
ディーバ特集の掉尾を飾るのは、フィリス・ハイマン。今までの人々よりもアダルティな曲が多かったこの人も、もうこの世にはいません。1995年に睡眠薬を多量に服用し自殺。享年44。
純粋なディスコ歌手ではなく、ソウルとかジャズ畑です。でも、「You Know How To Love Me」(79年、ディスコチャート6位)の印象はあまりにも強烈。派手さはありませんが、ゆるりとした時間帯には欠かせないミディアムテンポの佳曲であります。
1950年、フィラデルフィア生まれ。ニューヨークの人気ジャズクラブ歌手だった1970年代半ば、ノーマン・コナーズに見出されてレコード歌手の仲間入り。最初は売れませんでしたが、77年にブッダ・レーベルから出したアルバム「フィリス・ハイマン」でまずはブレークを果たしました。ディスコ的にはここから「Losing You-Losing You」をヒットさせています(チャート36位)。
79年にはアリスタ・レーベルからアルバム「You Know How…」を出し、アルバムタイトル曲が大ヒットしたわけですが、このレーベルとは意見の相違があって、契約をめぐって対立するようになります。
翌83年にはアルバム「Goddess of Love」をリリースし、中でも「Riding The Tiger」はディスコでヒット。この曲は私自身もフロアで耳にした曲で、イントロでジャングルの中にいるような効果音が入っていたのが印象的でした。ただし、レコード会社の協力はあまり得られず、このあたりで人気は下降線をたどるようになりました。
それでも、彼女は80年代後半に復活を果たします。新しいレーベルはプロデュースチーム「ギャンブル&ハフ」で知られるディスコの名門フィラデルフィア・インターナショナル。ビルボードのR&Bチャートで上位に入るようなヒット曲を再び連発するようになりました。
91年には、彼女の最大のヒット曲「Don't Wanna Change The World」(R&Bチャート1位)をリリースしています。
けれども、彼女は精神的に追い詰められていました。90年代初頭には肉親の相次ぐ死去や金銭トラブル、それに過労が重なって、アルコール依存症になっていました。急に太りだし、自身の容貌が崩れることへの恐怖も口にするように。そううつ病など複数の病と闘っていたといわれています。「もう疲れた」と書かれたメモを残して自殺したのは、NYアポロシアターでのコンサートの数時間前でした。
彼女の繊細さは、歌にもよくあらわれています。ノリノリのダンサーはありませんが、フロアというよりも、自宅で夜遅く、アルバムを通して聴くのによいアーチストといえましょうか。YouTubeではディスコ風のものがなかったので、晩年の代表曲の一つ「When You Get Right Down To It」(92年)を紹介しておきます。
再発CDは比較的たくさん出ています。写真のはアリスタ時代の米盤ベスト。Riding The Tigerが入っているのが嬉しいところです。