_SS500_ロックがディスコでかかったことについては前回投稿でも述べました。しかし、ヘビメタやハードロックはさすがにご勘弁を……という意味では、ヴァン・ヘイレンは特別でした。

確かにキッスの「ラビニューベイベー」(79年、ディスコチャート37位)という例はありました。でも、あれはもうほぼ純粋どんどこディスコな曲でしたから除外。ジャーニーとかELOとかフォリナーとかヒューイルイスとか、“中高生向け産業ロック”っぽいのも数多くかかったけど、これも本格的なハードさにかけるので除外。その意味では、84年発売の彼らのアルバム「1984」(上写真)からのシングル「Jump(ジャンプ)」(米一般チャート1位、ディスコチャート17位)こそ、本命ロックが世界のディスコフロアを賑わせた代表的な曲だと考えられます。

日本でも大人気で、サビの「ジャンプ!!」の部分では、フロアで皆一緒に飛び上がったりした日々……。でも、なんといっても、グループの中心人物でリードギタリストのエディ・ヴァンヘイレンによる伝説の速弾きがディスコで聞ける面白さが、際立っていたわけです(時間は短いが)。

こうしたエディ氏のディスコ化、ポップ化、大衆化は既に2年前の1982年、マイケル・ジャクソンのあの「今夜はビート・イット」で実現されておりました。マイケルとプロデューサーのクインシー・ジョーンズは「たまにはロックっぽいのをやろう」とビート・イットを制作し、ヴァンヘイレンの例の超速ギターソロを後から挿入したのでした。ヴァン・ヘイレインは二つ返事でOKし、なんとノーギャラで参加したのです。

マイケル、ヴァンヘイレンの両サイドともに、ジャンルを越えて幅広いリスナー層に売り込みたいとの欲求があったということでしょう。否、70年代から「R&B」と「ハードロック」の分野の第一線で活躍してきた両者だけに、互いにどこか閉塞感があったとみることもできます。結果として、このコラボは絶妙な調和を生み出し、ポップス史に残る名作として位置づけられることになったのでした。

個人的には、「ディスコフロアとエレキの相性はいまいち」と今も昔も考えております。あくまでもリズム&ビートが中核となるディスコですから、エレキがあまりキンキンに前面に出過ぎるとうるさい感じ。でもまあ、ジャンプについては、まずはドラム進行が四つ打ちのディスコな雰囲気が満載ですし、キーボード/シンセサイザーも負けずにウィンウィン鳴ってますし、ボーカルの“お馴染みひょうきん者”デヴィッド・リーロスも素直な歌いっぷりですから、もうハードロックさは後退しているわけですがね。

一方でビート・イットの方は、ちょっと過剰なハードロック感がにじみ出ており、いくぶんエレキが耳障りだと思いました。バカ売れしたのでディスコでも頻繁にかかっていましたけど、あまり私自身は欣喜雀躍しなかった記憶があります。自宅で聞くのは今だってオッケーですけどね。

ビート・イット、ジャンプに限らず、ローリング・ストーンズ「Undercover Of The Night」(83年、ディスコ9位)とか、ボン・ジョヴィ「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」(86年、一般1位)とか、ヨーロッパ「ファイナル・カウントダウン」(87年、同8位)とか、それに驚きの「ヒップホップ+ハードロック」をやってのけたRUN-D.M.C.「ウォーク・ディス・ウェイ」(86年、ディスコ6位)とか、ロック風でありながら、フロア・フレンドリーな曲はこのころたくさんありました。

ポップヒットはディスコヒットでもあり、「巷で売れてるからかけてます」という感じ。でも、お客にとっては、よく知っている曲がフロアでかかると狂喜乱舞です。マニアは別として、普通の人はディスコチャートの動きなど注目していませんから、一般のヒット曲をディスコで聞いて踊るのは楽しみでもあったのです。「ディスコ(ダンスミュージック)」の範疇に入らなくても、「ダンサブル(踊れる)」な曲は多かったのです。

ことほどさように自由奔放でクロスオーバーな80年代。しかし、その数年後の90年前後を境として、世界は政情不安を背景とした時代閉塞感に再び苛まれました。アメリカは湾岸戦争、イギリスはサッチャー首相退陣、東欧ではベルリンの壁&ソ連崩壊、中国では天安門事件、そして日本ではバブル崩壊です。

音楽界もしかり。ダンス界では、新世代のデジタルシンセサイザーに代表されるハイパーな電子化とあいまって、“ジャンルの壁”乱立状態。ハウスだテクノだトランスだドラム&ベースだと猛烈に多様化が進み、なんだかリアルな世紀末の様相を呈してきます。曲調も全体的にメロディーが消失して単調となり、どこかサイケでアシッドでシュールでキッチュで(?)、ドナサマーやらヴィレッジピープルやらアバやらボニーMやらが打ち立てた伝統の“無防備な親しみやすさ”が薄れました。「開放的ディスコ」は「閉鎖的クラブ」に駆逐されたのです。

クロスオーバー時代の真っ只中、フロアのど真ん中に咲いたお気楽「ジャンプ!」も、今思えば、やがて反動としてやってくる「ジャンル細分化バラバラ事件」の不気味な序曲に過ぎなかったのかもしれません。