
文字通りマイク・シオドアというミュージシャンが中心人物。1977年発売のアルバム「コズミック・ウィンド」のうち、「コズミック・ウィンド/ザ・ブル/ベリー・ブギー」のA面3曲がセットでディスコチャート2位まで上昇しました。いずれも70年代後半の「シンセ無しディスコ」時代の典型的な曲で、良い意味でのディスコ的ミーハーさには欠けるものの、イージーリスニング風で、どこでも安心して聴けるようなややのどかな音色です。
マイク・シオドアは米中西部の自動車生産基地であるデトロイトの出身。キング・エリッソンのプロデュースを共同で担当したギタリストのデニス・コフィー(Dennis Coffey)とは同郷の白人同士の盟友ですが、二人とも黒人音楽の影響をモロに受けています。デニスはこの「コズミック・ウィンド」にも参加しています。ちなみにミックスは、またもやトム・モールトンです。
特にデニスは、これまた同じデトロイトのソウル/R&Bの有名レーベルである「モータウン」(モータウン=モータータウン=自動車のマチ=デトロイトの俗称)との関係が深く、独特の音色を奏でる腕っこきギタリストとして、マービン・ゲイやテンプテーションズなどのさまざまな大物黒人アーチストとコラボレートしたことでも知られています。自身名義でも「スコーピオ」(72年)なんていうファンク風の名曲を出していますね。
私がマイク・シオドア・オーケストラに注目したいのは、「デトロイト系ディスコ」という点に尽きます。ニューヨーク、米西海岸、フロリダが中心だった米国ディスコ界にあっては、ちょっと珍しい存在なのですね。
マイク、デニスともに、ディスコの枠では収まらない人々ですけど、「車工場のマチからディスコが飛び出した」という意味でけっこう異色だといえます(モータウン・レーベルがデトロイト起源ということ自体がそもそも異色だが)。後の90年代にデトロイト・テクノが隆盛を誇ったことや、同じ中西部地区にあってデトロイトと近いシカゴで世界初のハウス・ミュージックが発展していったという事実も、ディスコ/クラブ史を考える上では興味をそそります。
五大湖の豊富な水資源に恵まれたデトロイトには20世紀初頭、フォード社が大工場を建設し、米国南部から大量の黒人労働者を集め、工業都市として発展した歴史があります。意外にソウル、ファンクなどの黒人音楽がデトロイトで開花したことについても、こうした労働者たちが音楽文化を伴って移入してきたという背景があるわけです。
マイク・シオドア・オーケストラは、その後1979年にも「High On Mad Mountain」というディスコ・アルバムを出しています。このうち「Disco People」という曲が米ディスコチャート8位まで上昇しました。このアルバムは、ディスコブームがピークを迎えた年の発売だったこともあり、さらにディスコ色が濃厚です。
WestboundはなぜかCD再発率が高いレーベル。マイク・シオドアについても、上記のディスコアルバム2枚が1枚にカップリングされて発売されています(写真)。コアなディスコファンにとっては、ありがたいことではないかと思っています。そんなに売れないでしょうが。