エクスタシー、パッション & ペイン (Ecstasy, Passion & Pain)1970年代初期というと、ディスコはまだ広く認知されていませんでした。60年代からの「ゴーゴーダンス」みたいな、ソウルな世界が展開していたころです。レコードレーベルで言っても、モータウン(ジャクソン5「ABC」など)とか、フィラデルフィア・インターナショナル(オージェイズ「ラブ・トレイン」など)とか、ダンスナンバーを世に送り出す会社は数多くありましたが、「黒人解放運動」「ブラック・イズ・ビューティフル」な感じでやけに泥臭く、かつ古典的なイメージがつきまといます。純粋ディスコとは言いがたい。

そんな時代が移り変わろうとする1973年に結成されたのが、エクスタシー、パッション&ペインであります。同名アルバム「エクスタシー、パッション&ペイン」を74年に発表し、中でも「アスク・ミー」は、統計が始まったばかりのビルボード・ディスコチャートで2位まで上昇するヒットとなりました。発売元は「ルーレット」というインディレーベルで、ディスコレーベルのパイオニアといえる存在です。

このアルバムを聴いていくと、いずれも「四つ打ち」のディスコビートがしっかり刻まれております。いよいよソウルの「渋さ」にディスコ風の「ハッピー気分」が加わってきた、といったところでしょうか。

プロデュースはボビー・マーティンで、フィリーサウンドの源流を作ったといえる人です。そして、リードボーカルおよびギターを担当するのはバーバラ・ロイ。数々の著名ディスコアーチストのボーカルを務め、「影のディスコディーバ」でもあったジョセリン・ブラウンは、この人の姪っ子であります。ロイのジョセリン並みのド迫力低音ボイスが際立ちます。

このアルバムの後、「エクスタシー…」は76年に「タッチ・アンド・ゴー」という曲を7インチと12インチシングルで発表しています。これはもう、年代的にももろディスコでして、ダンクライベントなんかでもよく耳にする名曲の部類ですね。全米ディスコチャートでも4位までいきました。プロデュースは、アラン・フェルダー、ノーマン・ハリス、バニー・シグラーの3人組。いずれも、ファースト・チョイスやM.F.S.B.といった著名アーチストの楽曲制作にも関わったフィリーサウンドの大立者です。

ただ、前回紹介の「ゲイリー・トムズ・エンパイア」同様、この人たちもちょっと登場が早過ぎたみたいです。「タッチ・アンド・ゴー」以降、人気は下降線をたどり、大ディスコブームのころには、いつの間にか消えていました。結局、アルバムも1作品を残したのみであります。特に、バーバラ・ロイは非常に評価の高いボーカリストなのですが、いまひとつ本領を発揮できなかったようです。

ちなみに、このアルバムのB面に入っている最後の曲のタイトルは、英語のフレーズとしてよく使われる「Good Things Don't Last Forever」(よいことは永遠には続かない)であります。皮肉なことにその通りになりました。

写真は唯一のアルバム「エクスタシー…」のCD。丁寧にも「タッチ・アンド・ゴー」の7、12インチバージョンの両方がボーナスで入っているおトク盤ですが、12インチバージョンの方は、音が僅かにかすれている部分があり、残念! この曲については、別のCDがいくつか出ている(ルーレット・レーベルの名曲集「Get Up And Move Your Body!」=日本盤=など)ので、そっちの方がいいかもしれません。