Mr. Telephone Man炎暑の折、今回は1980年代に大人気だったアメリカの黒人少年グループ「ニュー・ディション」にちょっと目を向けてみましょう。

彼らの代表曲として挙げたいのが「ミスター・テレフォンマン」(84年、米R&Bチャート1位、米一般チャート12位)。「愛しい彼女が電話に出てくれない。電話会社のミスター・テレホンマンさん、回線が故障していませんか?」とあどけなく訴える昔の“電話ディスコ”の見本のような内容となっております。

このグループは、ソロで成功したボビー・ブラウンやジョニー・ギルが在籍していたことでもよく知られています。ジャクソン5の「ABC」っぽい「キャンディー・ガール」(83年、R&B1位、米ディスコチャート17位)や、ちょいとブレイクダンス風な「クール・イット・ナウ」(84年、R&B1位、一般4位)など、大ヒット曲がいくつかありますが、レイ・パーカーJrがプロデュースした「テレフォンマン」が最もユニークで印象的です。

当時のプロモーション・ビデオを見ると、ボビーたちが「いかにもレイパーカーなゆるゆるメロディー」を口ずさみながらも、彼女との電話をめぐって困り果てている様子が伝わってきます。

もちろん、このころの少年たちは日米ともに「携帯電話」を使っていません。固定電話、特に公衆電話が、とりわけ恋愛の小道具として、大きな役割を果たしていたことがよく分かります。メールも含めて気軽な通信手段になり過ぎてしまった感もある携帯電話ではなく、わざわざ電話のある場所に赴いて、目的を持ってダイヤルを回していた時代だっただけに、もどかしい男女のドラマを曲の中で演出しやすかったのでしょう。

私がときどき閲覧している英語のディスコサイト「Discomusic.com」(左記リンク参照)の掲示板に、「昔の電話ディスコ」について書き込みをしたところ、世界中の私のような中年ディスコマニアやDJたちからけっこう反応がありました。「電話やベルの音が出てくる曲にはこんなのもあったね!」などと次々と書き込みがあり、しばし懐かしさにひたることができました。以下、ごく一部ですが列挙しておきます。

Operator - Midnight Star
Call Me - Skyy
Call Me - Sylvester
Call Me - Spagna
Request Line - Rockmaster Scott & The Dynamic Three
Doctor's Orders - Carol Douglas
Hangin' On The Telephone - Blondie
Call Me - Blondie
Last Night A DJ Saved My Life - Indeep
Sex Over The Phone - Village People

Telephone Operator - Pete Shelley
Call Me Mr Telephone - Cheyne
Call Me Mr Telephone - Answering Service
Telephone - Diana Ross
Telephone - Sheena Easton
Telephone Mama - Gazebo
Hot Line - The Sylvers
Operator - Midnight Star

Call Me Tonight - Cerrone
I Beg Your Pardon - Kon Kan
Come And Get Your Love - LIME
Sorry, Wrong Number - Evelyn Thomas

中には、でっかい受話器を耳にあてがいながら熱唱しているPVや、古風な電話のトーン音やベル音が効果音ととして使われている曲があります。ごく日常の風景としては、これだけ昔と今とで大きく変わってしまった例は、あまりほかにないのではないでしょうか。

思えば、日本でも70-80年代には、フィンガー・ファイブの「恋のダイヤル6700」みたいな「踊れる電話ナンバー」がたくさんありました。今の「携帯」以上に「わくわく、どきどき感」を醸し出す“電話ディスコ”が、流行病のように世界中に蔓延していた時代があったのです。まあ、発想が安易といえば安易ですが。

ジャクソンファイブほどではなかったにせよ、80年代の始めに一服の清涼剤のように躍り出たお子様グループ、ニュー・エディション。現在もなお、ときどき新作アルバムを出すなどして活躍中です。80年代の再発CDはあまりいいものがないのですが、各種ベスト盤のほか、「テレフォンマン」が入った写真の84年発売のアルバム「New Edition」については、アメリカ輸入盤などが比較的安価で入手可能でございます。