Dexies Midnight Runners時間があるので、さっさと次行きま〜す。ジグソーばりの一発屋といえば、この人たちも私にとっては印象深い。80年代にいきなり大ヒットを飛ばした途端、さっそうと表舞台から走り去ってしまった「デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ」であります。

82年に出したアルバム「Too-Rye-Aty(邦題:女の涙はワザもんだ!!)」からのシングルカット「カモン・アイリーン」があれよと言う間に全米1位(ビルボード一般チャート)を獲得したのですが、それっきりになってしまいました。

この曲は、しょんぼりしたアルバムジャケット(写真)とは対照的に、やけに陽気なアコースティックかつフォークダンスな曲調です。なんだか、日本人なら誰でも知っている米国民謡「オクラホマ・ミキサー」(原曲はTurky In The Straw)みたい。そんな牧歌的フォーク&カントリーにソウル、ロックの要素を組み合わせた英国発ニューウェーブサウンドです。シンセサイザーが使われていないディスコ曲は既にほとんどなくなっていた時期だけに、異色のダンスヒットとなりました。

このグループは、アイルランド系英国人のケビン・ローランド(Kevin Rowland)が中心になって結成し、自らリードボーカルも務めています。「ミッドナイト・ランナーズ」とは、「(薬物などでハイになって)夜通し踊る人々」の意味。彼はもともとパンクロッカーだったのですが、自身のルーツでもあるアイルランド音楽、さらにはアイルランド人の先祖にあたるケルト人の民族音楽を基調としたユニークな音に目覚め、結果的に(1曲だけだが)名作を世に残したのです。バイオリンやバンジョー、アコーデオンといった生楽器を導入し、独自の世界観を創り上げたのでした。

先に述べた「フォークダンスぶり」は、彼がアイルランド系であることに起因します。18世紀以降、隣の大国・英国の圧迫や飢饉から逃れようと、貧しきアイルランド人が大量に米国に移住してゆきましたので、米国の民謡(フォークソング)や民族舞踊(フォークダンス)といったルーツ音楽には、ケルト音楽やアイリッシュダンスといったアイルランド風味がふんだんに盛り込まれています。「デキシーズ…」と「フォークダンス」の親和性、相似性には、そんな背景があると考えます。

私自身、「カモン・アイリーン」は当時のディスコでよく耳にしました。直前にかかっていたマイケル・ジャクソンデュラン・デュランなどのシンセでポップな流行曲との“繋がりの悪さ”を薄々感じながらも、フロアはけっこう老若男女で埋め尽くされたものです。ほかの曲では絶対にそんなことなかったのですが、後半に曲のテンポが加速度的に上がっていく部分があったりして、その違和感がかえって人々の意表を突き、「歓喜の舞」へと駆り立てたのでした。

このアルバムには、ほかにもカモン・アイリーンを多少速くした曲調の「ケルティック・ソウル・ブラザーズ」のような小気味よいダンス曲がありました。「カモン…」以降は人気が急落してしまったのは残念ですけど、かつて新天地を求めて米国に渡ったアイルランド移民のごとく、不況で失業者が急増していた80年代欧州の若者の憂さを晴らすかのような、元気な音楽を残してくれたわけです。

CDはほかのアルバムやベスト盤(?)を含めて各種出ておりますが、ディスコ的には「ワザもんだ!!」が1枚あれば十分だと存じます。