
1984年発売の「セックス・シューター」が唯一にして最大のヒット。ディスコチャートでは32位まで上昇しました……とたいしたことはないのですが、日本のディスコでも頻繁にかかっていましたし、非常に印象深いアーチストです。
意外に話題になったワケは、かのプリンスによる企画モノだったという点にあります。気まぐれで変わり者のプリンスならではの発想で、女性ボーカルによる、エログロなプリンスワールドをフロアに炸裂させたというわけです。
「セックス・シューター」が収録されているデビューアルバム「アポロニア6」は、プリンスらしいドラムマシーンと野獣的かつ魔術的な曲調に満ち満ちております。ちなみに「6」とは、「3人のおっぱいの合計数!」だとか。これもプリンスの発想。トホホ。
アポロニア6は、「ヴァニティ6」(写真下)という似たような女性トリオが前身。リードボーカルに「Vanity(ヴァニティ、本名Denise Matthews)」という元人気女優がいて、82年に「Vanity6」というアルバムを出し、かなり売れました。シングルカットされた「Nasty Girl」は、ディスコチャート4週連続1位になっています。
しかし、そのヴァニティは、ちょうどそのころ撮影を終えたばかりのプリンス作の映画「パープルレイン」への出演ギャラなどを巡って、プリンスと仲たがいしてしまって脱退。急遽、新しくボーカル1人だけを公募して、「アポロニア(本名Patty Kotero)」をリードボーカルとするアポロニア6として、再び売り出したというわけです。
アポロニア、ヴァニティ、それに残りの2人の女性ともども、プレイボーイのモデルなどとして活躍していたような美人ぞろい。ゆえに、世の男性陣を中心に人気を誇っていたというわけですが、2つのグループともにアルバムは1枚のみ。線香花火のような短い命だったのです。
ただし、この2枚のアルバムともに、内容はいい感じではあります。初期のプリンスらしく、ドラムマシーン/シンセの使い方には新奇性を感じさせつつ、わりと素直なダンスミュージックに仕上がっています。「アポロニア6」では、シーラEが作曲を担当した「ブルー・リムジン」など、プリンスファミリーの豪華さを感じさせる佳曲も目白押しです。
プリンスファミリーを離れたヴァニティのその後ですが、黒人音楽の名門モータウンレーベルに移って、しばらく中ヒットメーカーとして活躍したものの、コカイン中毒に陥り、身を持ち崩してしまいました。現在は、改心して敬虔なクリスチャンとなり、伝道者として米国中を回っているとのことです。「Vanity=虚栄」を地でいくような人生に、自分なりにケリをつけたということでしょうか。
CDは2グループともに出てはいるのですが、かなり以前(90年前後)のリリースのためレア扱い。日本では入手が難しく、海外のオークションサイトなどでときどき見かける程度です。私もこの2枚の入手には苦労いたしました。
