ディスコ堂 by mrkick

音楽に貴賎なし ―Discoの考察とCD批評

ゲイ

フランキー・ゴーズ・トゥ・ザ・ハリウッド (Frankie Goes To The Hollywood))

Frankie Goest Toいやあ、早いもので前回投稿から1ヵ月以上が過ぎました。実際まったりと終わった(笑)久々のディスコイベントも無事乗り越え、新年一発目の投稿は……またまた長〜い名前のフランキー・ゴーズ・トゥ・ザ・ハリウッド(FGTH)であります!

もともとは英国で1970年代に隆盛を極めたパンク音楽に影響を受けた英リバプールの若者が、80年に結成したニューウェーブバンド。さしたる特徴のない凡百のアーチストだったのですけど、83年に発表した「リラックス(Relax)」(左写真、米一般チャート10位)がいきなり大ヒットし、一躍スターダムにのし上がったわけです。

リラックスを始めとする彼らの曲そのものは、当時ぽんぽんと出てきたシンセサイザーの打ち込み編集による「テケテケポコポコ」ダンスミュージック。売れた大きな理由は、とにかく「マーケティングの力」といえました。

発掘したのは、この手の英シンセポップのスタンダード曲「ラジオスターの悲劇」(79年)のヒットで知られるバグルズのメンバーで、売れっ子プロデューサーでもあったトレヴァー・ホーンです。そのトレヴァーらが83年にZTTレーベルを創設した際、目玉アーチストとしてFGTHを起用し、見事に大穴を当てたのです。とりわけ本国英国での人気は絶大でした。

まず、リラックスという曲自体、ゲイの“禁断の愛”を歌った挑発的な内容。英国の代表メディアであるBBCは、リリース直後は「へ〜、新しくて面白い曲じゃん」と平気でラジオ番組でかけていたのに、後で歌詞の意味に気づいて「わいせつに過ぎる!」と即刻放送禁止。プロモーション・ビデオも、ダンスクラブを舞台に際どいシーンが続出の素晴らしい“表現の自由”が展開されていたのですが……やっぱりBBCやMTVで放送禁止となりました。

それでも、洋の東西を問わず、際モノ狙いはときに成功するもの(はずすとイタいが)。「FGTHオリジナルTシャツ」などのノベルティ・グッズも売れ行き好調で、リラックスは英国内でチャート1位を続け、かのビートルズにも匹敵するほどの特大ヒットになっていったのです。BBCなどの放送禁止措置についても、あまりに人気が出たために間もなく解禁になりました(これも節操がないが)。

続く「トゥー・トライブズ(Two Tribes)」(84年、米ディスコ3位)も、打ち込みポコポコ路線を踏襲したダンスチューン。トレヴァー特有のオーケストラヒット(オーケストラ風のサンプリング音)を連打する大仰なメロディーと重厚ビートが、クドいほどに耳を突き刺します。歌詞の方も、米ソの「東西冷戦」をテーマとしており、だから曲名も「2つの部族(Tribe)」となっているわけです。

ただし、前作ほどのインパクトはなく、この辺りからセールスは急降下(早い)。けっこう泣かせるバラードの「The Power Of Love」、ちょっとしっぽりした感じの「Welcome To The Pleasure Dome」、これまたオーケストラな雰囲気のミディアムテンポのダンスナンバー「Rage Hard」といった佳作は出しましたが、特にアメリカでのセールスはふるいませんでした。

日本のディスコでも、リラックス、トゥー・トライブズともに、フロアの定番曲でした。私も、リラックスのあの長〜いイントロの12インチバージョンがかかっていたのをよく覚えています。もうこうなったら、歌詞の内容も何も関係なく、狂喜乱舞するほかありません。

際モノは物議を醸す、だから売れることもある――。常に刺激を欲しがる浮世にあっては、これはもうセオリーですけど、とかく当局筋(お上)との関係は問題になります。今なら大したことがないような歌詞であっても、30年前の当時は、ゲイとかセックスとかはまだまだご法度だったということです。

歌や踊り、つまり歌舞音曲は、昔から時の権力の取り締まりや保守的な人々からの白眼視の対象になってきました。私の好きな「700年前の元祖DJ」一遍上人(ご参考1ご参考2)も、民衆を引き連れて、「踊念仏」で鐘を鳴らしながら踊りまくり、魂の救済(衆生済度)を図ったわけですが、“首都”鎌倉に入ろうとしたら「まかりならぬ」と警備兵に止められ、やむなく手前の村の広場で踊り狂った、との記録が残っています。盆踊りのもとになった室町時代の風流踊り、江戸時代の歌舞伎なんかも、取り締まりの対象になりました。

人間はやっぱり自由でいたいし、心の解放を求めます。時にはハメをはずして歌いたいし踊りたい。好きな音楽を思う存分、楽しみたいんですね。

今の日本でも、未明に客に踊らせないようにする「ダンス規制」なんていうアホらしい決まり事が論議を呼んでいます。現在のクラブでは、昔のディスコ以上にドラッグや暴力が目立っている風潮が背景にあるのかもしれませんが、あまりに行き過ぎて過激化、暴動化しない限り、「ええじゃないか!」と自由に踊らせるべきでしょう。「きょうは無礼講じゃ!」と酒を飲んで踊りまくり、おバカさんになって憂さを晴らした先祖伝来の村祭りと同じ祝祭空間であることを考えれば、まったく野暮なことです(トホホ)。

確かに、今振り返っても、手足をくねらせて踊り狂うのは恥ずかしい。バブルに踊らされるのも恥ずかしい。でも、あ〜あ、それでも人は、踊らずにはいられないのです。

――この人たちのCDは、ベストも個別アルバムも豊富に出ています。特に最近、日本で発売されたZTT編集盤「フランキー・セッド(Frankie Said)」(下写真)は、各種出ている12インチシングルのうちの貴重盤も含めて網羅的に収録されていて面白いと思います。

Frankie Said


トロカデロ・トランスファー (Trocadero Transfer)

Trocadero Transfer今回は少し趣向を変えて、最近届いたCDセットを紹介しようと思います。「Remember The Party---Celebrating The 30th Anniversary of the Trocadero Transfer」というミックスCD8枚組であります。

トロカデロ・トランスファーというのは、1977年から90年代初頭まで、米サンフランシスコで営業していた、地元のゲイたちに大人気だった伝説のディスコ。ゲイ系ディスコとしては、東海岸NYのセイント(The Saint)と並ぶ巨大な存在でした。

CDセットには、昨年10月に開かれた「トロカデロ復活パーティー」で使用された全126曲が収められています。全曲、サンフランシスコに住むジェリー・ホンハムというベテランDJがプレイしています。

昨年9月ごろ、以前に「番外編」で紹介した現地在住のディスコ関係者の友人から、「トロカデロの30周年パーティーが開かれる。私も行って久しぶりに燃え上がろうと思っているのだ!」とメールをもらいました。どんな感じなのだろうかと興味を抱いていたのですが、そのときのCDが発売されたことが分かり、トロカデロのホームページから勇んで購入してみたというわけです。

いやあ、聴いてみたら相当によかった。選曲はまさに、私が最もディスコにはまっていた70年代後半から80年代前半にかけての隠れた名曲たちでした。“ゲイ”ディスコといっても、日本では性愛的志向(Sexual Orientation)に関係なく、一般的に大いに好まれていた曲だったのです。

ビレッジ・ピープルとかドナサマーなどの特大ヒットを微妙に外しつつ、それでもしっかり「メリハリ」「上げ下げ」を意識しながら繋いでいっております。一部にボーカルが重なる部分があるのが少〜し気になりましたが、次の曲のボリュームを上げるなどして、巧みに盛り上げております。

具体的な曲名はホームページに書いてある通りで、ブラコンからハイエナジー、ニューウェーブ系までさまざま。ただ、どちらかというと陽気な白人系の曲が多い一方で黒人ソウル系は少なく、そこがいかにも西海岸的だと思いました。もちろん、パトリック・カウリー、シルベスターなど、サンフランシスコにゆかりのある大物アーチストの曲も入っています。

圧巻は、Vol.5に収録されているゲイディスコの“お約束”「Lay Your Love On Me」(アバ)ですね。エコーのエフェクトが効いて、ものすごくテンションが上がる場面になっています。これについては、購入後のメールのやり取りの際、幸運にもジェリー・ボンハム氏自身が説明してくれました。なんと、これまた伝説のDJ用「ディスコネットミックス」の12インチを3枚、即興で使用してオリジナルのミックスにしたのだそうです。

トロカデロでは、パトリック、シルベスターのほか、デニス・ラサールやボーイズ・タウン・ギャングやポール・パーカーなどなど、著名なディスコミュージシャンが頻繁に出入りし、ライブやプロモーション活動を行っていました。ホームページの写真集のコーナーにも、いろんな有名人の顔が見えます。

けれども、パトリックもシルベスターも、ほかの多くのゲイアーチストと同様にエイズで亡くなっています。前述の友人も言っていましたが、今回のパーティーはある意味で「弔いの集い」だったともいえるでしょう。

ホームページの写真を見ても分かるように、パーティー当日にはたくさんの中年ゲイたちが集まり、上半身裸になって(ゲイの特徴とされる)狂喜乱舞した模様です。パーティー関係者のブログでも少し紹介されています。日本でディスコ復活パーティーを開いても、ゲイが自己主張することはほとんどありませんから、このへんは日本と米国(特にサンフランシスコ)との大きな違いといえましょうか。

普通、DJミックスCDは1〜2枚でワンセットでして、一挙に8枚というのは珍しいわけですが、これだけボリュームがあると、パーティーそのものを追体験した気にもなってまいります。音質も申し分なし。私が所有する数多くのDJミックスCDの中でも、屈指の出来栄えです。

・・・・・とベタぼめですけど、値段は送料込みで58ドル(6000円弱)しました。でも8枚組なので安い方だと思います。円高ですし。PayPalでの購入ですので、英語力はほとんど必要ありません。わざわざ海外から入手するだけの価値はあります。久しぶりのおススメ品であります。

最後に、このミックスの収録曲のうち、当時の“いけいけ”トロカデロを象徴するような3曲のYouTubeリンクを張っておきましょう。

●Without Your Love (Cut Glass)(オリジナルはなかったので、あのIan Levineバージョン)


●The Two Of Us (Ronnie Jones & Claudja Barry)


●The Runner (The Three Degrees)



*2008年6月11日追記
このCDセット、約3ヶ月前に輸入レコード店のDisk Unionに紹介してみたら、どうやら発売になったようです。当ブログは非営利の批評媒体である上(だから各CDなどの良いことも良くないことも書ける)、私も別にTrocaderoの代理人ではないのですが(笑)、ブログでも前もって紹介した手前、参考までにリンクを張っておきます!↓

http://diskunion.net/black/ct/detail/54C080425001

メガトン・クラシックス (12 by 12 Megatone Classics)

Mogatone夏休みシーズンですが、いかがお過ごしですか?……というわけで、暑さで脱力ぎみの私は今回、大好きなメガトンレーベルを改めてご紹介いたします。前回紹介のシェリー・ペインの続きでもあります。

メガトンレコードは1981年、“ゲイの都”米サンフランシスコで設立されました。創業の中心になったのは、天才シンセサイザー・プレイヤーのパトリック・カウリーと、仲間の音楽プロデューサーのマーティー・ブレクマン。80年代に隆盛を極めたハイエナジーサウンドのヒット曲を連発しました。

メガトン・サウンドの中心になったのは、何といってもパトリック様。彼が作り出した音楽は、今にいたっても再評価され続けるほど、時代を超えた魅力があります。

まだ電子楽器が未発達だったにもかかわらず、イントロ、ブレイクからエンディングに至るまで、凝りに凝った重厚な音作りを行っており、まさに「楽しく踊るためのディスコ音楽」という点では、最高峰の位置にあるとさえ思います。

このレーベルから曲をリリースしたアーチストには、シルベスター、ポール・パーカー、モダン・ロケトリーなどがいまして、これも実に多彩であります。私も当時、ずいぶんとレコードを集めましたし、ディスコでリクエストもしました。踊りまくった曲は数知れず、であります。

共通項はやはり、その多くが「ゲイ・アーチスト」だということ。音楽的には、めちゃめちゃ明るくてソリッドなシンセ使いと、ソウルフルでパワー溢れるボーカルが特徴であります。

女性ボーカルもなかなか充実しておりました。「ラスト・コール」「ソウル」などのヒットで知られる、ジョー・キャロル(2003年に死去)とローレン・カーターのデュオ「JOLO(ジョロ)」なんていうものいました。彼女たちは、パトリック・カウリーのお気に入りで、彼名義のヒット曲「メナジー」などでボーカルを務めています。

さらに特筆すべきは、シェリー・ペインのような「元大物」をときどき起用していたことでしょう。「ナッシング・フロム・ナッシング」などのヒット曲で知られるビリー・プレストン、元ラベルのサラ・ダッシュなどが、思いっきりハイエナジーな曲をリリースしていました。メジャーでは影が薄くなっても、世界のダンスフロアをギンギンに盛り上げていたわけですね。

それでも、最盛期は数年と持ちませんでした。以前に紹介したモビーディック・レーベル同様、中心人物が次々とAIDSで亡くなっていったのが主な原因です。パトリックは82年に既に死亡しており、創業仲間のマーティーも91年にこの世を去りました。代表的歌手だったシルベスターも88年に亡くなっています。

こうした逆境の中、メガトンは94年、その短い歴史の幕を閉じました。それでも、輝ける星たちを育て、かつ後世に残る音楽を残していった稀有なディスコレーベルだといえます。

写真のCDは、1990年ごろに発売されたメガトンレーベルのベスト盤「メガトン・クラシックス」。Vol.1とVol.2があります。内容は、シルベスター、ビリー・プレストン、JOLOなどなど、代表アーチストが目白押しです。でも、ここがマイナーなディスコ音楽業界の辛いところでして、最近は非常に手に入りにくくなっています。12インチでこつこつと集める方が確実かもしれません。
プロフィール

mrkick (Mr. Kick)

「ディスコのことならディスコ堂」----本名・菊地正憲。何かと誤解されるディスコを擁護し、「実は解放と融合の象徴だった」と小さく訴える孤高のディスコ研究家。1965年北海道生まれのバブル世代。本業は雑誌、論壇誌、経済誌などに執筆する元新聞記者のジャーナリスト/ライター/翻訳家。もはや踊る機会はなくなったが、CD&レコードの収集だけは37年前から地味〜に続行中。アドレスは↓
mrkick2000@gmail.com

*「下線リンクのある曲名」をクリックすると、YouTubeなどの音声動画で試聴できます(リンク切れや、動画掲載者の著作権等の問題で削除されている場合はご自身で検索を!)。
*最近多忙のため、曲名質問には基本的にお答えできません。悪しからずご了承ください。
*「ディスコ堂」の記事等の著作権はすべて作者mrkick(菊地正憲)に帰属します。

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