Princeプリンスとは80年代の衝撃。それまでの音楽の才人たちが築き上げた礎に屹立し、まったく独自の世界観を完璧に作り上げた稀有な天才アーチストでした。

1982年ごろ、深夜に放送していた音楽TV番組「MTV」で初めてこの人を見たときには、「なんだこの人間は!」と度肝を抜かれました。見かけは黒人ファンクの様相ですが、マイクスタンドをあっちこっちに振り回したり、足を完全に股割け(スプリット)にする奇妙なダンスを織り込んだりと、元気あり余るロックミュージシャンなのかパンクロッカーなのか皆目見当がつかないパフォーマンスぶりです。

なによりも音楽そのものが世界一周さながらの“無国籍料理”でした。JBばりのソウル、スライ風味のファンク、ジミー・ヘンドリックス(ジミヘン)を髣髴させる渦巻きサイケ音楽、それにジャズやらラテンやらハードロックやらパンクやらなんでもありでして、しかもなぜか調和・融合している。どうにも定義しにくい音なのですね。個性という言葉自体、この人のためにあるようなものです。

1958年、米ミネアポリス生まれ。本名プリンス・ロジャーズ・ネルソン。ミュージシャンだった両親の英才教育を受け、ギターからピアノからドラムから、あらゆる楽器を巧みに演奏し、しかも器用にダンスまでこなすマルチプレイヤーに育ち、17歳の若さでメジャーレーベル(ワーナー)と契約。ディスコブームの1979年には「I Wanna Be Your Lover」を大ヒットさせました(全米R&Bチャート1位、全米ディスコ2位)。

この曲は典型的なファンク路線。時代的にディスコの範疇に入れることは可能ですけど、曲調には既にプリンスワールドが横溢しています。あの独特の高音ボイスも既に異彩を放っています。

この人の人生が最も大きくジャンプアップしたのは、やはり82年発売のアルバム「1999」(写真)です。「リトル・レッド・コルベット」(全米一般チャート6位、R&B15位)、表題曲「1999」(ディスコ1位、R&B4位)などなど、ディスコからバラードまで、世界を驚かせるに十分な印象深い曲が満載となっております。

メディアのインタビューなどほとんど受けないというシャイで謎めいたキャラクターながら、音作りは大胆不敵そのもの。特に、シンセサイザーの使い方が絶妙かつやたらと革命的でして、やや乾いた調子で連続する特徴的なドラム(リンドラム)&ビートを聴いた途端に「こりゃプリンスだわ」とバレてしまいます。私はディスコで当時「1999」をよく聞いたものですが、フロアはいつも満員御礼で、俗に言う「芋洗い」状態になること必定でした。

続く85年には最高傑作との呼び声高い「パープルレイン」を発表。ヘビメタ顔負けのギンギン高速チューンで踊っていて文字通り気が狂いそうだった「レッツ・ゴー・クレイジー」(一般、R&B、ディスコチャートいずれも1位)とか、お得意のドライ・シンセビートを基調としつつ、少々ブルージーな展開で意表を突いた「ビートに抱かれて(原題When Doves Cry)」(これまた3部門1位!)などの特大ヒットが生まれました。

このアルバム発売と合わせて、プリンスは自伝的映画「パープルレイン」を発表し、これまた興行収入8000万ドルを超す大ヒットとなっています。もう絶好調ですね!

個人的な記憶で言えば、当時札幌のディスコで「ビートに抱かれて」の終盤部分と、ハイ・エナジーのマニアックな曲「Seven Days」(Total Experience)のイントロとを「これぞ究極のつなぎ」とでも言いましょうか、とて〜も美しく重ね合わせていたDJがいて感心した覚えがあります。

プリンスさんは、その後も「ラズベリー・ベレー」(85年、R&B3位、一般2位、ディスコ4位)、「キッス」(86年、またまた3部門1位!)、「サイン・オブ・ザ・タイムス」(87年、R&B1位、一般3位、ディスコ2位)、ヒット映画「バットマン」の主題歌「バットダンス」(89年、またもや3部門1位!)などのウルトラヒットを連発。トップスターの座を不動のものとしたわけです。

プリンスといえば80年代、以前に紹介したアポロニア6、ヴァニティ6、シーラE、The Timeなどの「プリンスファミリー」を率いていたことでも知られます。関連子会社を束ねるいわばグループ総帥ですね。どのアーチストもディスコを中心に大ヒットを飛ばしていました。

1990年代以降は、我が強いプリンスとレコード会社との関係がこじれるなどしてさすがに失速します。発音不可能な記号文字のようなシンボル(「ラブ・シンボル」と本人は称していた)をアーチスト名として使用するなど、もともとあった奇妙奇天烈な(しかし魅力いっぱいな)側面が肥大化。曲調もなんだかサイケな雰囲気が加速して、スピリチュアルなのかファンタスティックなのか分からない世界へと突入していったのは残念でした。天才表現者ゆえに、行き着くところまで行き着いた、という感じではあります。

今でも根強い人気がある大物だけにCDはとてもたくさん出ていますので、ここで紹介するまでもありません。プリンスといえば、著作権管理に非常に厳しく「作品がすぐ消されるのでYouTubeで見られない」という定説がありましたけど、最近は以前ほどではないようです。

もちろん、あまりに高音質・高画質なアップロードなどは取り締まられても仕方がありませんが、マイケル・ジャクソン、マドンナらと並んで80年代ポップ音楽史を彩った歴史的スターだけに、文化芸術作品を社会的に共有する価値も考慮していただければ、と願っております。その方がかえってCDなども売れるんじゃないでしょうか!?(確証はないが)。