Ultrabox今回は「これぞイギリスニューウェーブ!」といわざるを得ないグループ「ウルトラボックス」です。スーツ姿のさっそうたるジャケットも、いかにも80年代という感じです。

しかし、このグループが結成されたのは1970年代前半。シンセサイザー界では後にちょいと名の知れた存在となるジョン・フォックスが中心人物でして、「Hiroshima Mon Amour」(77年)のように、初期シンセをにょろにょろと取り入れたアバンギャルドな音が特徴でした。ただし、当時は既にディスコブームでしたのに、踊りにくさ満点ですのでディスコではありません。

雰囲気がガラリと変わったのは79年のこと。ソロ転向のため脱退したリードボーカルのフォックスに代わって、ミッジ・ユーロというこれまた後にソロで成功した人物が加入したことで曲調が明るくなり、ダンサブルなシンセポップ/ロック路線をひた走るようになったのです。

ちょうど80年に出したアルバム「Vienna」(写真)は、イギリスを中心に大ヒット。日本でも酒のCMで収録曲「New Europeans」(ニュー・ヨーロピアンズ)が使われるなど、よく知られる存在になりました。80年代初期にしては、相当に時代を先取りした音になっていると思います。

さらに、次のアルバム「Rage in Eden」(81年)、その次の「Quartet」(82年)、そのまた次の「Lament」(84年)も大ヒットし。本国イギリスでは、デペッシュ・モードやデュラン・デュランといったトップスターにも肉薄するほどの“準トップ”ニューウェーブ・アーチストとして、成長を遂げたのであります。“準トップ”というのは、どういうわけか大消費地アメリカでは、ほとんど売れなかったからです。

とりあえず、ディスコ曲的には「Vienna」のNew EuropeansとAll Stood StillSleep Walk、「Quartet」のHymnReap The Wild Wind、「Lament」のDance With Tears In My Eyesあたりが、特にテクノダンスなノリでして、実際にディスコでもよく耳にしました。

中でも一番人気だったのは、やはりニューヨーロピアンズ。これがかかると、髪型をいわゆる“テクノカット”に仕立て上げたお兄さんが、全身黒ずくめのカラスみたいな衣装を身にまとい、独特の縦ノリダンスで没我の境地だったのを思い出します。

彼らの音楽は、70年代後半から既にシンセ中心ではありましたが、80年代に入ってからは、持ち前のクールで硬質な音作りに加えて、リズムマシーンなどのドラムビートがしっかりと明確に刻まれていたのが好評でした。

それでも、エレキギターの音色もふんだんに含まれていて、ロックの要素も色濃く感じさせます。「ちょっとディスコとは言い切れないかもにゃ〜」とは私自身、正直思いますが、ノープロブレム! 何しろ80年代ですから、フロアは「何でもありで大いに結構」だったわけです。

けれども、80年代後半にミッジユーロがソロになって脱退したのと同時に、しょんぼりと解散してしまったのがウルトラボックスさんです。日本のグループでも数多く例がありますが、リードボーカルの主役がいなくなった途端に影が薄くなる典型的なパターンになってしまいましたとさ。

さて、再発CDはとにかくたくさん出ていますので、ほぼ心配ご無用。ちょっと変わったところでは、写真下の12インチ集「Extended Ultravox」(98年、英EMI Gold盤)もよろしい。80年代の主なヒット曲が、ディスコ向けにアレンジされていてなかなか楽しめます。

Ultrabox Extended