ディスコ堂 by mrkick

音楽に貴賎なし ―Discoの考察とCD批評

Let's Rock N Roll

Let's Rockn' Roll87年のバラードAlwaysであまりにも有名なアトランチック・スター。でも、このころは美形のバーバラ・ウェザースではありません。シャロン・ブライアントが大迫力のLet's Rock N Rollのボーカルを聞かせてくれています。79年のディスコヒット。アトランチックは80年代の方が売れたのですが、彼女がシャロンと交代する84年までが私はディスコ的で好きです。

Let's Rock…はとにかく元気があります。その後、日本で特に人気が出たサークルよりも、めりはりが効いていてよい。ただただ踊るために作られた曲といった感じ。ディスコでかかれば狂喜乱舞したものです。ピアノ、ギター、ベースがまだまだシンセに負けない怒涛のうねりを展開している。途中で「さあいけベース担当!!」なんて掛け声が入ったりして、なかなか素朴に単純に楽しめます。イントロもギターと重いドラムで格好良く始まっていて、パーティーの盛り上げ時間にも耐えうるハッピーチューンだと思います。

このCDはフランス発の人気シリーズ「Soul Collecotor Vol.3」。Let's Rock…が7分半、たっぷり入っている貴重なものです。欧州盤なのでやや高めですが、結構、楽に手に入ります。テンプテーションズのパパ・ワズ・ア・ローリング・ストーンのインストロングとか、シュープリームスの私の好きなヒーズ・マイ・マンとか、ジミージェームス&ザ・ヴァガボンズのアイム・サムバディといった、ソウルとディスコがうまく融合した渋めの曲が数多く収録されています。

音質は貴重な曲が多い割にはまあまあ。このシリーズはとにかくお奨めなのであります。

パメラ・ナイチンゲール

パメラ・ナイチンゲールハイエナジー・ヒットを紹介しようと思っていた矢先、ある「ハプニング」に出くわした。本日、世界最大級のディスコのサイト「Discomusic.com」(URLはリンク参照)を閲覧していたら、掲示板にI'll Never Fall In Love Againのヒットで知られるパメラ・ナイチンゲール本人が書き込みをしていたのだ。住所はロンドン北部。その後の書き込み者との具体的なやりとりなどを見ていても、本人の可能性が高いと思われる。こんなことはめったにないことだ。

ディスコ系アーチストには一発屋が非常に多いのだが、彼女も代表格の一人である。80年代半ばに発表したI'll Never…以降、表舞台から去ってしまった。その理由がこの掲示板で触れられているのだった。やりとりの一部は以下のとおりだ。

パメラ
「いとこに教えてもらってこのサイトにやってきました。私や私の曲『I'll Never…』を話題にしていると聞いたからです。少しチャットできるとうれしいです」

あるサイト会員
「わお!パメラ。本物のディスコアーチストと話せるのはうれしいよ。なぜあのヒット曲の後、音沙汰がなくなったの?」

パメラ
「あの曲が私の唯一のリリース曲で、その後は体調を崩して引退せざるを得なくなったの。でも、歌手としてあの曲を残せたことはうれしく思っている。今はライターなどをして暮らしているの。英国のチャート上位には入らなかったけれども、よかったと思っている。何しろ当時は、すごいストレスと重圧があったから…。ちょっと変に聞こえるかもしれないけどね」

消息不明のアーチストがほとんどという中では、なんだか不思議なハプニングではあった。ちなみに、写真のノンストップCD(エイベックス)では、I'll Never…があのシルベスターの「ドゥ・ユー・ワナ・ファンク」とディバインの「ユー・シンク・ユーアー・ア・マン」とつながって収録されている。12インチを掲載しようと思ったが、何しろ私自身、最近はほとんど顧みることもなかったから、レコードの渦の中からすぐには見つからなかった。



Breakin'

Breakin'80年代中ごろはブレイクダンスの時代でもありました。代表作はなんといってもこのサントラ「Breakin'」でしょう。シングルカットされたBreakin'は、84年、ビルボードの一般チャートで9位にまで上がりました。

日本でもブレイクダンスが流行りました。私も真似をしたものです。北国札幌育ちなもので、雪の上で、「ウインドミル」とかをくるくる回って練習したのが恥ずかしい思い出です。

この映画は米国でヒットし、続編も作られました。主役はいずれも男2人女1人。女性の踊りはたいしたことはないのですが、男が2人とも上手だったのを思い出します。「ターボ」と「オゾン」という役名で、2編ともに主演していました。

ストーリーはとんでもなくダサいわけですが、ディスコ・ダンス系映画とはそんなものです。80年代では「フラッシュダンス」や「キャント・ストップ・ザ・ミュージック」や「ステイン・アライブ」がそうでした。70年代では、かのドナ・サマーが出演した「サンク・ゴッド・イッツ・フライデー」も物語性が乏しかった。「フラッシュダンス」をのぞき、いずれも無理してビデオをコレクションしてしまいましたが、一回見たきりですね。

ブレイクダンスは、立ち技、寝技(床技)ともに、今の踊りにもかなり応用されているようです。ただ、もっと複雑になっていて、私にはもう完全に無理です。まず体がついていけませんな。

Breakin'はLPではよく廉価中古盤で目にするものの、CDはなかなかない。私が持っているのも、eBayで購入した海賊盤みたいなやつです。音はまあまあ。それでも、初っ端に収録されているBreakin'のイントロは、ヒップホップ系特有の乾いたシンセ音と重低音の組み合わせが特徴的で、今聞いてもカッコがいい。思わず踊りたくなってしまいます。意外にも9曲目にはチャカ・カーンの「エイント・ノーバディー」が収録されています。これもヒットしましたね。

続編には、変な口ドラム音が炸裂するダンスヒット「ディン・ダー・ダー」(ジョージ・クランツ)などが収録されていますが、やはり一作目の方が記憶に残るアルバムとなりました。

Booby O (その2)

Bobby O ―その2たった今、ボビーOの約20年ぶりの新作アルバムOutside The Insideが日本アマゾンから到着したので、紹介しておきます。

正直言って「やっぱり」といった印象です。往年の音や声を感じられるのは17曲中3曲ぐらいしかありません。いかにもテクノな感じに仕上がっておりまして、中にはテクノロックみたいのも混ざっています。この間の楽器類の技術進歩を感じさせますが、私のようなレトロファンにはつらいものがあります。

それでも、本当に久しぶりですから、買って損はしていないと考えております。音質は確かによくなったので、ヘッドホーンで聞いても再発盤のように変な雑音や音のとぎれがなく、苦になりませんし。星5つ中、4つですかね。

次回からは再び懐古系に戻ります。

リサ (Lisa)

Lisa83年ごろのディスコでは、本当によくかかっていました。9分半もある「ロケット・トゥ・ユア・ハート」、変な振り付けが流行った「セックス・ダンス」、このCDのタイトルでもある「ジャンプ・シャウト」などなど、このアルバムのほぼ全曲がヒットしていました。ジャンルはハイエナジーに入ります。

このアルバムには思い出があります。20年前、待ちに待ってタワーレコード札幌店で購入したのですが、友人に貸したら思いっきり歪んで戻ってきたのです。真夏の車内に置きっ放しにして、レコードの一部が溶けてしまったのでした。その後、同じレコードは二度と手に入りませんでした。完全に意気消沈しました。当時は意外に希少だったのです。

10年以上経って、CD化されたのを機に再び手に入れたのですが、感慨深いものがあります。私にとっては基本の一枚。ここまで手の込んだ曲作りは、ほかではあまり聞けないものでした。ハイエナジーというのは、単調で安っぽくなりがちでしたけれど、これはシンセの使い方がうまい。ビートもきちんとしていて、重厚な音になっていると思います。CDの方も、最近は希少価値が高まっているようで、米アマゾンでは6000円ぐらいしています。

レーベルはBTGと同じ米サンフランシスコのモビー・ディック。ゲイ系のミーハーディスコを代表するレーベルでした。しかし、日本のディスコは、ゲイもストレートも関係ないというのが大きな特徴です。この人の曲がかかれば、皆、掛け声を上げて踊っていたものです。

Pink Lady

Pink Ladyいやあ、突然ピンク・レディーです。しかし、日本人がディスコを語るなら、彼女たちを決して無視はできません。このブログでは、まず80年代から入っているわけですが、日本人として、このあたりで取り上げておこうと思いました。このCDは、「ペッパー警部」や「UFO」が入っている一般的なアルバムではありません。彼女たちが米国進出を賭けた記念すべきものなのです。すべて英語で歌っているのです。

ディスコを20年以上「研究」している者としても、瞬間風速的とはいえ、彼女たちの偉大さは特筆すべきものです。79年6月、宇多田ヒカルだって倉木麻衣だってYMOだって松田聖子だって叶わなかった、夢の全米トップ40入りを果たした(37位)のですから。あの坂本九の「スキヤキ」(63年に3週連続1位)は別格としても、それに次ぐ記録の保持者なのです。その意味では、宇多田ヒカルなんて言われているほどたいしたことはない。みんなが好きな「あめりか」の壁は厚いのです。

曲名は「Kiss In The Dark」で、このアルバム「Pink Lady in USA」からシングルカットされました。ストリングスとドラムの音が強調された、70年代後半の典型的なイケイケズンドコ系の曲です。特に特徴といったものはないのですが、当時流行っていたバカラとかシルバーコンベンションみたいな感じです。アルバムには、このほかにもトム・ジョーンズの「ラブ。ミー・トゥナイト」のカバーなんかにも挑戦しています。音はやや軽いですけれどもね。

数年前、米国で話題になったディスコ解説本「サタデーナイト・フォーエバー」でも、「リライト・マイ・ファイア」のダン・ハートマンや「恋の診断書」のキャロル・ダグラスといった名だたるディスコ系ビックアーチストと並んで、ピンク・レディーが紹介されています。以下、その一部を訳して紹介しておきます。

「ピンク・レディーは西側諸国にとっても記憶に残る日本のディスコアーチストだ。ミーとケイの2人の女性のデュオは当時、日本では既にスーパースターであり、米国に進出するべく、英語だけのアルバムを制作した。ただ、その英語は、いかにも日本語らしかった。……ニューヨークで録音されたそのアルバムで、彼女たちは美脚を露出し、学校の制服を身にまとっている。現在では、ちょっと異色で風変わりなディスココレクターのコレクションの一つになっている」

彼女たちはこの年、全米のバラエティショーのメーン出演者としても一時期、活躍しました(あまり人気が出なくてすぐに放映が打ち切られたそうですが……残念)。

私は別にピンクレディーのファンではないのですが、その足跡はたいしたものだと認めます。世界の英語のディスコサイトをたどっていくと、ピンク・レディーを話題にしているのをけっこう目にします。まあ、からかわれているケースも多いのですが……。

でも、このアルバムのCDや「Kiss In The Dark」の12インチは、日本円で5、6千円しています。東洋発のディスコに関心を持つコレクターは、確実にいるのです。ディスコ好きのメール仲間のアジア系米国人も「若いクラブ愛好者の間でも、セイコ(松田聖子)とピンクレディーの名は、知っている奴がけっこういる」と言っていました。

Lime

LimeUnexpected Lovers(85年)やAngel Eyes(83年)で知られるライムには、ごく一部にしか知られていない(別に知りたくもない)都市伝説がある。

このアーチストの特徴は「だみ声」のクリス・マーシュの男性ボーカルと「金切り声」のジョイ・ドリスの女性ボーカルの妙(?)。メロディーやリズムラインは概ね、80年代前半の電気音操作術をいかんなく発揮していて美しいのだが、男女ボーカルがなんだかミスマッチなのだ。「そこがいい」と思うときもあれば、「それがいやだ」と思うときがある。変な曲調である。

このクリスとジョイは、カナダ人ということになっている。本当は夫婦だという説がある一方で、「本当にそうなのか」という疑問の声も多い。いろんなライナーノーツや世界中のディスコサイトをのぞいても、諸説があってはっきりしない。

まあ、本当はDenis LepageとDenyse Lepageというアーチスト夫妻がLimeの実体で、見てくれの良いクリス&ジョイ(海外ディスコサイト「Discog」参照)は、単なるプロモーション用の「代理」だとの説が有力なのだが、そうなるとクリス&ジョイの実体の方も気になってくるというのが人情というもの。なんだか胡散臭い。直接、本人や当時の事務所に問い合わせる人間もなく、謎のままになっている。

しかも、この2人は同一人物だという説もあるのだ。いわく「ボイスチェンジャーを使って、声色を使い分けて収録している」のだそうだ。どうでもいいかもしれないが、いかにもディスコらしい話だと思う。

以前にも話したが、ディスコ音楽はあっても、純然たるディスコアーチストは意外に少ない。ライムは、そんな中でも純度の高いディスコグループといえる。しかも、けっこうメジャーな部類に入る。81年発売のこの「Your Love」(写真は再発CD)はデビュー作で、ディスコチャートでは1位に輝いた。その後も80年代を通じてアルバムを発表し続け、「Engel Eyes」、「Guilty」、「Unexpected Lovers」などのディスコヒットを連発している。

それでも、いまひとつ正体不明なところがある。顔写真もどこにも載っていない。例えばこのYour Loveでも、奇妙な黄髪女が、本当にライムを手に意味のないポーズをとっているのだが、これが女性ボーカルのジョイだとは考えにくい。

ディスコアーチストは、極端に資料が少ない場合が多い。70年代後半から80年代にかけては、ディスコチャートには登場しても、レコードに張り付いているレーベル情報以外は一切、不明だというケースがほとんどである。正真正銘の一発屋はおびただしい数に上る。

当時のアメリカでは、ブームのディスコでまず名を売ろうとした無名ミュージシャンが、星の数ほどいた。とにかくディスコであざとく、あこぎに売り込んで、それからメジャー界に食い込もうとする。ディスコ映画「フィフティーフォー(54)」のラストで、そのあたりの物語が描写されているとおり、夢破れて退場していく者が多かったのである。同様の手法をとった成功者にはマドンナがいるが、こうした者はごく一握りでしかない。

ディスコ界の成功者のライムでさえ、ついに「ビルボードトップ40」的にメジャー入りすることはなく、90年代以降はほぼ完全に忘れ去られた。数々の謎は、現在まで謎のままである。

80s Remix

80s Remix続けてコンピの紹介ですいません。でも、日本のコンピレーションをこの辺で持ち上げておきたかったのです。東芝EMIが97年に発売したものですが、かなり気に入っています。中古でけっこうみかけますけれど、おすすめです。

まず、選曲がいい線いっています。外国のも含めて、80年代ディスコの良いコンピレーション(オムニバス)はほとんど無いといっても過言ではありません。一般的なシングル・バージョンのディスコ選曲集はたくさんあるのですが、これにはクイーン「ラジオ・ガガ」やトーマス・ドルビー「ハイパー・アクティブ」やヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース「パワー・オブ・ラブ」といった、ほかでは目にしない12インチバージョンが入っているのが良いのです。

もう一つは、音質がすばらしいことですね。日本盤は全体的に音が良い。某レコード会社幹部の知人も、「日本人ぐらい音質にうるさい人種はいないのではないか」と言っています。確かに、マスターテープをきちんと取り寄せて、しかも12インチバージョンを最後までちゃんと収録する姿勢は、私にとっては尊敬に値します。

このCDには11曲しか入っていませんが、77分程度しか入らないCDでは、12インチばかり集めているのでこれで限界です。へたなコンピCDであれば、15、16曲の12インチバージョンが入っているのに、ほとんどが途中で勝手にフェードアウトされていたりしますから。

ディスコの曲というのは、長く踊ってもらうとか、DJが曲をつなぎやすいといった配慮から、ロングバージョンが大きな特徴です。70年代には20分近いのもあったのです。80年代に入ってから7分前後が普通になってきましたが、惜しげもなく全部を収めているCDというのは、これはこれで貴重なわけです。

Classic Alternatives

Classic Alternativesカナダ国トロントのSPGレーベル盤の12インチ(ロングバージョン)のCDコンピ。純然たるディスコとはいえないかもしれないが、以前に紹介したMen Without Hatsと同様、踊りやすい曲が満載なので選びました。

表紙に見えるとおり、本当にレアな12インチが並んでいます。カルト、イエロー、アイシクル・ワークス、ステファン・ティン・ティン・ダフィ…。普通のアルバムバージョンならけっこうありますが、12インチについては、ほかのCDではめったに見かけません。

米国アマゾンで手にいれたのですが、特筆すべきは3枚組みで2000円もしないという価格でした。音ははっきり言って「よくない」方ですが、その珍奇性と価格で「買い」のCDだと思います。

思えば、80年代前半から半ばにかけては、本当にいろんなジャンルの曲がディスコ空間で多重奏を奏でていました。もともと黒人系ダンスミュージックの権化のようなマイケル・ジャクソンやアース・ウインド・アンド・ファイヤーはもちろん、メン・アット・ワーク、マドンナ、ジャーニー、クラッシュなどなど、選曲はまったく節操がなかったのです。

この時代、ビルボードチャートに入っていた曲のほとんどは「踊れる」曲だったという記憶があります。やはりシンセやリズムマシーンなどの電子楽器の発達が背景にあると考えられます。テンポが正確な上、キックやメリハリが利いていて、ステップを踏みやすいという特徴があるからです。

このCDは、そんな80年代でも英国やカナダのニューウェーブ系のアーチストが顔をそろえています。YESの「オーナー・オブ・ア・ロンリーハート」で有名なトレバー・ホーンがプロデュースしたプロパガンダの「Pマシーナリー」や、ヒット曲「エノラゲイの悲劇」で知られるOMDの「イフ・ユー・リーブ」の12インチバージョンなんかも入っています。とにかく貴重です。

SPGの「Aternative」シリーズには、「Clasicc Alternatives Vol1〜3」とういうシリーズもあり、これも低価格で秀逸です。特にVol2に入っているロミオ・ボイドの「ネバー・セイ・ネバー」は思い出の曲。札幌の大箱ディスコでは、B-52'sの「プライベート・アイダホ」や英国スカ系のスペシャルズ「リトル・ビッチ」あたりの高速テンポの曲とセットでよくかかっていました。40歳直前になった今は、踊ろうとしても、もう動悸、息切れが激しくなって、体がついていけそうもありません。

黒人も白人も、ロックもパンクも。「ごった煮」状態の80年代ディスコを象徴するCDでもあります。

ボーイズ・タウン・ギャング (Boys Town Gang)

Boys Town Gang日本では「君の瞳に恋してる」があまりにも有名なBTG。でも、世界的にはほかにもいくつかディスコの名曲を残しています。このCDは後に発売された国内盤ベスト(ビクターエンタテインメント)よりも収録曲数が少ないのですが、Disco Kicksのロングバージョンが入っていて貴重です。でも、ベスト盤よりも珍しいとはいえ、中古CD屋では300円とかで売られているところが悲しいのですが。

BTGについては、スリー・ディグリーズのカバー「天使のささやき」が好きな曲です。チャートインはしなかったものの、哀愁誘うメロディーが耳に残る逸品です。このCDにもベスト盤にも入っています。数年後、マグダ・レイナという女性もこの曲をカバーしていて、米ディスコ・チャートでは53位に入る健闘を見せています。日本のディスコでもよくかかっていました。

レーベルはMoby Dick。米サンフランシスコに拠点を持ち、ハイエナジー系の曲をよくリリースしていました。代表的なのはSex DanceやRocket To Your Heratで有名なLisaですが、ヒッピーやボヘミアンが多く集まるSFの自由な土地柄もあり、ゲイ・アーチストが多数、関わっていました。80年前後のヒットメーカーであるパトリック・カウリーもその一人で、American Dream(演奏アーチストはHot Posse)というヒット曲をこのレーベルからプロデュースしています。

このパトリック・カウリーは残念ながら、82年、ほかの多くのディスコアーチストと同様、エイズで亡くなってしまいました。ボーイズタウンギャングのプロデューサーのビル・モトレー(Bill Motley)も86年、エイズで亡くなっています。今と違って、「ゲイがエイズに感染する」というケースが多かった時代でした。フリーセックスとドラッグという快楽主義に彩られたディスコは、エイズの広がりとともに死んだとも言われています。

ディスコ文化は、こうした「しゃれにならない」ことは致命的です。「底抜けにおばか」でいられるうちが華なのです。日本のバブル経済期後半、東京六本木の「トゥーリア」で起きた、死傷者を何人も出した機材落下事故にも、同様のことが言えると思います。快楽主義とは、線香花火のようなもので、夢の火種がぽとりと落ちると、一気に暗くなってしまうものなのです。

「君の瞳…」は、私が7、8年前、ダンスクラシック系のパーティーDJをやっていたときにも、よくラストにかけていました。だって必ず盛り上がるんですから。狂喜乱舞状態になる。そんなラストシーンが決まった後、ゆるいスロー系の曲に変えて、照明を明るくして…。「宴の後」は、心地よさとともになんだかもの寂しさも漂います。踊り狂った自分を少し気恥ずかしく思ったりして。一気に日常に引き戻されます。

ディスコは、ばか明るくて楽しいだけではない。いくばくかの哀しみもたたえているからこそ、人の心にいつまでも残るのだと思っています。

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プロフィール

mrkick (Mr. Kick)

「ディスコのことならディスコ堂」----本名・菊地正憲。何かと誤解されるディスコを擁護し、「実は解放と融合の象徴だった」と小さく訴える孤高のディスコ研究家。1965年北海道生まれのバブル世代。本業は雑誌、論壇誌、経済誌などに執筆する元新聞記者のジャーナリスト/ライター/翻訳家。もはや踊る機会はなくなったが、CD&レコードの収集だけは37年前から地味〜に続行中。アドレスは↓
mrkick2000@gmail.com

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