Kwick 1980_2「3K」シリーズのしんがりは、黒人4人組ボーカルグループのクイック。米テネシー州メンフィス出身で、1960年代後半から、地元の黒人音楽の拠点であるスタックス(Stax)レーベルで「ザ・ニューカマーズ(The Newcomers)」という名前で活動していました。

このころは、「Pin The Tail On The Donkey」(71年、米R&Bチャート28位)という自前の小ヒットも出したものの、同じメンフィス出身のアル・グリーンや同じスタックスレーベルのバーケイズエモーションズなど、別の大物ミュージシャンたちのバックコーラスとか前座として主に活躍しておりました。

長年の下積みを経て心機一転、名前をKwickと変えて、EMIレーベルから初の8曲入り本格アルバム「Kwick」(写真)をリリースしたのは1980年のこと。プロデューサーは、スタックスの数々のトップミュージシャンを手がけたアレン・ジョーンズ(Allen Jones)。これがまたかなりディスコテークな内容で、もはやディスコなんてアメリカではNGワードになりかけていたにもかかわらず、ジャケット写真同様に元気いっぱいな楽曲が目白押しになっています。

特に、シングルカットされたA面1曲目「I Want To Dance With You」では、お約束のシンセドラムの「ぴゅんぴゅんぽんぽこ」音が随所に鳴り響き、ぐいぐい踊り心を揺さぶります。リズム展開が、同時代のあの奇天烈ファンキーチューン「Double Dutch Bus」(Frankie Smith、80年、R&B1位、ディスコ51位)や、「都会派ディスコ」GQの「Disco Night」(79年、同1位、同3位)に似た感じ。ディスコ的には熱烈に好感の持てる一曲です。

ほかの7曲を聴いてみても、バーケイズやリック・ジェームスばりの「うねうねシンセサイザー」が飛び出したかと思うと(A3「Can't Help Myself」とか)、80年代前期ブラコンの定番「ぶいぶいシンセベース」で腹の底がひっくり返されるような重量感を演出(A4「Serious Business」とか)しています。おまけに、70年代末期みたいな折り目正しい「四つ打ちもろディスコ」まで秘かに紛れ込ませる始末(B1「We Ought To Be Dance」)。圧倒的な“腰浮きファンク”ぶりとなっております。

・・・とまあ、けっこう惚れ惚れする「うきうきアゲアゲ」アルバムになっているわけですが、セールス的に今ひとつだったというのも、この手のディスコファンクグループのお約束です。クイックになってからの最大のヒット曲が、このアルバムB面3曲目のスローバラード「Let This Moment Be Forever」(R&B20位)だったというのは、(私的には)なんだか皮肉です。でもまあ、もともとのウリがコーラスなわけですから、不自然ではないのかもしれません。

クイックは翌81年、プロデューサーをはじめほぼ同じ制作陣で「To The Point」というアルバムをリリース。今度はもっとあからさまにシンセサイザー音を前面に出し、エレクトロファンクなノリを加えて勝負しましたが、前作を超えることはできませんでした。結局、クイックは83年に出したもう一枚のアルバム「Foreplay」を最後に、表舞台から消え去ることとなりました。

それでも、「To The Point」でいうと、「まるでジャクソンズ!」というべき「Shake Till Your Body Break」は秀逸。マイケルたちの「Shake Your Body To The Ground」をもろに意識していますが、ディスコならではのちょっとした小っ恥ずかしさが素敵です。ほかにも、イントロで展開するのんびり感あふれる電子音が哀愁を誘う「Nightlife」、「You're The Kind Of Girl I Like」など、味わい深いディスコファンクが含まれています。

こうしてみてみると、ディスコ的には、地味ながらも一応ツボを押さえた曲群を世に放っていたように思います。 商業的に成功させようとする意図が露骨に見える痛々しさはあるにせよ、フロアで「非盛り上がり時間帯」にゆらゆらと流してみたり、家の中でゆったりと聞き流すにはほどよいグループだと思っています。「ビギナーとマニアックの狭間」を行くディスコ堂のブログ趣旨からしても、外せない人々です。

この人たちの再発CDは、1年ほど前にようやく発売となりました(英Expansion盤)。上記2枚のアルバムが1枚のCDに入っているお得盤であります。