ディスコ堂 by mrkick

音楽に貴賎なし ―Discoの考察とCD批評

Modern Rocketry

Modern Rocketry「非常ベル?火事だべか?」Modern RocketryのI'm Not Your Stepping Stoneが札幌のディスコでかかり始めた1983年ころ、一緒にいた友人は思わずこう叫んだ。威勢の良いシンセドラムに混じって時おり流れる非常ベルに似た効果音は、不思議な感覚を呼び起したものだった。超絶おばか異空間のディスコで、本当に火事など起きたら大変である。実際、外国では火事やら暴動やらが起きて死人も出たことがあるから、しゃれにならない。その後、盛り上げ時間帯の定番になって、何度も耳にするようになってからも、「ベル」が鳴ると変な感じがしたものだ。

この曲は、音作りの点で強いインパクトがあった。たたみかけるようなビート、メリハリのあるボーカル。「非常ベル」だけではなく、シンセサイザーの色んな音が織り込まれていて、踊りやすさは群を抜いていた。レコード会社は、シルベスターやパトリックカウリーがいくつものディスコヒットを制作したメガトンレーベル。このレーベルは後半、けっこう似たような曲を多く発売してマンネリ化したのだが、Modern Rocketryは、ボーカルが英国のニューウェーブっぽくて、ちょっと異質で面白い。とにかくシンセ音に迫力がある。古さは感じさせるが、90年代以降のハウスやテクノの「洗練されすぎた」電子音に拒否反応を示す私のようなレトロ人間にとっては、それぐらいがちょうど良いのである――。

写真はUniciscの数年前の再発盤。残念ながら「Stepping Stone」はロングバージョンではありませんが、ほかの曲も聞き応えがあります。音質が良好なのは◎。インターネットでまだ比較的容易に手に入ります。

Men Without Hats

Men Without Hats私の持論では、ディスコとは、「四つ打ち」に代表されるような、明確で重いバスドラムビートにメロディーを乗せたダンス曲、またはこうした曲をDJがかけて客に専用フロアで踊らせる飲食店のことを言います。店舗としてのディスコでかかる曲を総称して「ディスコ」と呼ぶ場合もあります。

中心となる時代は70代半ばから80年代後半まで。日本では、80年代後半にマハラジャ的なユーロビートが失速して、バブル経済ともども、終焉を迎えました。有名な「ジュリアナ東京」や「ゴールド」といったディスコ店は90年代に入ってからも生き残りましたが、ほんの一時期の出来事でした。

白人でも黒人でも黄色人種でも、ディスコの曲を発表したミュージシャンはいます。最も重要なことは、「ディスコミュージック」というジャンルや「ディスコの曲」はあっても、「ディスコミュージシャン」というのはほとんど存在しないということ。

「ディスコの曲」を作ったアーチストということでいえば、ローリングストーンズ、ビーチ・ボーイズからバーブラ・ストライザンド、エルトン・ジョン、ジェームズ・ブラウンまで、あらゆる人々が含まれます。例えば、カナダの著名ロックスターのブライアン・アダムズはTake Me To The Dancingというディスコ曲で事実上のメジャーデビューを果たし、ビルボードのディスコチャートにも入りました。彼はそれを恥と思っていて、自分のベスト盤には入れていません。けっこう軽快でいい曲なのにねえ。

ディスコは単純に言えば「踊れる」曲のことですから、このMen Without Hatsの曲群も立派なディスコです。いいんですよ、これが。シンセサイザーをうまく使った面白系のテクノポップ・ディスコに仕上がっています。

83年にビルボードのポップチャートで3位にまで上がった「セーフティ・ダンス」は有名ですが、ディスコでは「リビング・チャイナ」(テンポがめちゃめちゃ速い)、「ホエン・ドゥ・ザ・ボーイズ・ゴー」がけっこうはやりました。私が上京直前の84年ごろ、札幌の往年の名店「釈迦曼荼羅」なんかで超人気曲だったものです。リードボーカルのイバン・ドロシュクの声がなんだか変な低音で、不思議な魅力がありました。

あと、ポップ・ゴーズ・ザ・ワールドも歌詞は「私たちはポップを奏でる音楽家で〜す。さあ踊ろう」みたいに軽くて「おばか」な曲なのですが、それこそディスコの真骨頂。楽しく踊れりゃいいという典型、見本を見せてくれていました。

I Love Disco

I Love DiscoこれもスペインBlanco盤の80年代ディスコ集。3枚組。欧州で流行するディスコは70-80年代当時、シンセ多用のミーハー系が多かった。ジンギスカンやアラベスクやドゥーリーズなんかも欧州です。イタリアについては、ユーロビートの一大拠点でした。ディスココンピも、白人ミーハー系であれば、欧州産が全般的に良い内容になっているようです。

このCDには一般的なヒット曲も含まれていますが、特筆すべきはレアな曲が多いこと。C.C.CatchとかMax HimとかMy MineとかTwinsなど、80半ばに頻繁にディスコでかかっていたにも関わらず、CD化がされていたなかったものが収録されていてお勧めです。私自身はMy MineのHypnotic Tangoは哀愁系の逸品だと思います。

・・・ですが、今はこのCD自体が入手困難になってきています。中古でももし見つけられれば、購入する価値あり。ちなみに、Vol2、3もすごくいい。Vol3には、シルベスターやデッド・オア・アライブなどのお馴染み系に混じって、CD初収録のForrest「愛の航海」やRofoの「Flashlight On A Dancefloor」といった、これまでCD化されていなかった曲が目白押し。音質もまあまあ。ただ、曲と曲の間が短すぎなのが玉にきずです。

それと、世界では似たようなデザインの「I Love Disco」というタイトルのコンピレーションがいくつかあるので、混同しないように注意。ほかのコンピはたいしたことないです。

I Love Bobby ''O''

Bobby O80年代初期ディスコの一大ジャンルであった、ハイエナジーサウンドの代表アーチストのBobby O。ハイエナジーは70年代後半に出てきたリズムボックス打ち込み系が進化したもので、ユーロビートの前身と理解してよいと思います。世界のディスコサイトの権威であるDiscomusic.comなどによると、欧州や米国西海岸のゲイピープルに特に愛されていたようですね。私はストレートですが、こうした音は大好きでした。

Bobby Oには何枚かベスト盤があるのですが、このスペイン盤が一番お勧め。まず音が良い。ディスコの再発CDはとにかく音質が悪くて、私のコレクションで言えば、3割ほどはレコードから録音しています(プチプチ音がする)。その点、このCDはほとんどがマスターテープから入っていると思われ音はOK。知っている人は知っているShe Has A Wayのほか、Divine、Flirts(いずれもジャケット下に写っています)などの仲間アーチストが歌う曲が収録されています。中には、音質は悪いのですが、Pet Shop Boysの昔の曲も入っています(かつてBobby Oのプロデュースを受けていた)。

さらに、ほかのベスト盤に入っていないDancin'という曲が入っていることがポイント。この曲は当時の日本のミーハー系ディスコではよくかかっていました。このとき私は札幌にいたのですが、市内のディスコでよく耳にしたものです。

私にとっても基本盤です。ちょっと前、米国のアマゾンにレビューを書きました。Bobby Oは今、音楽業界の一線を退き、NYで弁護士をやってらっしゃるようです。17歳でデビューした天才ディスコ少年だったのですが、頭も良かったようですな。

Prince Charles and The City Beat Band

Prince Cherles1982年ごろ発表のプリンス・チャールズ。これもUnidisc盤です。ディスコ・ファンクでかなり重量級で格好いい音を出しています。当時、日本の一部のディスコでも好んで使われていたようです。1曲目のDon't Fake The Funkは私も何度か耳にしました。「バーン・ラバー」で知られるギャップバンドのような低音強調系です。ややアップテンポなのですが、パーラメントやアフリカバンバータ的な雰囲気もある。ヒップホップ好きにも良いかと思います。ただし、私の調べたところでは、チャートインは一切していないようです。

けっこう珍しい盤で、オンラインで見つけたら1枚いかがでしょうか。ギャップバンドやパーラメントみたいなディスコファンクに興味があれば、お勧めです。

ディスコの話

Leon Bryant新聞記者を辞めてフリーの物書きをやっています。趣味はディスコ。唐突ですいません。レコードやCDのコレクターを20年以上やっていて、普段の仕事と離れて、一般的なものから、珍しくて入手が難しかったものまで色んなCD類を紹介することにしました。今は外国からの入手が中心です。このあいだは、メキシコとブラジルから取り寄せてみました(到着まで不安だった)。

紹介一発目は、いきなりレオン・ブライアント。といってもパソコンの近くにあったので、デジカメで撮影しやすかったから選んだだけです。この人は12歳でプロバンドのリーダーを務めていたそうで、81年、Kool&The Gangも所属していたDe-Liteレーベルからデビューを果たしています。このアルバムは2枚目のMighty Bodyで、タイトル同名曲がシングルカット。ブラコン系の快調アップテンポの良い曲です。米ディスコチャートでは無視されましたが、R&Bチャートで81位に。写真のCDは、ディスコ再発で有名なUnidiscから出たやつです。ディスココレクションとしてのお勧め度は100点中65点といったところですね。全12曲入り。Mighty Bodyは12インチバージョンも収録。
プロフィール

mrkick (Mr. Kick)

「ディスコのことならディスコ堂」----本名・菊地正憲。何かと誤解されるディスコを擁護し、「実は解放と融合の象徴だった」と小さく訴える孤高のディスコ研究家。1965年北海道生まれのバブル世代。本業は雑誌、論壇誌、経済誌などに執筆する元新聞記者のジャーナリスト/ライター/翻訳家。もはや踊る機会はなくなったが、CD&レコードの収集だけは37年前から地味〜に続行中。アドレスは↓
mrkick2000@gmail.com

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