ディスコ堂 by mrkick

音楽に貴賎なし ―Discoの考察とCD批評

ライム

ギブソン・ブラザーズ (Gibson Brothers)

Gibson Btos本日は「困ったときのギブソン・ブラザース」…であります。この人たちの曲は、どれも無難に躍らせる快活さが売り物。陽気なラテンフレーバーたっぷりのいかにもディスコな面々です。

彼らクリス、アレックス、パトリックの仲良し3人兄弟は、カリブ海の西インド諸島出身。後にフランスに移住して1976年に「Come To America」でデビューし、折からの世界的ディスコブームの追い風に乗り、最初から本国をはじめ欧州各国で人気を集めました。

代表曲はなんといっても「Cuba」(79年、米ビルボードディスコチャート9位)であります。もろサルサ風のノりにユーロディスコ風味を少々味付けした風情で、世のディスコフリークたちを南洋性の愛と熱狂の渦に巻き込んだものでした。

ほかにも、ヴィレッジ・ピープルにも似た「Que Sera Mi Bida(ケ・セラ・ミ・ビダ)」(80年、同8位)とか、「Better Do It Salsa」(78年)、「Laten America」(80年)といった同系統のラテンディスコの佳品があります。いずれも縦横無尽に跳ね回るピアノやパーカッションやサンバホイッスルが気分を豪快に盛り上げてくれますので、ちょっと仕事の悩みやストレスを抱えているような人々にはもってこいの「すべてを忘れてバカ騒ぎ!」系の能天気ディスコです。

個人的には、リードボーカルのクリスの「ハスキー度」がやたら高くてうるさ過ぎかもなあ…と思いました。なんか昔紹介したカナダ発ハイエナジーの「ライム」みたいな感じ。渋いブルースのような驚くべき声をしているので、ミスマッチ感覚を楽しむほかないのかもしれません。それでも、とにかく全身全霊、汗だくになりながら体を張って一生懸命演奏している雰囲気なので、「憎めないフレンチディスコ野郎」だとの印象です。

このブラザーのピークは80年前後だったのですが、とりわけ日本では、83年発売のおとぼけチューン「My Heart’s Beating Wild(邦題:恋のチック・タック)」がカルト的人気でした。

私も、当時行っていた札幌のディスコで、イントロの「ぽんぽこぽんのぽんぽんぽん〜♪」という人を食ったようなお気楽シンセサイザーの音色が流れた途端、「ドリンク休憩中」のお客さんたちが、「来ました、来ました、来ましたヨ♪」ってな調子でやおらフロアに集まってきたのを目撃しています。サビの「俺様の心臓が激しく高鳴るぜ(My Heart’s Beating Wild)、チック、タック、チック、タック(Tic Tac Tic Tac)♪」と歌っている部分では、お約束の振り付けダンスもありました。

CDはあまりいいのがないのですが、写真の米ホット・プロダクション(Hot Productions)盤のベストが一番網羅的でしっかりした内容と思われます。上記「Come To America」、「Cuba」、「Que Sera Mi Vida」、「恋のチック・タック」などのロングバージョンも収録されています。まあ、相当に「過去の人」ではありますけれど、彼らの公式HPを見ると、今でも欧州を中心にライブなどを精力的にこなしているご様子で嬉しい限りですな。

スージー Q (Suzy Q)

Suzy Qあれよあれよという間に今月も半ば過ぎ――というわけで新年一発目はスージーQであります。コンピューターボイスをあしらった不思議ちゃんディスコ「Get On Up and Do It Again」が、81年に全米ディスコチャート4位まで上昇しました。

この人の本名はミッシェル・ミルズ(Michelle Mills)といいまして、80年代初頭を彩ったライムトランスXジノ・ソッチョたちのちょっと後をゆく感じのカナディアンディスコの補欠的存在です。

でも、上記の代表曲は一風変わった味わいを醸し出していますし、何よりも少なくとも一発屋ではない。この後、「With Your Love/Tonight」(同チャート12位)とか、少々派手やかな「Computer Music」、Suzi Laneの79年のヒット曲のリメイク「Harmony」といった後続ディスコヒットを世に送り出してはおりますな。本国カナダのユニディスク・レーベルからベスト盤CD(写真)も出ております。

私としては、当時のディスコでも聞いた「Get On Up…」もさることながら、「Can't Live Witout Your Love」(86年)も印象深い。これは私が札幌から上京し、六本木デビュー(トホホ)したてのころのヒットでして、「なんかええなあ」と感じ入り、いまはなき渋谷の輸入盤店Ciscoに駆け込んで、アトランティックレーベルの12インチを購入した記憶があります。このころヒジョ〜に流行した哀愁ユーロ調でして、六本木リージェンシーあたりで頻繁に耳にいたしました。

この曲については、クレジットが「Suzy」となっており、「Q」が抜けております。これは同時期にバカ売れした「Two Of Hearts」(86年、ビルボード一般チャート最高3位)を歌った「ステイシーQ(Stacey Q)」との混同を避けるためだったとされています。

まあ、この人の解説は大体このあたりで終了〜なのですが、最も売れた「Get On Up」については余談があります。この曲は明らかにボーカルの違うバージョンがいくつかあったのですが、そのうちの一つがキャロル・ジアーニ(Carol Jiani)というかなりメジャーなナイジェリア人ハイエナジーディスコ歌手がボーカルを担当したのでした。この人自身、「ヒット・エンド・ラン・ラバー」(81年。ディスコチャート4位。強引に訳すと“ヤリ逃げ野郎”!)という「曲はいいのに何だかトホホ」なディスコヒットを飛ばしています。

実は、キャロルがレコーディングしたことはレコード会社との契約の関係上、極秘にされていて、レコード自体にもクレジットはありませんでした。けれども、当ブログのリンク集にもあるディスコサイト「Discomusic.com」で2年ほど前、いきなりキャロル本人が投稿者として何度も登場し、この事実を打ち明けたのです。「あの時はだまされたのよね。でも、後で自分の名前で録音し直したからいいワ」と語っておりました。

なんていい加減なディスコスゥィーン!! ……まあ、たいていの人にとっては、「Get On Up」の「影武者」としてキャロル・ジアーニがいようがいまいがどうでもいいことですが、私のような“おっぺけディスコ野郎”にとっては、こんなサマツなことがとっても気になっていたのでありました。

……ということで、今回は画面写真付きでYouTubeの「Get On Up」を2バージョン、紹介しておきましょう↓ 次回以降も、80年代にちょっとこだわろうと思っておりま〜す。

<Suzy Qバージョン>


<Carolバージョン>

カトマンズ (Kat Mandu)

Kat Mandu (Banjo)浮かれた時代の1980年代、燃え盛る真夏の若者の楽しみと言えば、ディスコとナンパでした……という与太話は別にしまして、元気いっぱいハイエナジー特集、今回はあのカトマンズであります。……えっ? あまりメジャーじゃないって? 確かに。しか〜し、私にとって代表曲「ザ・ブレイク(The Break)」(79年、全米ディスコチャート3位、YouTube音声ではじけてください)は、なんとな〜く思い出に残る一曲なのであります。歌もないのに。

「歌がない」。そう、つまりインストの名曲だということなのです。「エンジェル・アイズ」とか「ギルティー」とか「思いがけない恋(Unexpected Lovers)」などのヒット曲で、80年代ディスコフリークには大いに知られるカナダ発ハイエナジーのアーチスト「ライム(Lime)」の中心人物デニス・ルパージュが、70年代後期に手がけたディスコ・グループなのでした。

グループ自体の中心人物は南アフリカ出身の黒人アーチストであるジミー・レイ氏。この人自身、ギターのかなりの名手でして、ロックにディスコに、さまざまな売れ線アーチストのギタリストとして活躍もしていました。

さらに、彼は歌もそんなに下手ではありません。カトマンズのもう一つの代表曲である「アイ・ワナ・ダンス(I Wanna Dance)」では、ファンク風の華麗な(ただしいまいちインパクトの弱い)ボーカルを披露しております。

この人たちはこの「ブレイク」「アイワナ」だけでほぼ終わりなのですが、私にとって特に「アイワナ」はかなりの印象を残しています。なんと使用楽器の一つとして、珍しやバンジョーを使っているのですね。そう、アメリカのカントリー音楽なんかでよ〜く耳にする弦楽器です。意外なところでいきなり「ジャンジャカジャン」とバンジョーが入るディスコって、ほかになかなかありません。好事家にはうってつけのディスコの珍曲と言えるでしょう。

もちろん、最も売れた「ブレイク」もなかなかに良い曲です。ほんとライム的なアップリフティングないけいけディスコで、ライムの初期のインスト名曲「エージェント406(Agent 406)」と繋ぐとバッチリなのですね。実は今もちょこっと「ブレイク」と「エージェント」の2曲を聴き比べながらこれを書いているのですが、サタデーナイトの真夜中だからでしょうか、アラ不思議、リズムに合わせて体が自然に動き出して困ります(トホホ)。

実態が不明な点もあるライムと同様、ほとんどデニス・ルパージュの分身といえるカトマンズではありますが、東洋的ヒンズー的な粋なネーミングもさることながら、思いっきり「ハイエナジーといっても70年代だからシンセもしょぼいので、こんなもんでいいでしょ?」的な潔さと男らしさを感じさせるグループです。

アイワナについては私自身、「さあ、ひとしきり汗だくで踊ったことだし、トイレ行ってフリードリンクの薄い水割り飲んで休憩しようかな」っていうタイミングでかかると最高(?)だと思います。……いや、こういう一見場つなぎの曲って、実は自宅で聴く分には名曲だったりするのです。皮肉ではありますが。

写真のCDはそんなカトマンズのベストCD。やはりカナダのUnidiscレーベルで出ているやつで、これがほとんど唯一無二のCDです。比較的新しいリミックスバージョンが多く含まれていてちょっと残念ですが、貴重な再発モノです。ごく初期のハイエナジーの雰囲気を味わうには最適なグループであります。

さて、次回あたりからは久しぶり、こてこてファンクやらソウルやらブラコンやらへと移行することといたします。
プロフィール

mrkick (Mr. Kick)

「ディスコのことならディスコ堂」----本名・菊地正憲。何かと誤解されるディスコを擁護し、「実は解放と融合の象徴だった」と小さく訴える孤高のディスコ研究家。1965年北海道生まれのバブル世代。本業は雑誌、論壇誌、経済誌などに執筆する元新聞記者のジャーナリスト/ライター/翻訳家。もはや踊る機会はなくなったが、CD&レコードの収集だけは37年前から地味〜に続行中。アドレスは↓
mrkick2000@gmail.com

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