Mutant Disco先日、ディスコ解説本「Satuaday Night Forever」の共著者であるフィンランド人のユッシ・カントネンさん(Jussi Kantonen、50歳)に会う機会がありました。ひょんなことで知り合い、来日時に一緒に飲んだというだけなのですが、米欧のディスコ文化の違いについて面白い話を聞くことができました。

彼が強調していたのは「アメリカと違い、ヨーロッパでは、ディスコは一度も死んだことはない」ということです。「昔、アメリカのパラダイス・ガラージにもスタジオ54(いずれもニューヨークの有名なディスコ)にも行ったが、良い印象を持てなかった。音響施設は確かにいいんだけど、客がよくなかった。いかにも『私たちは消費している』という感じで、音楽を味わっていなかった」と言うのです。

まあ、欧州人が米国人に対抗心を燃やすのはよくあることなのですが、「ディスコを消費し尽くしたアメリカ」という感覚は私も抱いていたので、納得がいきました。彼は、フィンランドでは有名ディスコDJ(本業は公共施設のほかディスコ、クラブなども設計する建築士)であるとともに、所有数1万枚以上のパワー・レコードコレクターでもあります。過去30年以上に渡って、ヨーロッパ各地に旅行などで訪れては、現地のディスコやクラブに通ってきたという猛者ですし、えも言われぬ説得力を感じたものです。

以前にも当ブログでお話したとおり、アメリカでは79年を頂点としてディスコが一度死んでしまった以上、どうしても80年以降は「ダサい」イメージが付きまとい続けました。熱狂ブームのころの商業化の度合いは極端なほどだったので、その反動も大きかったのです。ヨーロッパよりアメリカの影響が強い日本でも、ディスコはほぼ同じ扱いを受けることになりました。

一方、ヨーロッパでは、引き続きディスコを冷静に楽しむ雰囲気が残りました。そもそも、アバやボニーMのような「歌謡曲的な」曲調は、ポルカを始めとする気さくで親しげな民族音楽に一つの基礎を置いていますし、最初から「小ばか」にされることも少なかったのです。その後の「哀愁ユーロ」などにも同じことが言えます。意外に保守的な国民性を持つ上、マッチョな白人ロックがものすごく勢力を持つアメリカと違って、ヨーロッパは多言語で多国籍で多文化な地域ですから、ディスコがいろんな要素を摂取しつつ、柔軟に生きながらえる可能性が高かったといえるでしょう。

カントネン氏はさらに「ダンス音楽シーンという意味では、今も昔もフランスのパリが一番、面白い」とも強調しました。フランスといえば、「英語を使うな、教えるな」という運動が起きるほど、アメリカへの対抗心がことさら強い国ですが、「アメリカから有形無形の影響を受けながらも、音楽についても独自のものを維持し続けている」と彼は言うのです。

そんな「ヨーロッパの何でもありディスコ」ということで言えば、私などは1980年前後に変わったディスコ曲をたくさんリリースしたインディレーベル「Zeレコード」を思い出します。

創業者の2人がフランス人と英国人で、かつ本社が米ニューヨークにあったという多国籍さもさることながら、出した曲も、あえて言えば全体的にフランス風の前衛音楽の色合いを感じさせてはいるものの、ジャンルはパンクから、ロック、ファンク、ラテン、ニューウェーブ、ハイエナジーまで、もうめちゃくちゃなくらいのラインアップ。その節操のなさが、Zeレーベルの持ち味でもあったのです。そこで育ったアーチストは、キッド・クレオール&ザ・ココナッツ、ワズ・ノット・ワズ、クリスティーナ、フォンダ・レーなど数知れません。

Zeレーベルは78年に設立され、85年に倒産したのですが、5年ほど前に復活。「ミュータント・ディスコ(Mutant Disco)」というコンピCDを全部で3枚出しました。収録曲の多くはロングバージョンで収録されています。

特筆すべきは、CD1枚で発売されたVol.3(写真)で、知る人ぞ知る、キャズ・カワゾエという日本人女性がラップで参加したDaisy Chainの「No Time To Stop Believing In Love」が収録されている点。日本語のほか、フランス語、スペイン語、英語が混ぜこぜになっている“超珍曲”で、84年の発売当時は、日本の一部のディスコでも人気が出ました。これこそ「多様性の権化」みたいな曲といえるでしょう。キャズ氏については、自身でホームページも運営しており、「多国籍な曲作りに関わった」当時の思い出を語っています。

ただ、ZeのCDをあらためて通して聴いてみると、多様であるがゆえに、「ところで、結局、このレーベルは何がやりたかったんだ?」と思われる余地はありますな。「ディスコ的」に見れば、少しアバンギャルド過ぎて分かりにくい(踊りにくい)曲もありますし。「そのズレ具合がディスコ的で面白いのではないか」とも思いますが、私としても難しいところですねえ。

ところで、前述のカントネン氏。東京の渋谷で思いっ切りレコードを買って帰ったのですが、「何が一番よかった?」と聞いたところ、嬉々として「ええっと……ピンクレディーの『マジカル・ミュージック・ツアー』です。サンバ風、レゲエ風、中国風といろんな曲が入っているやつ。それが何と300円で買えたんですよ! それと、西条秀樹の70年代のベストアルバムも良かった。どっちも最高のディスコです」と答えました。

さらに、「フィンランドでは今、日本の70年代ディスコが人気です。でも、なかなか手に入らないので、この2枚はまさに掘り出し物でした。さっそく帰ったらクラブでかけますよ」と話していました。いやはや、実はカントネン氏自身が、多様な感覚を持つ北欧人だったようであります。

私は、音楽を語ることは、宗教を語ることと同じだと思っています。思い入れや信仰心は人それぞれであり、互いに非難したり貶めたりするのはよくない。そういう意味では、何でも無節操に取り入れるディスコって、寛容で自由で平和な音楽だと考えています。そう、本質的に「Mutant Disco(突然変異ディスコ)」であればこそ、ポストモダンな魅力も際立つというわけですな。