
アメリカン・ポストパンクの旗手でもあったトーキング・ヘッズの女性メンバーTina Weymouthらによって、ある種の“サブバンド”として結成。バナナラマをも彷彿とさせる「スクールガール・ボイス」とでもいうべき少女っぽい女性ボーカルのコーラス、レゲエまたはカリプソ風のメロディー、そして前面に出てくるユニークで前衛的なシンセサイザー音が特徴です。同時期のダンスグループであるZappやB52sの影響も受けています。
ヒット曲はなんといっても、「Tom Tom Club」に入っている「Wordy Rappinghood」(81年、米ディスコチャート1位)。邦題が「おしゃべり魔女」とふるっています。「Words in papers, words in books, words on TV, words for crooks...」といった具合に、文字通り韻を踏んで展開する奇妙なラップ曲で、闇夜に黒魔術の呪文を延々と唱えているようにも聞こえてきます。
CDのライナーノーツに載っていたTinaの回顧談によると、ある日、女性ボーカルのメンバー同士でレコーディングの合間に散歩しているとき、子供のころに聞いた黒人の同級生の言葉遊び(昔の日本の「おちゃらかほい」とか「せっせっせ〜のよいよいよい」のようなもの)を突如として思い出し、鼻歌のように節をつけて歌っているうちに、この曲のアイデアがひらめいたそうです。やっぱり何か変です。
私も当時のディスコフロアではがんがん耳にしましたが、「ミラーボール神」と交信する“呪文ラップ”の効果はなかなかのもので、人気がある曲の一つでした。フロアを飽きさせない奇抜な発想こそ、この曲の持ち味でしょう。ほかの黒人のラップなどと比べてややテンポが速めでノリがよく、ズシッ、ズシッとバスドラムがきっちり小気味よく刻まれていたのも好印象でした。
ディスコ的にはこれのほぼ一発屋といってもいいほどです。でもまあ、ほかにもDriftersのヒットのリメイク「アンダー・ザ・ボード・ウォーク」(82年、ディスコ31位)とか、ほかの数多くのミュージシャンにリメイクされた「玄人受けする変な名曲」である「ジーニアス・オブ・ラブ」(82年、米R&Bチャート2位)、「The Man With The 4-Way Hips」(83年、ディスコチャート4位)などのヒット曲もあります。どれもちょっと「呪文的」な曲ばかりです。「お〜!アバ〜ンギャ〜ルド!」と人知れず叫びたくなります。
ニューウェーブ・ディスコといえば、まずはイギリスが本場ということになりますが、以前に紹介した「ブロンディ」や「ディーボ」をはじめ、アメリカにもいくつかよいグループがいたということになります。私自身、トムトムクラブもトーキング・ヘッズも、イギリスのグループだとずっと勘違いしていたほどですので。
トムトムクラブは90年代前半までに4枚のアルバムを出していますが、全盛期は80年代前半から半ばにかけての短い期間でした。再発CDについては、昨年発売の英Universal Island盤の「Tom Tom Club [Deluxe Edition]」が必要十分な内容です。ファーストアルバムとセカンドアルバム(「Close To The Bone」)が2枚組CDにそれぞれ収録されていて、かつ12インチミックスもいくつか入っていてお得感があります。