Taylor Dayne徹頭徹尾、シンセサイザーがぶりぶりうなりまくっています。「うるさい」、でも「好き」、「好き」、でも「うるさい」…。私にとっては、花占いのごとき「心うらはら」な曲でした。

そんな人騒がせな曲の名は「テル・イット・トゥ・マイ・ハート(Tell It To My Heart)」(全米ディスコチャート4位、一般チャート7位)。歌い手は、これまた白人ながらソウルフルで、かつロックテイストも滲ませる炎の迫力ボイスだったテイラー・デインさんです。YouTubeのビデオをみると…いきなりコワい!。もう「リアル獅子舞」状態。なんだか油断してると一気にパクッ!と食べられちゃいそうです。

時はバブル突入期の1987年、東京は渋谷の「スパジオ」というディスコで耳にしたのが最初でした。私の中でも代表的な「百花繚乱雨あられ、心頭滅却火もまた涼し」の超絶バブルディスコとなっております。ディスコでかかる12インチバージョンでは、イントロから「シンセラッパ」のごときいかにも80年代な電子ホーンセクションが「パンパカパーン♪」とコミカルに鳴り響き、続いてお約束の「ビシッ!バシッ!」のゲートリバーブ・ドラムも加わって、もうアゲアゲ絶好調。「ワンレン ボディコン お立ち台」のフロアは満杯、みな忘我の境地でした。

テイラーさんは1962年、米ニューヨーク生まれ。本名はLeslie Wundermanといいます。地元のクラブで歌っているうちに、歌唱力を認められて歌手デビュー。1985、86年にはLes Leeという名でそれぞれ「I'm The One You Want」(ユーロビート風)、「Tell Me Can You Love Me」(フリースタイル風)という「可もなく不可もなし」なディスコ曲を発表。翌年にメジャーレーベル(Arista)に移り、「テル・イット…」を含むデビューアルバム「Tell It To My Heart」で開き直ってアマゾネスな感じへとイメージを転換し、見事ブレイクを果たしたというわけです。

このアルバムからは、「Prove Your Love」(88年、ディスコ1位、一般7位)という特大ダンスヒットも生まれました。前作と同じようなロック風味のド迫力ディスコでして、これまたよくディスコで耳にしたものです。レーガン政権の終焉(89年)、ベルリンの壁崩壊(同)、天安門事件(同)、日本の昭和の終わりとバブル崩壊(90年ごろ)などを前にした、80年代末期の世界規模の変革期を思わせるようなエネルギーの大爆発。折しも、ダンス音楽的にも、ディスコがいよいよ下火となり、ハウスやテクノなどのよりハイパーなクラブミュージックへと模様替えをする時期でもありました。

もろ“肉食系”を思わせる姿と曲の彼女ですが、この後に意外な素顔を見せました。これまでと打って変わり、ディスコのチークタイムの定番となった「I’ll Always Love You」という驚天動地のしっぽりバラードを大ヒット(88年、一般チャート3位)させたのです。さらに、「Love Will Lead You Back」(90年、一般1位)という今も語り継がれる珠玉のバラードもきちんと発表しました。

そもそも彼女は、「カントリーの女王」ドリー・パートンにも似た、中高音で圧倒的に伸びる歌声が持ち味。「アップテンポもスローもどっちもいけるじゃん!」という実力を見せつけたのです。

もちろん、彼女の基本であるダンスミュージックもコンスタントに出しています。「Dont' Rush Me」(88年、ディスコ6位、一般2位)、「With Every Beat Of My Heart」(89年、ディスコ8位、一般5位)のほか、70年代に「セクシー・ディスコチューン」のヒットを連発したバリー・ホワイトのカバーである「Can't Get Enough Of Your Love」(93年、ディスコ2位)という曲があります。2000年代に入ってからはさすがに失速しましたが、ダンス系ではこれまた「うるさい」テクノ/トランス系の「Planet Love」(2000年、ディスコチャート1位)などのヒットを出し、激動のショービジネスを粘り強く生き抜いている様子がうかがえます。

まあ、とにかくテイラーさんのほとんどのダンス曲は、私などは、今では踊らずとも聞くだけで少々疲れてしまうのですけど、その実績は認めるわけでございます。ディスコ的にはけっこう新しい時代の人ですので、再発CDやベスト盤も各種出ております。

……というわけで、「でも、久しぶりにちゃんと聞こうかな」と思って「テルイット」をYouTubeで探していたら……。こんな究極のバージョン(95年)を見つけました。私も間違って発売当時に輸入盤店でレコードを買ってしまった覚えがあります。もうバブルを通り越して世紀末です。「うるさい」どころの話じゃないですが、どういうわけか、いつ聞いても「パクッ!」っと気になる旋律ではあります。