさせた「I Will Follow Him」を作曲し、注目されました。この曲は後の80年代、クラウディア・バリーやオランダの女性アイドルグループLuv'のメンバーだったJoseがカバーしてディスコでヒットさせています。特にクラウディアのバージョンは、私もよくディスコでも聞いたものです。

68年に「恋はみずいろ」をヒットさせたモーリアさんは70年代以降、イージーリスニング界のスターとして世界中で人気となりました。映画音楽や当時のヒット曲を清涼感あふれるオーケストラ曲として盛んにリメイクし、どんどんアルバムを発売。日本にも何度もツアーに訪れて、コーヒーやワインのテレビCMに出演するほどの人気者となりました。

結局、アメリカでのチャートヒットは「恋はみずいろ」のみでしたが、70年代半ばから後半にかけては、積極的にブームに乗ろうとディスコリメイクも次々発表。中でも、1975年発売のアルバム「Have You Never Been Mellow」に収録されている「El Bimbo」(邦題・オリーブの首飾り)はマジックショーのBGMとしてもお馴染みですが、万が一ディスコフロアでこれがかかったら、突然シルクハットから「ポン!」と白鳩が飛び出してくるような驚きと困惑の空気が流れ、思わず腰が引けてくること必至です。

ただ、この曲は、Bimbo Jetというディスコアーチストも、前年の1974年にダンス曲としてヒットさせています。こっちの方は、もろディスコ用だけに、けっこうなノリで楽しめます(エンディングで「ああ貧乏〜」と空耳の嘆きも楽しめる)。

先述の「恋はみずいろ 77'」が収録されたアルバム「Love Is Still Blue」の発売は76年で、ほぼ全編“ゆるやかディスコ”で染め上げられています。「エーゲ海の真珠」(Penelope)、「シバの女王」(La Reine De Saba)などのオーケストラ・ディスコリメイクが収録されておりまして、持ち前の厚みのあるオーケストラ演奏に加え、素朴なアナログシンセサイザーの音色が彩りを添えています。

同じ76年、日本では「ラブ・イズ・スティル・ブルー〜ポール・モーリア・ディスコ・センセイション」というアルバムが国内盤として発売され、同様に「恋はみずいろ」「エーゲ海」「シバ」の3曲のディスコバージョンが収録されました。

ディスコブームが終わった80年代以降も、自分のオーケストラを率いて世界各地を飛び回り続けたモーリアさん。2005年に81歳で亡くなってしまいましたが、とりわけ日本では、50代以上であれば知らない人がいないほどの音楽界の大立者。時には心穏やかにワインやコーヒーを口にしながら、まろやかディスコを堪能するのもオツなものです。

モーリアさんのCDはベスト盤を中心に大量に出回っているのものの、ディスコバージョンが入っているものはあまりありません。上写真は、彼が長く所属したレーベルであるPHILIPS社のベスト盤のひとつ「Les Chansons d'amour 1967-1986」(発売元・日本フォノグラム)で、「エーゲ海の真珠」の76年ディスコバージョンが収められています。下写真は、2003年にフランスで発売されたベスト盤「Best Of Paul Mauriat」で、「エーゲ海の真珠」などの80年代ユーロビート風のディスコアレンジのバージョンが入っています。

Paul Mauriat 2