The Stylistics (スタイリスティックス)70年代にヒットチャートやダンスフロアを賑わせたソウル・アーチストが、80年代になるとすっかり影が薄くなってしまう…。よくあることなのですが、私はこういったアーチストの80年代の曲こそ、惹かれてしまうのです。例えばスタイリスティックスなんていい例かなと。

近所の喫茶店でマンガを読んでたり、下町の商店街を歩いていたりすると、必ずといってよいほど聞こえてくる「愛がすべて」を始めとする名曲の数々。ダンサーだけではなく、今は昔のチークタイム定番の「誓い」「ユー・アー・エブリシング」なんてバラードも珠玉であります。

この人たちは、スムーズでメロディアスな「フィラデルフィア・サウンド」の代表的なボーカル・グループ。特にラッセル・トンプキンスの裏声高音が何と言っても魅力。私などは、どうしてもビージーズを思い出してしまうのが困るのですが、上手いことには違いないでしょう。70年代には、R&Bチャートのトップ10に入る曲をコンスタントに出していました。

でもまあ、70年代の終わりごろから落ち目になりましてねぇ。小ヒットはありましたけど、もはや相手にはされなくなった感があります。80年代以降、何枚もアルバムを出しているのですが、どれも注目されることは少ない。私自身、当時はほとんど見向きもしなかったわけで、せいぜいFMから彼らの曲をエアチェックする程度だったのです。

ところが、ちょっと前に面白いCDを見つけました(写真、英Edsel盤)。なんと、「Hurry Up This Way Again」(80年)など、80年代前半の彼らのアルバムがドド〜んと3枚分、2枚のCDに収められているのです。しかも2000〜3000円程度とけっこうお買い得です。

聴いてみると、ほぼ予想通りの展開となっておりました。70年代の聴き飽きた感のある声が、それまでのオーケストラ・オンリーではなく、ほのかに使われているシンセサイザー音にうまく乗っかって、なんだか新しい雰囲気を醸しているのです。あくまでも個人的な嗜好なんでしょうが、私はこういう音が好きなのです。ビートにメリハリが効いて、ノリのよさ、踊りやすさは倍増。音の厚みもバッチリ、てところです。バラードもなかなか秀逸です。

70年代にディスコでひと儲けしたベテランのソウル・ミュージシャンの多くは、シンセの定着を背景としたポップスの激変期を迎えたため、80年代を渡りきるのは難しかったようです。テンプテーションズしかり、フォートップスしかり、インプレッションズしかりです。アースやクール&ザ・ギャング、さらには元コモドアーズのライオネル・リッチーなどのように、「えーい、思いっきりポップ、ポップしちゃえ!!」と確信犯で大衆的になって成功した一部の例を除けばですね。

けれども、こうした「過去のソウルな人々の80年代の音」は、大ヒットはしていなくても、私は侮れないと思っています。例えば、テンプテーションズの「トリート・ハー・ライク・ア・レイディー」(84年)なんて、ディスコフロア的には、ノリもよろしくて超名曲だと思います。実際にディスコでは大人気でしたし。うねうね、ぽこぽこぴーの電子音を嫌う往年のソウルファンにはチトつらいでしょうけど、ディスコ好きなら注目したい分野ですね。

ついでに言えば、私も好きな「ナッシング・フロム・ナッシング」(74年)などの正統派ソウルヒットを持つかのビリー・プレストンは、80年代には何をとち狂ったか、ハイエナジー・ディスコの殿堂メガトン・レーベルから「アンド・ダンス」(84年)なんていうノリノリな曲をリリースしています(私はこれも好きです)。

さらに、ハイ・エナジー系のヒット曲「アイム・ゴナ・ラブ・ユー・フォーエバー」(84年)を歌っているのは、テンプスの名ボーカルだった故デヴィッド・ラフィンの実兄ジミー・ラフィンと、元ボーイズ・タウン・ギャングのジャクソン・ムーア(ジャッキー・ムーアではない)なのでありました。

ジミー・ラフィンって、60年代からけっこう活躍していた真面目なソウル・シンガーだったのに、この微笑ましい変貌ぶりは何なのでしょう。この曲の12インチは、特に手に入りにくいというわけではないのですが、私にとってはいろんな意味で宝物の一つとなっています。ジャケットで、「さあ、踊りに踊って楽しんでください」とばかりに、にたにた笑うジミーさんの表情がステキなんです。

転換期を迎え、再起を賭けて試行錯誤する往年のアーチストたち。そんな姿を想像しながら踊る(?)のも、80年代ディスコの楽しみ方といえるかもしれません。