Lakeside今月10周年を迎えたこのブログ、地味に始まり、気がつけば今も地味〜に続けております。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

さて、今から30年以上もの昔、「Sound Of Los Angeles Records」の略語である「Solar(ソーラー=太陽の意)」というレーベルがありました。ディック・グリフィー(Dick Griffey)という人物が、友人で音楽番組「ソウル・トレイン」の司会で有名なドン・コーネリアスとともに創立。発祥は米東海岸のフィラデルフィアですが、すぐに文字通りロサンゼルスに拠点を移しました。以前にも紹介したシャラマーウィスパーズのほか、ミッドナイト・スターやダイナスティ、キャリー・ルーカスなどのこてこてダンス系の人気者が多数輩出した元気いっぱいのレーベルだったのです。

今回はその代表的な所属アーチストのひとつ、レイクサイドに光を当てましょう。上写真のアルバム「Fantastic Voyage(ファンタスティック・ボヤージ)」の表題曲シングルが、1980年の全米R&Bチャートで栄えある1位(全米ディスコチャートでは12位)に輝いた最大9人編成の「楽器、ボーカルなんでもそろってま〜す」の大所帯黒人グループです。

確かに「ファンタスティック」あたりは、当時のディスコでもラジオの洋楽番組でもよ〜く耳にしました。シンセベースの音色も楽しい、もう「ぶいぶい、ぶっりぶり」の泥臭さ満点の重量級ファンクでして、踊る際にも、丹田(へその下あたり)に力を込めて心してかかったものです。

レイクサイドの起源は1960年代末にさかのぼります。ファンクの本場であるオハイオ州デイトンで、地元のギタリストStephen Shockley(スティーブン・ショックレー)、リード・ボーカルになるMark Wood(マーク・ウッド)らが結成した「Young Underground」がルーツ。シカゴのタレント発掘コンテストで優勝するなどして実力が認められ、ソウル界の大御所カーティス・メイフィールドらが創立したカートム・レコードと契約しましたが、その会社は間もなく倒産してしまいました。

失意のうちにロサンゼルスに移り、レイクサイドと改名。ここではなんと、かのモータウンとの契約にこぎつけました。しかし芽は出ず、メジャーのABCレーベルに移ってから初のレコードを出しましたけど、これも売れず…という具合に、不遇続きのグループでした。それでも、1970年代後半には、成長著しいソーラーとの契約という大きな転機が訪れたわけです。

ソーラーでは、78年にアルバム「Shot Of Love」をリリース。その中の「ぶいぶいベース系」ダンス曲「It's All The Way Live」がR&Bチャート4位まで上昇するヒットとなり、ようやく日の目をみることになりました。その後、「Pull My Strings」(79年、同31位)、先述の「ファンタスティック」、「Raid」(83年、同8位)、「Outrageous」(84年、同7位、ディスコ42位)といったヒット曲を出しています。私自身、「ファンタスティック」以外では、「Outrageous」もずいぶんとディスコで耳にしました。

いずれもやっぱり重量ファンク系なのですが、ビートルズのスタンダードナンバーのリメイク「I Want To Hold Your Hand」(82年、同5位)などのスローバラードも高水準です。彼らは大都会ロサンゼルスの垢抜けた雰囲気を感じさせつつも、もともとはどファンクの激戦地区オハイオで鍛えてきた人々なので、演奏力は折り紙付きです(コンテストで優勝したし)。ビレッジ・ピープルみたいなコスプレなアルバムジャケットを見ても分かるように、衣装がいつも奇抜で、ライブパフォーマンスの評判も高かったグループです。それに、マーク・ウッドを中心としたボーカルは、時には男臭く、時には耳に心地よくメロウに響いて変幻自在です。アメリカの中西部と西海岸が融合した音作りになっていると思います。

アメリカでは各地方や都市に独特の音楽があって、そのまま代名詞になっていました。例えば、ケンタッキーのカントリー、シカゴのブルース、ニューオリンズのジャズやソウル、メンフィスのサザンソウル、といった具合。ロックでも、西海岸ロックとか、サザンロックなどたくさんあります。ディスコで言えば、フィラデルフィア・サウンドからマイアミ・サウンドに至るまで、ご当地ディスコがかなりありました。世界に目を向けても、欧州やアジアならではのディスコがありました。もちろん、今もそうした見方はされますけど、昔の方が地理的な色分けがはっきりしていたのです。

ディスコ音楽は90年ごろを境にクラブ音楽に移行し、テクノ、ハウス、ヒップホップ、R&B、ジャングル、ドラムンべース、ディープソウルといっ た具合に、ジャンルがより細分化していきました。シンセサイザーやコンピューターによる作曲技術の進化により、それまでは考えられなかったような音がどんどん作れるようになり、リスナーの嗜好も同時に多様化、個人化したことが背景にあると思います。

逆に、とりわけ高度情報化によりボーダレスかつグローバル化する中で、地理的には音楽の境界が薄くなったようです。少し前でもシカゴ・ハウスとか、デトロイト・テクノみたいなのは一部ありましたけど、基本的には、ニューヨーク、ロサンゼルス、それにロンドンや東京で制作されようとも、ヒップホップはヒップホップですし、ハウスはハウスです。地域別の個性は、かつてより感じられません。観客の目の前で演じるライブ音楽の価値はいまだに色あせていないにせよ、mp3などの音声ファイルに音楽を取り込めば、よい音質で世界中、誰でもどこでも手軽に手渡しして楽しんでもらえる時代ですしね。

レイクサイド、ソーラーレーベルともども、80年代後半には活動が急速に衰えていき、やがて消滅しました。そんな意味でもレイクサイドは、オハイオとロサンゼルスという2つの地域的特徴を濃厚に醸す最終世代のファンクバンドといえます。

再発CDは、ソーラーの原盤権を受け継いだカナダのUnidiscを中心に出ておりますが、かなり希少になってきております。ベスト盤であれば、英国Recall盤の2枚組(下写真)が、主なヒットが網羅的に収録されていてお勧めではあるものの、2枚目の収録曲の目録が間違っているなど、けっこうトホホです。
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