
ジャバラさんは1948年ニューヨーク生まれ。10代のころからモデル、さらにはミュージカル俳優としてタレント活動に勤しんでいたのですが、音楽家としての才能を開花させたのは、78年に公開された抱腹絶倒ディスコ映画“サンク・ゴッド・イッツ・フライデー”に関わったときのことでした。
彼は、ディスコレーベルとして一世を風靡したカサブランカ・グループが制作したこの映画のサントラで、「Disco Queen」「Trapped In A Starway」の歌手としてエントリーしています。けれども、最も偉大な仕事はやはり、映画のラストシーンでドナ・サマーが歌う「ラスト・ダンス」(78年、米ポップチャート3位、米ディスコチャートもちろん1位、ついでにアカデミー賞作曲賞も獲得)の制作を手がけたことにあります。
もともとミュージカル畑であるため、サントラをはじめとする「劇場音楽」に慣れ親しんでいたのが大きかった。下積みの経験が、飛ぶ鳥落とす勢いだった“ディスコ・クイーン”ドナ サマー屈指の名曲の誕生に結びついたのだと思われます。
ジャバラさんは役者でもありますから、実はこの映画に出演もしています。役どころは、シャイでオタクな雰囲気いっぱいのディスコの客である「間抜けなカール君」です。
もう一つ、劇場型ディスコという意味では、米国を代表する大女優・大歌手バーブラ・ストライザンドとの接点についても触れなければいけません。ジャバラさんは、バーブラ主演の映画「メーン・イベント」のサントラに使われた同名主題歌「メーン・イベント」(79年、ポップ3位、ディスコ13位)を作曲しているのでした。見事なドンドコディスコなわけですけど、さすがにバーブラの表現力には圧倒されます。
そして、息をもつかせぬジャバラ劇場は、この2人の超大物女性歌手による、空前絶後の「奇跡のデュエット」である「ノー・モア・ティアーズ」(79年、米ポップ、ディスコチャートで各1位)でクライマックスを迎えます。個性の強い2人を共通の友人として結びつけ、かつこの曲を作曲したのもジャバラさんだったのです。
いやあ、ことほどさように、裏方中心とはいえ、ディスコのメーン街道を歩んできたジャバラさん。けれども、これで終わりではありません。同じ時期、とっておきの「あほあほディスコ」をソロとしてリリースしているのです。
ジャバラさんは70年代後半、自分の名義で、カサブランカからディスコアルバムを3枚リリースしているのですが、特にその3枚目「ザ・サード・アルバム」(79年)に収録されている14分間の大作メドレー「Disco Wedding - Honeymoon (In Puerto Rico) - Disco Divorce」(YouTube動画参考)が圧巻です。
つまり、カップルの結婚から新婚旅行、そして離婚までの物語をモチーフにした「一大ディスコ絵巻」となっているのです。ホントにウェディングマーチのメロディーを使っていたり、途中で夫婦喧嘩が始まったりして、さすがの私も馬鹿馬鹿しさと怒りがこみ上げ、聴き終わると毎回脱力しています(それでもなぜかまた聴いてしまうのだが)。
このアルバムには、友人ドナ・サマーとのデュエットによるメドレー曲「Foggy Day - Never Lose Your Sense Of Humor」も入っています。ジャバラさんはあまり歌が上手ではないため、途中、ドナ・サマーのボーカルパートになってからいきなり曲全体が引き締まる、というやや皮肉な展開になっております。
さらに、80年代に入ってからも、以前に紹介したウェザー・ガールズに「イッツ・レイニング・メン」(83年、米ディスコ1位)を作曲して提供しています。これなども、80年代を代表する変てこディスコですので、まだまだ勢いが衰えていなかったことを身をもって証明したのです。
その後、、86年にも、これまた豪華絢爛で摩訶不思議なディスコ絵巻である「Ocho Rios」(オチョ・リオス)をソロ名義で発表。あまり売れませんでしたが、曲自体はとびきり陽気なミュージカルディスコの本領発揮でして、ディスコとして聞くのであればとても楽しめます。「愛と冒険を求める女性」をモチーフにしており、これまた9分を超す長尺モノ。彼が作り上げるストーリーと世界観には、いつもながら引き込まれてしまいます。下のYouTube動画のPVでは、彼のコミカルな役者ぶりも堪能できます。↓
ディスコ界を渡り歩くマジシャンのごとく、次々と魔球を繰り出した奇才ポール・ジャバラさん…ですが、その奇想天外なディスコグラフィーもこのあたりでとうとう終幕を迎えます。というも、丁度このころに彼はエイズに罹患していることが判明し、闘病の末、92年には44歳の若さでこの世を去ってしまったからです。ほかの多くのディスコアーチストたちと同様、当時は不治の病といわれたエイズによって命を奪われたのでした。「Ocho Rios」が事実上、最後の(隠れた)傑作になってしまったわけです。
ソロ名義のCDの再発はほとんど実現していないのですが、最近、米インディー系再発レーベルの「Gold Legion」から、例の14分の「結婚・離婚メドレー」が入った「ザ・サード・アルバム」が発売になりました(上写真)。ライナーノーツにはドナ・サマーのコメントが載っており、次のように語っています。「ポールを失ったことは私にとって辛すぎた。彼の笑い声、私に与えてくれた喜び、ほとばしる才気。今はそのすべてが懐かしい」