Millie Scott今回は「黒いジャガー」から時代をぐ〜んと新しくして、久しぶりに1980年代後半の「バブルディスコ」ということで。一時期、「Prisoner Of Love」(86年、全米ディスコ13位、R&B78位)、「Every Little Bit」(87年、R&B11位)、「Automatic」(87年、R&B49位)などの中小ヒットを集中的に繰り出したミリー・スコットさんです。

私も当時、浮かれ気分の六本木などのフロアで大変よく耳にしたものです。どちらかというと正統派ソウルなタイプの人で、活躍ぶりは地味でしたが、個人的に好きで、レコードを買ってよく聴いていた記憶があります。

調べてみますと、なんと申しましょうか、“ザ・苦労人”なんですね。本名はMildred Vaney(ミルドレッド・ヴェイニー)。47年米ジョージア州生まれで、少女時代はゴスペルで鍛え上げ、デビューに至ったのは60年代です。テンプテーションズやアル・グリーンといった大物のバックコーラスを務めたほか、「The Glories」、「Quiet Elegance」という名の女性グループでもボーカルを務めるようになったのですが、さしたるヒットには恵まれませんでした。

それでも、ディスコ史的には70年代末、突然ひょこっと顔を出したのがミリーさんであります。「Hott City」と「Cut Glass」という2つのディスコグループ(実はメンバーなどが互いにかなりダブっている)の中心ボーカルでもあったのです。前者では「Ain't Love/Feelin' Love」(79年、全米ディスコ29位)が、後者では「Without Your Love](80年、同16位)が、それぞれちょっとしたディスコ曲として認知されました。特に「Without…」なんて、後にディスコリメイクされたほどでして、なかなかゴキゲンな良曲となっております。

数年間のブランクの後、彼女のピークがやってまいりました。86年にソロデビューアルバム「Love Me Right」をリリースして英米でヒットを記録。この中から表題曲と「Prisoner Of Love」、「Automatic」、「Every Little Love」の計4曲のダンスチューンを矢継ぎ早にヒットさせたのです。このとき既に40歳になっていました。

曲調はもうホント、当時流行ったまったり感のあるアーバン・ファンクです。似たようなところでは80年代半ば以降のS.O.S.バンド、ルース・エンズあたりが頭に浮かびます。バブルなディスコはもちろんですが、こじゃれたカフェバーみたいなところでも確実にかかっていました。90年代ユーロビートやハウスやテクノやニュージャック・スイングみたいにハイパーになる直前のシンセサイザーの乾いた音色が、ガラス&鏡張りで無機質な「ザ・クリスタル」店舗空間には妙にしっくりきたものです。

彼女はこの後、88年に2枚目のアルバム「I Can Make It Good For You」を出しましたが、ちょいヒット止まり。再びバックボーカル中心のいぶし銀な活動ぶりになっていきました。歌はとてもうまいのですけど、うまいだけならほかにも大勢います。例えば、同じころに売れていたホイットニー・ヒューストンやジャネット・ジャクソンやキャリン・ホワイトのように、聴いて識別できるような“個性”に乏しい印象がありますね。

さて、この人のファーストアルバムのCDは長年、レア扱いで一時は日本円で数万のバカバカしい高値をつけるほどでしたが、なぜか今年に入って日本とオランダから相次いでCDが再発されました(写真)。注意したいのは、「Prisoner・・・」の12インチバージョンなどのステキなボーナストラックが、オランダのPTG盤にしか入っていないという点。音質に差はないので(実は間違って2枚とも買ってしまってトホホ)、ここは“輸入盤に軍配”ですかな。