Art Of Noiseいやあ、お盆です。頭がおかしくなるほどの猛暑が続く中、今回は意表を突いた“変てこディスコ”の真骨頂、アート・オブ・ノイズに注目してみましょう。

犬の鳴き声みたいな音、車を始動させるときのような音、トンカチみたいな音、笑い声、叫び声、うなり声……。「雑音の芸術」の直訳がまさにぴったりな音は、斬新で目新しいものとして世界の大衆に広く受け入れられました。

メンバーは英国の男女3人で、1984年にデビューアルバム「(Who's Afraid Of?) The Art Of Noise!」(邦題:「誰がアート・オブ・ノイズを……」)を発表し、それが大ヒットしました。プロデュースを担当したのは、以前、「バグルズ」や「フランキー・ゴーズ・トゥ・ザ・ハリウッド」の投稿の際にも紹介した奇才トレヴァー・ホーン。トレヴァーらが前年に設立したレーベルZTTから、「Beat Box」(84年、米ディスコチャート1位)、「Close (To The Edit)」(同年、同4位)といったダンスヒットを繰り出しました。

当時は、「第1黄金期」ともいうべきシンセサイザー全盛の時代でした。中でもアートオブノイズは「フェアライトCMI」というめちゃめちゃ高価な(1台1000万円以上)電子楽器を使用し、お馴染みのオーケストラ風「オーケストラ・ヒット」のほか、唐突な「ヘイ!」の掛け声とかエンジン音みたいな変な音をがんがんサンプリングして曲を制作したのです。まあ、あのころはそんな音が、とてもポストモダン的かつ前衛的で面白く聞こえたものでした。

アートオブノイズは「誰がアートオブノイズ」の一作を発表した後、ZTTからは離れてしまいましたが、86年には、新しい所属レーベル(China Records)から2作目「In Visible Silence」をリリース。この中からは、日本ではやたらと有名なんですが、マジシャン「ミスターマリック」の登場曲として使われていた「Legs」(同27位)とか、アメリカで1960年ごろに流行った探偵モノのTVドラマ「ピーター・ガン」のテーマ曲のリメイク(同2位)などがヒットしました。けれども、その後は飽きられてしまったのか、だんだんと表舞台からは去っていきました。

多くはシンセサイザーやドラムボックス特有の鋭角的なダンスビートを基調としていますので、ディスコでもアート・オブ・ノイズをけっこう耳にしました。当時は、デュラン・デュラン、ABC、ヤズー、ニューオーダーなどなど、枚挙にいとまがないほど英国産のエレクトロポップ系ディスコが溢れかえっていましたが、その中でもキッチュ(表現古い)な音作りという点で、異彩を放つアーチストだったとはいえましょう。

その昔、私はわりと好きだったのですけど、今あらためて聴くとなんだか少々古臭くて“がらくた”な感じも致します(笑)。もしかしたら、時代と添い寝してそのまま眠ってしまうタイプの作品だったのかも……。この辺りは賛否が分かれるところでしょう。

でもまあ、とにかく実験的だったことは確かですし、90年代以降、次世代のアーチストたちにさらにサンプリング(サンプリングのサンプリング!)もされているようですので、あの時代にあの音を開発した意義は十分にあったのだろうと思います。

CDはベスト盤を中心にまずまず出ております。上写真は、デビュー作「誰が……」収録の全曲に加え、シングルの別バージョンなどがいくつか入ったZTT時代のベスト盤「Daft」(といってもアルバム1枚しか出していないが)。たった今も通して聴いていますが、8曲目ぐらいからやはり頭がおかしくなってきました。暑さのせいかもしれないにせよ。