ディスコ堂 by mrkick

音楽に貴賎なし ―Discoの考察とCD批評

陽気

ストック・エイトケン・ウオーターマン (Stock Aitken Waterman)

ストック・エイトケン・ウォーターマンいやあ、来週また出張になりそうなので、今のうちに……というわけで、今回はストック・エイトケン・ウォーターマン(SAW)!! ハイエナジー&ゲイの流れからすれば、ある意味当然の帰結ではあります。

日本人にとっては、猛烈にバブルな曲の数々。80年代後半に訪れた、美しき放蕩、夢にまで見た似非日本経済王朝期に最もふさわしかったといわざるを得ません。「一期は夢よ、ただ狂え」(「閑吟集」)ならぬ、「踊れや叫べ。ディスコの出番!」てなわけで、もう全国各地に「マハラジャ」が出現しちゃってたころであります。SAWって、そんなアホな雰囲気にぴったりだった気がします。

とにかく私もアホでした。ファッション雑誌「メンズノンノ」とか「チェックメイト」とか買っちゃって、誌面でにっこり笑うモデルの阿部ちゃん(阿部寛)や風間徹を見習ったつもりになって、「丸井」でローンで買ったDCブランド(その多くは今は消滅)の衣料品に身を包み、ディスコに夜な夜な出かけるのでした。

でも、行くのは新宿とか六本木とか渋谷のフリーフード/フリードリンクの店が中心でしたな。ゼノン、リージェンシー、ヴィエッティ、メイキャップ、ウイズ、キゼー(日本発の「お立ち台」を導入)、スターウッズ、ラ・スカーラ……。そんなあたりが出没店でありました。

一方で、有名なマハラジャ、エリアのほか、88年の正月に「バブル崩壊の予兆」として悲惨な機材落下事故を起こしたトゥーリアなどは、一通り行きましたけど、通うほどにはならなかった。服装チェックとかVIPルームとか、今の格差社会じゃあるまいし、庶民の変な優越感を助長する感じも「トホホ」でありました。何しろ、所詮はおバカさんで陽気なディスコなわけで、もっとラフな格好で自由奔放に踊る方が好みだったわけです。

そんな当時のディスコで、派手やかにかかっていた曲の多くは、SAWのプロデュース作品でした。デッド・オア・アライブ、ディバイン、バナナラマ、リック・アストレー、カイリー・ミノーグ……。いま聴くと、「曲調やっぱどれも似てるなあ」とはしみじみ思いますが、20代前半の気恥ずかしい思い出が確実によみがえります。とにかくフロアは、SAWの大洪水でした。

SAWは1984年、文字通り、英国のストック、エイトケン、ウォーターマンの3人によって結成されたプロデュースチームの名前。プロダクション会社名は、3人のうちピート・ウォーターマンさんの名前をとってPWL(Pete Waterman Limited)です。これまでに紹介してきたイアン・レヴィーン(レコード・シャック・レーベル)とかイアン・スティーブン・アンソニー(パッション・レーベル)などと同様、メロディーは米モータウン・サウンドを源流としたハイエナジーであります。

特に80年代末期になってからの作品は、前期ハイエナジーのよさを踏襲しつつも、もっと複雑かつ多様になっていきます。80年代末〜90年代初頭に定着する「ユーロビート」、さらには「ユーロハウス」などの元祖とも称されますが、こちらはもう私の定義する「ディスコ」の枠外になってしまいます。私の場合、トゥーリアの事故あたりから、リアルタイムのディスコには関心がなくなっていくのでありました。

SAWの曲の中身は、基本的には、シンセサイザーの打ち込みにボーカルを乗せる構成で、万人受けするタイプ。「ストップ・エイトケン・ウォーターマン!」なんてからかって、嫌うムキも多かったのですが、ディスコというものは、ノリがよくてフロア栄えするのなら、まずはオッケー!!。「踊る阿呆たち」の額に流れる汗は、とどまるところを知らないのであります。

実際、欧州やアジアでは、一般チャート上位に入るほどに大メジャー化。本国英国では、80年代後半、カイリーミノーグなどの曲をトップ10にがんがん送り込んでいました。実は、80年代の英国も、サッチャー保守政権の改革路線により、土地の価格が急騰するなどなかなかのバブル景気になっていました。「浮かれた気分はハイエナジー」という標語(?)は、万国共通なのかもしれません。

ただ、凡百のハイエナジープロデューサーとは違い、この人たちはR&B風の曲もけっこう制作しています。私などは、プリンセスという女性ボーカリストの「Say I'm Your Number One」(85年)とか「After The Love Has Gone」(86年)なんて、アダルト向けの名曲だと思います。ディスコでもよく耳にしました。

写真のCDは、彼らの代表作品を集めた豪華3枚組ボックス・セット。シングル・バージョンが多いのですけど、3枚目は素敵な12インチバージョン集となっております。これには、みんな知ってるディバインの「ユー・シンク・ユア・ア・マン」の貴重なリミックス(男性ナレーションが入っている)や、前述したプリンセスのしっぽりR&B「Say I'm Your Number One」、SAW名義でリリースした「ロードブロック」のレア・グルーブ・ミックスなどが収録されております。

ず〜と聴いているとさすがに飽きますが、なぜだか落ち込んだとき、自分をバブリーに盛り上げたいときには最適でしょう。

Salsoul (サルソウル)

Salsoulトムモールトンが活躍した'70年代後半、ニューヨークはディスコのるつぼ。ブロードウェイなどの繁華街地区では、ザ・ロフト、ギャラリー、パラダイス・ガラージ、スタジオ54などなど、有名店が軒を連ねていました。

中でもパラダイス・ガラージは、白人上流階級や有名人が集まるスタジオ54のライバル的存在として、ゲイや黒人やヒスパニック系といったマイノリティーからカルトな人気を集めていました。

この店でカリスマDJとしてならしたのがラリー・レヴァンという人物。特にサルソウル・レーベルというディスコレコード会社の曲を好んでかけていました。

サルソウルは、文字通りサルサとソウルを合わせたようなラテンファンクな音が特徴でした。ロレッタ・ハロウェイとか、ファースト・チョイスとか、インスタント・ファンクのようなディスコのスター、グループも輩出。パラダイス・ガラージ人気ともあいまって、一時代を築いたわけです。

会社自体は85年に消滅するのですが、「ハウス」や「クラブ」の90年代に入ってから、再び脚光を浴びることになります。とりわけ、昔の曲を見直す「レアグルーブ」現象が世界中のダンスミュージックシーンに起きたからでした。

でも、サルソウルって、リアルタイムの80年前後の日本では、本国米国に比べると、さほど相手にされていませんでした。私自身、ディスコでも派手にかかっていた記憶はなく、輸入レコード店で12インチ(トレードマークの雲と虹をあしらったラベルやジャケット)を見かけた程度です。

サルソウルやパラダイスガラージが再発見されるにつれて、ラリー・レヴァンも伝説のように語られますが、これも日本では最近になってからのことで、リアルタイムでは誰も知らなかったといっても良いでしょう。

昨年にはラリーレヴァンとパラダイスガラージをテーマにした「マエストロ」なんていう映画も作られました。やはり「あの時代のディスコ映画」ということで、私もDVDを購入しましたが、今ひとつ感動しませんでした。ラリー・レヴァンも超人気だったのは分かるんですけど、曲と曲とをつなぐ技術が非常に下手。テンポが合っていないことが多いんです。

この違和感の一番の源はなんだろう…と私なりに考えますと、パラダイスとかサルソウルって、ディスコ的な華やかさや陽気さ(=「おバカさ」ですね)に欠けているような気がします。変に洗練され過ぎていて、私はさほど好きになれません。「ディスコ」ではなくて、「クラブ・ミュージック」や「ハウス・ミュージック」に近い印象があります。ラリーレヴァンがあまりに神格化されるのも「ちょっとなあ」と思います。

その意味では、パラダイスよりも、前に紹介したスタジオ54の方がアホッぽくてずっと好感が持てます。パラダイスやサルソウル系の曲は今ひとつ単調ですし、どれも似たように聞こえてなりません。私の好きなシンセサイザーもあまり使われていません。

まあ、そうは言っても「ディスコ見直し」の動きがあるたびに語られる名門サルソウルではあります。私もCD、レコードはかなり所有していますし、ときどきBGMとして聴いています。再発CDはここ10年ぐらいの間、「ここまですごいのでしょうか!」と言わせるほどたくさん出ています。

おススメCDは写真のマスターカッツのベスト盤。Vol.1と2があって、サルソウルのいろんなアーチストの代表曲が12インチバージョンで入っています。「トム・モールトン・ミックス」とか、「シェップ・ぺティボーン・ミックス」とか、「ラリー・れヴァン・ミックス」といった風に、リミキサーの名前が冠してあります。

Vol.1には、世界初の12インチバージョンといわれる「テン・パーセント」(ダブル・エクスポージャー)が入っています。Vo1.2には、電気グルーブが7、8年前に出したヒット「シャングリラ」の原曲である「スプリング・レイン」(シルベッティ)も収録。この曲はシンセサイザー(フェアライト)をうまく使っていて佳曲だと思います。
プロフィール

mrkick (Mr. Kick)

「ディスコのことならディスコ堂」----本名・菊地正憲。何かと誤解されるディスコを擁護し、「実は解放と融合の象徴だった」と小さく訴える孤高のディスコ研究家。1965年北海道生まれのバブル世代。本業は雑誌、論壇誌、経済誌などに執筆する元新聞記者のジャーナリスト/ライター/翻訳家。もはや踊る機会はなくなったが、CD&レコードの収集だけは37年前から地味〜に続行中。アドレスは↓
mrkick2000@gmail.com

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