ディスコ堂 by mrkick

音楽に貴賎なし ―Discoの考察とCD批評

ヒューマン・リーグ

オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク (O.M.D.)

OMD近年、80年代モノが世界的に再発されています。私としてはシンセサイザー、特に80年代前半に流行した素朴なアナログシンセがふんだんに使われた英国ニューウェーブサウンドがどうしても忘れがたい。

中でも、今回取り上げるOMDは、もう自分でもうんざりするほど聴きました。これまでに紹介したヒューマン・リーグニューオーダーデペッシュ・モードなどにも共通する憂鬱な薄暗い音が持ち味。とはいえ、そんな知的で都会的な感覚とは一味違う、独特の繊細さと温かさを感じます。カッコいいようでいて、どこか無防備な親しみやすさがある。つまり、よりディスコフロアに近い音なのでした。

英リバプールで70年代後半に結成。特に、昔日本のニュース番組「CNNデイウォッチ」のオープニングテーマにも使われた「エノラゲイ」(81年)は、彼らの代表曲の一つです。明るくて楽しい曲調ですが、なんと広島に原爆を落とした米軍機「エノラゲイ」のことを歌っていたりするある種の反戦歌。エノラゲイを子供になぞらえて(実際、米軍は広島の原子爆弾を「リトルボーイ」と呼んでいた)、「エノラゲイよ、君は昨日、(出撃などせず)家にいるべきだった…」というフレーズで始まり、「今、君の母親は君を誇りに思っているだろうか」などと展開するかなり直球な歌詞。

…なんだか頭(こうべ)を垂れてしまうわけですが、ディスコで踊っているときはそんなのお構いなしに“ザ・フィーバー”でありました。

ほかにも、シンセサイザーが「ピコピコピー♪」と鳴り響く間奏に哀感が漂う「テレグラフ」(83年)、牧歌的な曲調で遊園地のメリーゴーランドに乗ってるみたいな錯覚に陥る「シークレット」(85年)、全米ビルボードチャート4位まで上昇した切ない系ミデアムテンポ「イフ・ユー・リーブ」(86年)、いきなり正統派ポップスな感じになっちゃった「ドリーミング」(88年、ビルボード一般16位、全米ディスコ6位)などなど、いずれも「いやあこりゃ80年代に違いないわ」というディスコテイストな曲が目白押しです。

まあデジタル化が進んだ90年代になると、彼らの音もシャカシャカし過ぎてきちゃって興味を失ってしまったわけですが、80年代までの彼らの音楽には、今も無性に聴きたくなる「シンプル・イズ・ベスト」な分かりやすさがあります。「頭ではなく体で聴く」のがディスコの基本ですので、小難しい理屈など最初からいらないのかもしれませんがね。

CDはベスト盤、アルバム再発とものけっこう出ていますので心配御無用。写真の独盤「So80s OMD」はヒット曲の12インチ集で、「テレグラフ」とか「シークレット」とか「イフ・ユー・リーブ」などのロングバージョンが入っていて面白い内容となっております。

ヘブン17 (Heaven 17)

Heaven 17沈滞ムードの夏枯れ8月。第343回記念(中途半端)の今回は、起死回生を図るべくイギリスの3人組「ヘブン17」で〜す。

私にとってはまず、この人々においては「We Live So Fast」(1983年)であります。言い換えれば、「人生は短い(Life is short.)」……。なんだか沁みます、泣けます、せつな過ぎる。

がしかし、その実体は、「人生は短い。時間を無駄にするな。だから急げ、進め、行動せよ!」……そんな「窮地から一転、あおり系ディスコ」なのです。ネット社会の到来で、何事も急ぎ足になってしまった21世紀を既に暗示しているかのようです。同時期に活躍したブロンスキ・ビート(以前の投稿参照)の“お急ぎディスコ”「ヒット・ザット・パーフェクト・ビート」にも近い感じです。

この曲は、故郷札幌のディスコでよく耳にしました。文字通り、せわしないことこの上ないのですが、踊っていてたいそう楽しい曲でした。勇躍、そして欣喜雀躍。魂が天空を突き抜けます。よお〜し今宵はすべてを忘れて盛り上がるぞい! ってなわけで、この曲がかかると嬉しかった。

と、ここで冷静になって、耳を澄まして聴いてみる。すると、どうでしょう。当時としては相当に斬新で深みのあるシンセサイザーの音色、畳み掛けるビート進行、そして何よりも、バリトン系のよく通るボーカル(Glenn Gregory)&調和のとれたコーラスが、かなりの美的センスを漂わせているのが分かります。

それもそのはず、彼ら3人のうち2人までが、80年代前半に世界のヒットチャートを席巻した英シンセ・ニューウェーブの雄「ヒューマンリーグ」の出身。演奏、曲作りともに、大衆受け万全の“大ダンスポップ祭り”の系譜を受け継いでいるのでした。加えて、モータウンやアースウィンド・アンド・ファイヤーなどの黒人ダンスミュージックの要素も随所に取り入れているのが特徴です。

ただ、チャート的には、出身グループと比べると残念ながらいまひとつ。写真のアルバム「ラグジュアリー・ギャップ(Luxuary Gap)」(83年)と、そのシングルカット「Let Me Go」(米ディスコチャート4位)と「Temptation」(同34位)などが目立つ程度です。

私の好きな「Live So Fast」もこのアルバムに収録されていた曲です。つまり、ディスコ的には、このアルバム1枚あれば、まずはヘブン17を十分堪能できることになる、と思っています。まずまずメジャーな人々ですので、再発CDも輸入盤ですがちゃんと出ています(しかも安価)。
プロフィール

mrkick (Mr. Kick)

「ディスコのことならディスコ堂」----本名・菊地正憲。何かと誤解されるディスコを擁護し、「実は解放と融合の象徴だった」と小さく訴える孤高のディスコ研究家。1965年北海道生まれのバブル世代。本業は雑誌、論壇誌、経済誌などに執筆する元新聞記者のジャーナリスト/ライター/翻訳家。もはや踊る機会はなくなったが、CD&レコードの収集だけは37年前から地味〜に続行中。アドレスは↓
mrkick2000@gmail.com

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